(左から)小谷実可子、安部篤史 2025年7月にシンガポールで開催される世界マスターズ水泳選手権に出場することを発表したアーティスティックスイミング(AS)の小谷実可子(58)。7月30日の初戦まで残り153日。
【写真】「まさに水中でのパートナー!」小谷実可子&安部篤史 挑戦の軌跡を記す連載『生涯現役!58歳 アーティスティックスイミング小谷実可子の挑戦』の4回目となる今回は『メンバー紹介・第二弾』。小谷と共にミックスデュエット&チーム種目に出場する安部篤史(42)と2人でトーク。『大会出場の経緯』、『KOSUKE KITAJIMA CUP 2024での演技披露』、『シンガポール大会での目標』などついて語ってもらった。
――ミックスデュエットとチーム種目で共に演技を行う安部さんについて教えてください。
小谷:安部篤史(あべ・あつし)さんは、2015年の世界水泳ではシンクロナイズドスイミングの公式種目となったミックスデュエットに出場し、2019年の世界水泳ではテクニカル、フリーともに銅メダルを獲得。日本男子初のメダリストとなり、まさに日本男子アーティスティックスイミング界のパイオニアです。
安部さんとは、昨年ドーハで開催された世界マスターズ水泳選手権でミックスデュエットに出場し、金メダルを獲得。まさに水中でのパートナーになっていて、今回はミックスデュエットに加えて、初めてチーム種目でも一緒に泳ぎます。
チームの中では『番頭さん』という立ち位置です。静かに見守る感じで…最近でいうと私の『はけ口』ですかね(笑)。励まし合うだけでなく、お悩み相談にも乗ってもらったり愚痴を聞いてもらったりと、本当に必要不可欠な存在です。
――安部さんはどのようなきっかけで、今回のシンガポール大会に出場することになったのでしょうか?
安部:前回のドーハ大会の時に、ミックスデュエットのお誘いをいただき、大会まで半年間という短い期間だったんですが、その日々が物凄く濃くて、大会でも金メダルを獲得することができました。
その後も応援をしてくださった方に向けて『御礼エキシビション』という形でショーを行いました。そして3月30日には、品川プリンスホテル(東京都)で能登半島地震復興支援スイムショーも泳がせていただくことになりました。その後も(小谷)実可子さんが気にかけてくださって、連絡をしてくれていたんですよね。
日赤の水上安全法救助員研修にも誘っていただいたり、よみうりランドでのショーもあったり、その後日々の生活に戻っていったのですが、ふと自分の中で『煮詰まる』というか…一緒に泳がせていただいた期間って、すごく自分の生活の潤いになっていたことに気がつきました。
シンガポール大会に行かないと考えたときに、それがしっくりとこなくて…自分にとって泳ぐことは必要不可欠。そして、マスターズ大会のミックスデュエット挑戦は、本当に可能性だらけなので、そのワクワクを自分から失うことはしたくなかったんです。
小谷:昨年のドーハは、アーティスティックスイミングは男女でできるスポーツだということを凄く発信したかったんです。男子ASの普及や盛り上がりにつながってほしいという目標がありました。結果として、多くの方に賛同いただき、応援もしていただきました。それは私も予想していなかった驚きだったんです。
最初は使命感(男女平等)をもっていたんですが、結果的にミックスデュエットを泳ぐことがとにかく楽しくて、今まで男子選手と泳ぐことがなかったので、水中でのパワフルさやリフトの高さなど、男女だからこそ表現ができる演技になりました。現地でも『アーティスティックスを取り戻してくれてありがとう』と言われて、涙が出たんですよね。
マスターズ大会のミックスデュエットの可能性をさらに感じました。自分たちの演技をさらにレベルアップさせて、期待を裏切らないよう、シンガポール大会でもその魅力を発信したいですね。
――ここまでの練習の振り返ってみていかがですか。
安部:実可子さん情報ですが、チーム種目のメンバーからは『まだきっと篤史君は本気をだしていない』と言われているようです(笑)。実際はそうではなくて、振り付けを覚えるのが苦手なだけです。
オリンピックや世界選手権などを経験されている他のメンバーの方は、やはり振り付けを覚えるのが非常に早い。僕もミックスデュエットでは世界選手権などにも出場していましたが、今回初めてチーム種目に挑戦をするので、同じアーティスティックでもこんなにも違うんだなと、日々新たな発見があります。
