「iPhone 16e」は、従来の「iPhone SE (第3世代)」の事実上の後継となるiPhoneの新しいエントリーモデルだ。
Appleはこのモデルを「iPhone 16ファミリーの最もお求めやすいメンバー」と紹介しているが、初出時の直販価格は9万9800円(128GBモデル)からと、iPhone SE(第3世代)の当初価格(64GBモデルで6万2800円)と比べると高くなっている。
同社の価格戦略や端末の位置付けを分かりやすくするため、ここでは米ドルベースの価格で話を進めるが、599ドルからという価格設定は、かつてのiPhone SE(第3世代)の429ドル(当初価格)と「iPhone 16」の799ドルの中間よりも、少しだけ安価だ。
もっとも、これは値上げを意図したものではなく、性能や機能の底上げによって製品の位置付けが変化したからと考えた方が自然だ。実際、iPhone 16eのハードウェア仕様はi、Phone 14のカメラをシングルにした上で、カメラセンサーやSoC、バッテリー、セルラーモデムを最新世代にリフレッシュした構成だ。実際にiPhone 16eを使ってみると、iPhone 16シリーズ向けに開発された最新技術をしっかりと詰め込んでいる一方で、価格を抑えるためにあえて割り切っている部分も随所に見られる。
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エントリークラスのiPhoneは、ある時代に提供したいとAppleが考える基礎的な性能と機能を提供するベースラインの性能を提供するよう考えられている。では、AppleがiPhone 16eを通して提供したい「本質的な価値」とは何だろうか。
●大きな有機ELディスプレイで「iPhone 14ライク」な雰囲気
iPhone SEシリーズと比べた際に、iPhone 16eの外観における一番の1番の大きな違いは、前面全体を覆う「オールスクリーンデザイン」を採用していることだ。
iPhone SEの第2/第3世代は「iPhone 8」のボディーをベースに開発されている。4.7型液晶ディスプレイに「Touch ID(指紋センサー)」を内蔵したホームボタンといういでたちは「2017年スタイル」を踏襲したものだ。
一方、iPhone 16eは6.1型有機ELディスプレイを採用して大画面化と高画質化を同時に実現している。これに伴い、Face ID(顔認証ユニット)を備えるノッチ付きスクリーンとなり、現代的なiPhoneの姿になった。前面をパッと見た雰囲気は「iPhone 14シリーズ」をほうふつとさせる。
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「過去モデルのボディーを使った、コンパクトかつ高性能なiPhone」だったiPhone SEシリーズは姿を消し、その代わりにナンバーシリーズのiPhoneにエントリークラスのバリエーションが生まれたともいえる。
iPhone SE(第3世代)やiPhone 16ファミリーのディスプレイ回りの主なスペックをまとめると、以下の通りだ。
・iPhone SE(第3世代、2022年)
・サイズ/パネル種類:4.7型IPS液晶
・パネル解像度:750×1334ピクセル
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・リフレッシュレート:60Hz
・外観上の特徴:厚いベゼル+ホームボタン(Touch ID搭載)
iPhone 16e (2025年)
・サイズ/パネル種類:6.1型有機EL (Super Retina XDR)
・パネル解像度:1770×2532ピクセル
・リフレッシュレート:60Hz
・最大輝度:800ニト(HDR時最大1200ニト)
・外観上の特徴:ノッチ+Face ID
iPhone 16(2024年)
・サイズ/パネル種類:6.1型有機EL
・パネル解像度:1779×2556ピクセル
・リフレッシュレート:60Hz
・最大輝度:1000ニト(HDR時1600ニト/屋外2000ニト)
・外観上の特徴:Dynamic Island
iPhone 16 Pro(2024年)
・サイズ/パネル種類:6.3型有機EL(常時表示対応)
・リフレッシュレート:最大120Hz(ProMotion対応)
・最大輝度:1000ニト(HDR時1600ニト/屋外2000ニト)
・外観上の特徴:Dynamic Island
iPhone 14に近い外観と雰囲気は、最新のナンバーシリーズやProモデルに慣れたユーザーには少し懐かしいと感じるかもしれない。一方で、アルミフレームにガラス背面という構造は経年変化による劣化も目立ちにくく質感は高い。
