2月28日から販売が開始されるAppleの新モデル「iPhone 16e」。ストレージ容量が128GBの最廉価モデルが直販価格で9万9800円だが、今回は容量512GBのiPhone 16e(ブラックモデル/14万4800円)をいち早くレビューする機会を得た。
iPhone 16eは、Apple Intelligenceを前提としたiPhoneの新しいラインアップのエントリーモデル――別の記事で書いたこの見立ては実機を触っても変わらないが、それがどのような使い心地かを理解する解像度が少し向上した。この記事ではそれをお届けしたい。
本製品のメインターゲットは、iPhoneを極めて基本的なことにしか使っていない人たちや、あまりスマートフォンにお金をかけたくない人たちなので、記事前半はそういった人たちの視点で書きたいと思っている。
一方、自分は上位モデルを買うけれど、純粋にiPhone新製品として興味を持っている人もいると思う。そこで、記事の後半ではベンチマークテスト(性能検証)の詳細な分析などを通して、Appleが新しいエントリーモデルをどのようにデザイン(再定義)したのかに迫りたい。
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●特別な使い方をしない人のためのiPhone
冒頭でも書いたが、iPhone 16eの主なターゲットはiPhoneを極めて基本的なことにしか使っていない人たちや、あまりスマートフォンにお金をかけたくない人たちだ。
用途で言えば、以下のような利用が中心の人たちだろう。
・メールやWebブラウジング
・LINEなどのメッセージ
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・動画の視聴/音楽再生
・読書/メモ
・簡単な写真撮影
・予定の確認や地図の確認
・決済端末として
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・単純なゲーム
ズームや超広角レンズを使った凝った撮影をしたい人、磁石を使ってピタッとくっつく快適充電機能のMagSafeを使いたい人は、3〜4万円ほど高価なiPhone 16/16 Plusを選ぶべきだ。
また、5倍ズームの望遠やレーザー測量技術を使った3Dスキャニング、使っていない時でも点灯したままのディスプレイ、業務用レベルの品質での写真やビデオの撮影が必要な人は、6〜9万円ほど高価なiPhone 16 Pro/16 Pro Maxを選ぶことになる。
iPhone 16eの価値は、iPhoneとしてごく基本的な機能を最も手頃な価格で提供することにある。手頃とはいえ、長く続く円安のせいで9万9800円からと高価になってしまったと嘆く人たちがいるかもしれない。
だが、この不安は電話会社が解消してくれそうで、本体をわずか1円や数十円で入手できる購入プランが発表されている。ただし、一定期間(2年間)の契約が必要だったり、通信料金を合算すると割高になったり、契約後に端末を返品する必要があったりと、諸条件には注意が必要だ。それについてはぜひITmediaの他の記事を参考にしてほしい。
本製品の購入を検討しているユーザーの多くは、おそらくこの5年以上iPhoneを新調しておらず、iPhone 11以前(あるいは2020年登場の第2世代のiPhone SE以前)を使っているユーザーだろう。電話会社の購入プランを見つけて、iPhone 16eに切り替えれば、以下の点で「最近のiPhoneはこんなにすごいのか」と確実に驚き、そして満足することだろう。
・大きく明るく見やすいディスプレイ
・全ての動作が軽快に感じるパフォーマンス
・驚くほどきれいに写真を撮れるカメラ
・モバイルバッテリー不要で丸1日持ってしまうバッテリー駆動時間
iPhone 16eへの乗り換えにあたって、まだ持っていない場合は本体以外にもUSB Type-C端子に対応した充電器や本体ケースを買う必要がある。しかし、これも大した出費にはならない。むしろ、これまでのiPhoneが非対応で使えていなかった紛失防止タグのAirTagや、USB Type-C対応の周辺機器を買う欲が出てくる可能性もある。
ここで、AirTagに関しては1つ注意が必要だ。iPhone 16eでは、AirTagを数m単位で探すことはできるが、上位モデルのようにUWB(Ultra Wide Band)という技術を使って数十cm単位で位置を特定する「正確な場所を見つける」は使えない。
さて、以下では触ったからこそ分かる、もっと具体的なiPhone 16e像に迫ろう。
●デザインと外観の特徴
iPhone 16eを一言で表すなら、iPhoneの新しい「ベーシック(基本)モデル」だ。
背面のカメラのレンズも1つだけで、製品の外観も極めて“ベーシック”でシンプル。もっとも、このカメラがiPhone SEやかつての数年前のモデルと比べると直径が大きく(約1.4cm)それなりに存在感があり、位置的にも座りが良い。上位モデルであるiPhone 16のレンズと縁の仕上げや大きさが近く、同じファミリーの製品だと一目で分かる。
