
今、フルーツがとんでもないスピードで進化している。特にブドウの新種開発がすさまじく、生産の現場ではシャインマスカットの後を担うのではないかと評価される品種が何種類も誕生している。
そんなポスト・シャインマスカットとして大注目すべきうまい品種とは? 開発者や産地の声を聞いてみた。
■スーパーに並ぶまでは最低20年かかる
甘くておいしいけど、皮や種があるため手で食べるとベタベタになってしまう。そんな弱点を克服しただけでなく、甘みや香りをグレードアップさせることに成功。ブドウのイメージを大きく変えたのがシャインマスカットだ。
|
|
スーパーの店頭に並び始めてからおよそ10年。現在では高級ブドウとして定着し、グミなどのお菓子では「ブドウ味」と「シャインマスカット味」がそれぞれ販売されるなど、ほかのブドウとは一線を画したフルーツとして地位を確立。
ふるさと納税の年間ランキングでは和牛、ホタテ、米などの返礼品と共に上位の常連となるほどの人気ぶり。
今やシャインマスカット1強の様相となっているが、ブドウの産地では皮ごと食べられて、種がなく、さらに甘みが深い「ポスト・シャインマスカット」と呼ぶにふさわしい品種が続々開発されているという。
シャインマスカットの開発を行なった農研機構果樹茶業研究部門の今井剛氏は新品種開発についてこう話す。
「ブドウなど木に実がなる植物は、品種を開発・育成して農家に苗木を出荷するまでに最低でも10年の年月がかかります。そして農家の方に育成していただいて、店頭に並ぶほどの量が出荷できるようになるまで10年。
|
|
後にシャインマスカットとなる系統を生み出す交配が行なわれたのが1988年。その後、栽培試験を経て、苗木の流通が始まったのは2007年。そこからさらに10年ほどかかってようやく、今のようにスーパーなどに並ぶようになりました」
新品種が普及するまでに20年以上かかるブドウの世界では、ヒット商品の誕生を受けてから新しい品種を開発するというペースでは、時代によって変化する人々の味の好みに対応しきれないのだ。
■ポスト・シャインの本命? 富士の輝
では、日本有数の産地である山梨県では今、どのようにポスト・シャインマスカットの品種が開発・生産されているのだろうか。志村葡萄研究所の代表・志村晃生氏に聞いた。
「シャインマスカットの生産が広がったのは味の側面だけでなく、どの産地でも作ることができて病気に強いなど、育てやすさの面も大きい。
だから、シャインマスカットの次の時代を担うような品種を作り出すとなると、ハードルが高くなる。
|
|
新品種自体はいろんなブドウの品種をかけ合わせれば作ることができるけど、おいしい実をつけるのか、病気に強いのかなどは育ててみないとわからない。10年以上育ててみたけど商品化はできなかった、という品種もたくさんあります。
そんな中、うちの研究所では、ここ何年かでシャインマスカットとほかの品種をかけ合わせたものがいくつか商品化されました」
トライアンドエラーを繰り返した結果、誕生した新種の中で、最も人気があるのが「富士の輝(かがやき)」だという。
「うちで開発したウインクという品種とシャインマスカットをかけ合わせて作りました。糖度25度でのみ込んだ後も甘みの余韻が残る味わいが特徴です。
フルーツタルトで人気の洋菓子店・キル フェ ボンさんで使っていただいたり、ブドウ農家の方の『これから栽培したい品種アンケート』で1位となりました。作ってからまだ8年目なのにここまで人気となる品種は今までなかったです」
同じウインク×シャインマスカットで人気なのが「マイハート」や「我が道」といったレッド系のブドウ。
「植物も動物と同じで、父親、母親が同じでも同じ味わいの実をつけることはありません。競馬の世界でも血統が一緒でも、個性のある馬に育つように、ブドウも個性的な実をつけます。
マイハートは断面がハート形という、おいしさに見栄えがプラスされたもの。我が道はブドウ好きの方に支持されるバランスのいい味わいと香りが人気です」
シャインマスカットと同じグリーン系のポスト・シャインとしてブドウ農家から注目を集めているのが、植原葡萄研究所が開発した「マスカ・サーティーン」。
「糖度が高いのにスッキリした甘さでシャインマスカットより皮ごと食べやすいのが特徴です。2015年、16年と2年連続でブドウ農家の方が選ぶ『これから栽培したい品種アンケート』で1位となったので、今年、来年あたりに出荷量がグッと増えると思われます」(研究所担当者)
■ポスト・シャインを手に入れるには!?
本記事では9種類のブドウしか紹介できなかったが、山梨県をはじめ全国でポスト・シャインと呼ぶにふさわしい品種は続々誕生している。
新品種ゆえに、スーパーなどで気軽に手に入れるのはまだ難しいものの、マスカ・サーティーンや富士の輝など、フルーツ専門店などでちらほら並び始めている品種もある。
また、ふるさと納税のポータルサイトを見ると山梨県、長野県、岡山県など、ブドウの産地の自治体にはポスト・シャインの返礼品がラインナップ。どれも旬の夏から秋にかけて配送される予定なので、今から予約するもよし。
さらに、産地の直売所では昨シーズンひと房2000円ほどで販売されている新種もあったので、どんな味か気になる人は、実際に産地へ足を運んでみるのもいいだろう。
ともあれ、さらに進化したポスト・シャインを味わえる日はそう遠くなさそうだ。
取材・文/渡辺雅史(リーゼント)