画質に関してはコントラスト比200万対1でHDRコンテンツにも対応しているので、十分に高品質だ。ただし、最大輝度がやや控えめなため、屋外での画質や視認性はやや落ちる。ただ、それは他のiPhone 16ファミリーと比較してというものなので、実際には青天時に屋外で使っても暗さは感じない。もちろん、屋内利用で映像作品を鑑賞する際にも違いはそれほど大きくない。
もっとも、ファミリーを構成する他のモデルにはある「Dynamic Island」や「120Hz表示」「常時点灯モード」は備えていないが、基本部分はしっかり上位モデルの体験レベルをフォローしている。
●4800万画素センサーで2つの焦点をカバーするアウトカメラ
iPhone 16eの最大の妥協点はカメラだ。しかし、画角の切り替えをあまりしないのであれば、むしろ魅力的な面もあることに気が付いた。
アウトカメラは、今どきのスマートフォンとしては珍しいシングル構成だ。iPhone 16の広角カメラと同様の約4800万画素センサーを搭載する。
通常の画角では、約4800万画素を生かした高精細な情報から1200万画素の写真を出力する。2倍望遠の際には画素の中央部をクロップ(切り取り)して撮影するようになっており、疑似的ではあるがデュアルレンズ構成であるかのような撮影は可能だ。
ここまではiPhoneに詳しい方なら容易に想像できるだろうが、「超広角カメラ」がないこのモデルは、広い視野の撮影(風景や建築のダイナミックな構図など)が行えない。同様に「マクロ(近接)撮影性能に劣るのでは?」という懸念を思い浮かべるだろう。
iPhoneでは、短距離でもピントが合うよう設計されている超広角カメラをマクロ撮影でも使ってきた。より望遠側の画角であっても、超広角カメラから画像を切り抜いている。
そのこともあって、「iPhone 16eではマクロ撮影ができないのでは?」と思っていたのだが、どうやらレンズ設計が異なるようで、iPhone 16/16 Proの広角カメラよりも近接時の合焦範囲を広めに取ることで、ある程度のマクロ撮影に対応している。
参考に、「iPhone 16 Pro Max」のマクロ撮影機能で撮影した写真と、iPhone 16eでのマクロ撮影をした写真を掲載する。デジタルズームで超広角カメラの画像を拡大しているiPhone 16 Pro Maxに対して、2倍モードでデジタルズームを使うことなく撮影したiPhone 16eの画像では、明らかにiPhone 16eの方が優れている。
なお、マクロ以外の撮影モードにおける画質などは、ほぼiPhone 16の広角カメラ(標準カメラ)に準じていると考えていい。
iPhone SE(第3世代)のカメラは「ナイトモード」に対応していなかったが、iPhone 16eのカメラでは「フォトニックエンジン」や「ディープフュージョン」といった最新の信号処理が行われ、暗所でもナイトモードで明るくクリアに撮れる。
なお動画に関しては4K(3840×2160ピクセル)/60fpsの撮影には対応するが、「シネマティックモード」には対応していない。
●A18チップでApple Intelligenceを“ベーシックな”機能に
さて、AppleがiPhone 16eをラインアップに加えた最大の理由は、Apple Intelligenceを全てのApple製品ユーザーに届けるためだ。
Apple Intelligenceを動かすには、最新世代のNeural Engine(推論エンジン/NPU)が必要となる。AI処理の効率を高める観点では、CPUコアやGPUコアもより新しい方が望ましい。それなら、最新のA18チップを使った方が基準をクリアしやすいという判断が働いたのだと思われる。このチップを今後のiPhoneを購入する人に(あらかじめ)届けておきたいということだ。
ただし、iPhone 16eのA18チップは、iPhone 16のそれと比べるとGPUコアが1基少ない4コアとなっている。とはいえ、Apple Intelligenceを提供するためのCPU性能やAI処理性能に変わりはなく、日常使用での応答性に不満が出ることはまずないだろう。
さて、そのApple Intelligenceだが、先日デベロッパー向けにβ版が提供され始めた「iOS 18.4」において、日本語に対応したAIモデルを利用できるようになった。日本での正式な対応は4月初旬の予定だが、先行する英語版とほぼ同じ機能が利用できるようになる。
Apple Intelligenceに関しては、また別途詳細をお伝えしたいが、各種アプリの応用も洗練具合が発表時よりも進んでおり、日常的に使うアプリの中で自然にAI機能を取り入れられるよう工夫されている。ただし、機能そのものがまだβテスト段階であるため、確定的なことは言えない。