製品の大きさ、厚み、そしてレンズの大きさと位置が、これ以外にないというくらいに良いバランスで引き締まった印象を与える。よく、子供でも簡単に線画で描ける形こそが力強い形と言われるが、iPhone 16eの背面はまさにその境地に達していると感じさせられる。
2つのカラーバリエーションがあるiPhone 16e。ホワイトモデルは背面が白で側面がシルバーという白いiPhoneの伝統的な2トーンカラーだが、今回試したブラックモデルは全面が黒だ。画面を消すと光沢を放つレンズを除けば、表も裏も真っ黒で、ただの黒い板に見え、見た目的にも極めてシンプル・ベーシックになっていて好感が持てる。
安価なスマートフォンといえばほとんどがプラスチック製だが、iPhone 16eはブランド品ならではの高級感だけでなく、環境への配慮もあって背面はガラス、側面はアルミだ。素材が異なれば色をそろえるのは難しいはず。1枚の黒い板に見える背景には、かなり丁寧な仕事が潜んでいるのを感じさせる。
左側面をよく見ると実は上からアクションボタン、上下の音量ボタン、そしてSIMスロットが潜んでいたことに気が付く。そして右側面には電源を入れたり節電モードにしたりするサイドボタンが控え目にたたずんでいる。
一番手に触れている時間が長い、本体背面は微細な梨地仕上げの加工が施してあって「サラ冷や」な触感に仕上がっている。夏場に長時間ビデオ撮影をして本体が熱くなってきた際にはうれしい設計だ。
iPhoneのレンズというと、ある時点から本体から思いっきり飛び出すような厚みのあるデザインになり、その存在感が製品のアイデンティティーとなってきた。そんな中、iPhone 16eのレンズは飛び出し方がかなり控え目だ。iPhone 16や16 Proでは、そもそも複数のレンズを囲むようにプレート状の起伏があったが、iPhone 16eはこれもなく本体からまん丸いレンズが飛び出しただけという、初期のiPhoneを思い出させるシンプルな製品シルエットになっている(ただし、レンズの横には目立たないようにマイクとフラッシュもある)。
画面はサイズが6.1型でiPhone 16/16 Proと同じサイズだが、顔認証のFace IDで使う赤外線カメラや、自撮り用のTrueDepthフロントカメラは画面上端のノッチと呼ばれる部分に仕込まれている。
上位モデルでは、このノッチがダイナミックアイランドというタッチ操作ができる操作部に進化しており、再生中の音楽や地図の経路案内の縮小表示などが可能だ。ところが、iPhone 16eでは残念ながらこのダイナミックアイランド機能は利用できない。もっとも、これまでiPhone SEやiPhone 14以前と同じ使い勝手なので、ターゲットユーザーの中には、それほど不満を持つ人はいないだろう。
これまでiPhone SEを使ってきた人にとって大きな変化は、画面が大きくなってホームボタンがなくなり、指紋認証ではなく顔認証になったことだ。変化に戸惑う人がいるかもしれないが、心配はいらない。
ホームボタンがなくなった最初のモデルである「iPhone X」が登場してから7年以上が経ったが、ほとんどの人がすぐに新しい操作に慣れており、ホームボタンがなくなって困ったという声は今ではほとんど聞こえてこない。よくマスクをつけている人は顔認証処理が行われるか心配かもしれないが、マスクなしでは顔認証されないという問題も、コロナ禍にほぼ解消されている。
●カメラ性能とユーザー体験
それよりかは、iPhone 16eに切り替えたことで、新しくできるようになったことに注目してみよう。
まずはカメラだが、撮れる写真が圧倒的にきれいなことに驚かされるはずだ。特にiPhone 11よりも前のモデルにはなかったAIを使った処理で、そうでなくてもきれいに撮れる写真がさらに美しい仕上がりで瞬時に表示される(つまり、被写体がよりくっきり写り、暗くして沈んでいた部分もしっかり見えるようになったりする)。
ディスプレイが、古いiPhoneでは表現できない明るさを表現できるので、太陽の光の中で撮った写真などはさらに旧モデルと見た目の差がつくはずだ。
一方で、暗いところの撮影も強い。暗い箇所では自動的にナイトモードというシャッター速度を長めにする撮影モードが起動する。従来の「カシャッ」というシャッター音でなく、「チャッ!」という音の後にしばらく「ジー」という音が鳴るので、その間はしばらくできるだけ動かずにカメラを構えておく必要がある。
この撮影方法で、人間の目でもはっきり見えないくらい暗い部屋の様子も、まるで明かりをつけているかのような明るさで撮れてしまう。
ただ、あえて暗い雰囲気を残したい場合やサッと撮影したいときなど、ナイトモードが煩わしいこともあるので、ナイトモードのアイコンを覚えておいて、必要に応じてタップしてオフに切り替えることも覚えておくと、いざという時役立つはずだ。
●4月から始まる未来とApple Intelligenceへの対応
ところで、このiPhone 16eで特筆すべきは、今どきの日常使いだけでなく数年後の日常使いにも対応していることだろう。それは、Apple Intelligenceへの対応だ。