また「GenMoji」などの画像生成に関しては、国ごとの好みのテイストなども話題になるだろう。しかし日常の使いこなしの中で、ユーザーが好む言い回しを使い始める面なども見せており、文章作成やタスク遂行をする上で、欠かせない機能にはなっていきそうだ。
Appleは今後、iOS/iPadOS/macOSなどにおいてApple Intelligenceが存在することを前提にユーザーインタフェース(UI)や機能を設計し、自社製品のエコシステム全体の基盤にしようとしている。
●クラス最強のバッテリー駆動時間を実現する「Apple C1」
バッテリー駆動時間もiPhone 16eの大きな魅力だ。Appleの公称値では、最長26時間の動画再生が可能だといい、同じ6.1型のiPhone 16(公称18〜19時間程度)を上回る。ストリーミング動画再生でも最長21時間駆動するが、これはiPhone SE(第3世代)を11時間以上も上回る大幅な改善だ。
その理由は大きく2つある。1つは内部構造の刷新によるバッテリー容量の増加、もう1つは消費電力の大幅な削減だ。後者については、A18チップの効率性向上と、Apple初の自社設計セルラーモデム「Apple C1」の省電力性が寄与している。Apple C1については、別の記事で解説しているので、併せて参照してほしい。
●割り切っているところは実用上どうなのか?
一方で、iPhone 16eの充電面にはコスト優先の“割り切り”が見られる。iPhone 16eは「MagSafe」に非対応で、ワイヤレス充電は従来規格の「Qi」(最大7.5W)となる。
「iPhone 12」以降のほとんどのモデルが背面にMagSafe用マグネットリングを内蔵し、15Wの高速ワイヤレス充電や磁着アクセサリをサポートしていたが、16eではこれが省かれた格好だ。Qiを使った充電こそ可能だが、スピードは遅くなる。
ただし有線では急速充電に対応している。20W以上の出力のUSB PD(Power Delivery)対応電源アダプターを使うと、約30分で50%の容量を充電可能だ。言うまでもなく、USB Type-Cに端子が統一された恩恵はiPhone 16eでも受けられる。ただし映像出力(DisplayPort Alternate Mode)には非対応なので気を付けたい。
充電回り以外にどの部分を割り切っているのか、まとめてみよう。
まず米国向けモデルでは、他のiPhone 16ファミリーでは対応しているミリ波(mmWave)の 5Gに対応していない。しかし、これは日本を含む米国外のユーザーには関係ない。
無線LANはWi-Fi 6 (IEEE 802.11ax)までの対応で、6GHz帯での通信に対応しない。他のiPhone 16ファミリーがWi-Fi 7(IEEE 802.11be)に対応したのとはやや大きな差がある。
またUWB(超広帯域通信)チップが非搭載だ。UWBは「AirTag」の精密探索やデジタルキーの共有に使われるが、iPhone 16eではBluetoothやGPSで代替することになる。もっとも、実際の影響としてはAirTagでは「探す」機能が使えない程度の影響しかないので、多くのユーザーにとっては大きな支障とはならないだろう。
なお、音声通話や位置情報、その他の基本的な通信機能は他のiPhone 16ファミリーとおおむね同等だ。衛星通信による緊急SOSや、ロードサービス連絡などの衛星通信機能も備えている。
SIMスロットの仕様は販売地域によるが、日本で販売されるモデルはnanoSIM+eSIMのデュアルSIM対応となる。USB Type-C端子はUSB 2.0規格(最大480Mbps)で、先述の通りUSB PDには対応する一方、DisplayPort Alternate Modeには非対応となる。
●Appleがユーザーに届けたい「最新iPhone体験」のための基本モデル
iPhone 16eの位置付けは、実はiPhone SE(第3世代)から変わっていない。最新のiPhone体験を、より広いユーザー層に解放するために存在する。
ディスプレイやデザインの刷新によって、見た目と使い勝手はハイエンドモデルに迫る近代性を獲得した。A18チップとApple Intelligence対応によって“新しい”ベースラインを引いたともいえる。
最新iPhoneの機能やカメラについて「少し持て余すなぁ」と感じていた、買い替えに及び腰だった人たちにこそ、iPhone 16eは検討する価値があると思う。これをいうと本末転倒かもしれないが、そのバッテリー性能の高さだけでも魅力的だろう。
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