現在は英語圏のみ対応のApple Intelligenceだが、4月には日本語にも対応することが発表され、既に開発者向けのβ版の配布も始まった。
これまで、あまり積極的に最新機能を使ってこなかった人の中には、Apple Intelligenceも使わないと思っている人がいるかもしれない。だが、Apple Intelligenceは、新たに追加される機能というよりかは、iPhoneの使い方の本質的な変化だと筆者は考えている。
例えば、何か調べ物をしたいとき、これまではSafariを起動して検索キーワードを打ち込んで探していたはずだ。ところが、Apple Intelligenceの時代には、Siriを使って声で(あるいはSiriがキーボードを使った文字入力にも対応するので打ち込んで)知りたいことを入力する。そこでSiriが答えられる内容だったらSiriが答え、Siriは答えられないけれどChatGPTなら答えられそうなら、ユーザーに確認の上でChatGPTに仕事を“外注”し、返って来た答えをSiriが教えてくれる。
今流行している生成AIの多くは、ユーザーがリクエストすれば大抵の問いには答えてくれる汎用(はんよう)性の高い対話型のサービスになっているが、何でもできるということは、逆に何ができるのかが分かりにくく、初心者には使われにくいという難点がある。
一方、Apple Intelligenceはさまざまな形でiPhoneの体験そのものに統合されている。
例を挙げると、通知の内容を理解してユーザーにとってどれが大事かを判断し、優先順位をつけるというOS機能にも使われている。
他にも、ワープロやメールなど文章入力機能のあるアプリで呼び出して使える作文ツール機能(文章を作成したり、校正したり、文体を変えたりできる)というアプリ共通機能としても組み込まれている。
グループメールがたまってしまい、読んでいないやり取りを要約して提示してくれる機能のように、標準の「メール」アプリに組み込まれたApple Intelligenceもある。さらには絵を描画したり加工したりしてくれる、「Image Playground」というアプリの形でも提供されている。
まるで、おでんの種のようにApple Intelligenceには多種多様な形態がある。
AIがどんなことに使えそうかを社内で応用例を話し合って、「こんなことができそうだ」「それは、どのような形でユーザーに提供したら一番分かりやすく使ってもらえそうか」といった議論を重ねて設計されているのを感じる。非常に手間のかかったAI統合なのだ。
そんなApple Intelligenceの機能の中でも、目玉となっているのが「Siriの音声操作」や「作文ツール」、そして「Visual Intelligence」という機能だ。
Visual Intelligenceは、iPhone 16eではアクションボタンに割り当てて呼び出し、iPhone 16/16 Plus/16 Pro/16 Pro Maxではカメラコントロールを使って呼び出す。
呼び出すとiPhoneがカメラのような状態になるので、これを使って以下のようなことができる。
・動植物の種類を調べる
・カメラに写っている文章を読み上げたり、要約したりする
・撮影した名刺の名前やメールアドレス、電話番号を認識して必要なら連絡先に加える
・ポスターやチラシの文章を翻訳する
・Google 検索をする
・ChatGPTを使ってより詳しい情報を得る
もちろん、これは4月時点での機能で、今後はお店の情報を調べたり、観光名所を認識して情報を教えてくれたりといったことも可能になるだろう。
よく見かける他社のAI統合は、OSの検索画面やアプリの画面に大規模言語モデルのチャット機能をくっつけただけのものが多い。
しかしApple Intelligenceはそうではなく、ユーザーとさまざまなAI、さまざまなアプリを仕切る番頭のような立ち位置で、ユーザーからのリクエストを、どのAIあるいはどのアプリなら答えてくれそうかを判断して処理を割り振ったり、返って来た結果をユーザーに伝える設計になっている。
現在は他社AIで連携しているのはChatGPTのみだが、GoogleのGeminiと連携するうわさも出始めている。また、現在iPhone用に提供されているルート検索アプリや、画像認識機能を備えた植物辞典といったアプリやアプリが提供している機能などもApple Intelligenceの外注先として活用される。
それを考えると、あと数年するとiPhoneの使い方はアプリを起動して操作するモデルから、Apple Intelligenceを介してアプリ内のインテリジェンスを呼び出す形に徐々に移行していくことが想像できる。
そして、これが数年後のiPhoneの日常的な使い方だとしたら、少なくとも5年間は使えることを目指しているiPhone 16eとしても、Apple Intelligenceに対応しないわけにはいかなかった、ということではないだろうか。
ちなみに、Apple Intelligenceがすごいのは、ChatGPTへの外注も含めてこうした全てのAI処理がユーザーのプライバシーを一切危険にさらさずに行われていることだろう。だが、それについての説明はここでは割愛させてもらう。
●ベンチマーク評価とハードウェア性能
最後に、純粋にiPhone 16eのハードに興味がある人たちのために、もう少し深掘りした検証を行ってみよう。まずは、おなじみのGeekbenchを使ったテスト結果だが、今回はここのテストの内容についてもう少し踏み込んで分析してみたい。
iPhone 16eが搭載するプロセッサは、A18でiPhone 16と同じだ。このためCPU性能を比較するとiPhone 16もたいして差がない(A18 Proを搭載したiPhone 16 Proも性能向上は10%に満たない)。
一番性能差が出ているのは、GPU関連の処理だ。実はiPhone 16eが搭載するA18はGPUコアが4基だ。一方、iPhone 16は同じA18でも5基のGPUコアを備えている。このため、Geekbenchのトータルスコアで18%ほど処理が速く、背景ぼかしや粒子物理など一部のテストでは23%ほどの性能差が出ている。高解像度グラフィックスのゲームなどでは差が感じられるかもしれない差異だ(ちなみに、iPhone 16 Proは39%とさらに差がついている)。
ただ前モデルのiPhone 15との比較では、iPhone 16eの方がCPU性能で26%、GPU性能では52%ほど高速だ。やはり、将来性を考えても前モデルを買うくらいならiPhone 16eを買った方がいいとお勧めしたくなる。
では、Apple Intelligenceの処理で重要なNeural Engineの性能差はどうだろうか。
テストツールのGeekbenchには、Neural Engineを試す機能がないため、ここではGeekbench AIを使って検証を行った。するとiPhone 15とiPhone 16eでは、Neural Engineの性能にほとんど差がないという結果が出た。
さらに検証してみると、トータルのスコアでは性能に差が出なかったが、一部のテスト内容ではさらに差が出ていたことが分かった。Geekbench AIは何もApple Intelligenceの性能を検証するアプリではなく、一般的なAI的な処理にかかる時間をテストしているだけだ。
一方、A18のNeural EngineはApple Intelligenceに向けた最適化が行われている。
Neural Engine処理では数値をどう表現するかが鍵で、単精度(Single Precision/32bit浮動小数点表現)、半精度(Half Precision/16bit浮動小数点)、クォーター精度(Quarter Precision/8bit浮動小数点)といった表現方法がある(以下、SP/HP/QPと略す)。
Geekbench AIでは、この3つを同等に扱っているが、Apple IntelligenceではHPが最もバランスが良く、より高速な処理が求められる場合にはQPを使用し、SPはメモリやエネルギーの消費が大きいためあまり使っていない。
そこで改めてiPhone 15とiPhone 16eのHPとQPの性能を比較すると、それぞれ60%、87%高速になっていることが分かった。iPhone 16eが搭載するA18のNeural EngineはこのようにしてApple Intelligence最適化が計られているのだ。
iPhone 16eは、iPhoneに詳しい人がプロセッサ性能以外で気になるのはMagSafeに対応していないことだろう。実は驚いたことにiPhone 16eはMagSafeによる位置合わせはできないものの磁石にはくっつくようで、MagSafe充電器の上に置いたら本体にくっついた。とはいえ、Qi充電なので、ここでちゃんと充電できるように本体と充電器の位置合わせを手探りでする必要がある。
Androidスマートフォンの中には位置合わせが難しいものがあるが、製品の重量バランスや物理形状が考えられているせいか、iPhone 16eは毎回ほぼ一発で位置合わせができている(もしかしたら、磁石でくっついていることも関係あるのかもしれない)。しかし、この辺りは主観的なので、実際に製品が出荷してからネットの評判を確認してほしい。
ちなみに、筆者はこの問題についてはさほど心配していない。というのも、既に多くのメーカーがMagSafe用の磁石を内蔵したiPhone 16e用のケースを発表しているからだ。最近ではAndroid系のスマートフォンでもMagSafe対応ケースが増えているが、こうしたケースを装着することでiPhone 16eでもMagSafeの快適さを味わえるはずだ。
といろいろ述べてきたが、本製品を買う人のほとんどは、そこまでのこだわりはないはず。そして彼らのニーズであれば、iPhone 16eには必要十分な機能が用意されている。価格まで含めたバランスで考えると、これがiPhoneの新しいベースラインということになる。
Appleがかなり熟考に熟考を重ねた仕様ではないかと、実機を検証してみて改めて感じた。
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