――1月25日に開催された『KOSUKE KITAJIMA CUP 2024』では、エキシビションとしてミックスデュエットの演技を行いました。そのときの感想を教えてください。
小谷:やっぱり楽しかったです。演技中はもちろんきつかったですし、最後のほうは苦しかったんですけど、ミックスデュエットは表現できる世界観がすごくあるので、たまらなく楽しかったです。
しかも練習の時とは違い、観客もいる。演技を楽しんでみてくれている人がいることを実感できました。課題は、後半バテないように体力強化をすることです。完成度は、6.3点といったところでしょうかね。
今回はテクニカルルーティンのほうをKOSUKE KITAJIMA CUP 2024で泳ぎましたが、まだ手付かずのフリールーティンがあるので、そちらも徐々に練習をしていかなくてはいけないと思っています。
安部:男性のASは、まだ認知度が低いので、今回のような大きな大会でエキシビションができたことは、とても意味のあることです。
ASのルールは、とにかく2人が離れてはいけないというものです。より近くでやるからこそ、足がぶつかってしまう事などもあるので、それをどのような位置関係にすればぶつからなくなるのかなど、そのチグハグがなくなりスムーズに最後まで泳げることが一番のベスト。その距離感がKOSUKE KITAJIMA CUP 2024の時は、少しチグハグだったんです。僕の中では、同調性も欠けていたし、2人の距離も離れていました。
完成度は6点ぐらいで、2人で1つの作品にはまだまだほど遠いのですが、どこまでベストに近づけるのか、とてもワクワクしています。本番まであと5ヶ月程度あるので、少しずつ修正点をクリアして、本番に良い演技をしたいですね。
――シンガポール大会で着用する衣装も出来上がり、KOSUKE KITAJIMA CUP 2024でも着用して演技を行っていました。衣装の感想を教えてください。
安部:実際に着て演技をした後、衣装がとても良かったという声が多かったんです。僕にとっても勝負カラーは青なので、とても気合が入りました。
小谷:演技後、すぐに衣装をお直しに出しました。少しキラキラの部分に違う色を入れたり、ストラップを増やしたりとか、本番に向けてさらに見栄えがよくなるようにしています。
――本番は今年7月。大会が近づいてきていますが、今はどのような気持ちですか?
安部:KOSUKE KITAJIMA CUP 2024で演技を終えたことで、大会が近づいていることを改めて実感しましたね。ドーハの時は立地もあり、参加人数も少なかったんですが、今回のシンガポール大会では多くの国の人が参加する可能性があります。
レジェンドのビル・メイ(※世界選手権で初めて男子選手が参加した15年大会で、混合デュエット・テクニカルルーティンで金、同フリールーティンで銀メダルを獲得)も出てくるかもしれないということを考えています。
そうすると、大会の価値が凄く上がると思いますし、その人と競うこともできる。もし彼が出場したら『ビルは凄かった』ではなく、日本のペアも良かったと、言ってもらえるように頑張りたいです。印象に残るミックスデュエットを見せたいです。
小谷:金メダル獲得はもちろんのこと、ミックスデュエットではオール8点以上を目指しています! 安部さんとシンガポール大会を目指そうと言った時に、ドーハで演技をした『オペラ座の怪人』をフリールーティンで再度やることに決めたんです。
この演目が凄く気にいっていて、評価もしていただいたので、もっと多くの人にこの演技をみてほしいですし、ドーハでは少しリフトを失敗してしまったので、このままでは終われないという想いもあります。必ずリベンジをしたいです。
また、3月16日に東京アクアティクスセンターで開催される「東京アクアティクスセンター杯水泳大会2025」では、チームとソロの種目に出場することになっています。これはエキシビションではなく競技大会で、点数も順位も出るので緊張しますが、さらなる新作を披露する予定です。是非見に来てください!
■小谷実可子(こたに・みかこ)
1966年8月30日生まれ、東京都出身。ソウルオリンピックでは夏季オリンピック初の女性旗手を務め、ソロ・デュエットで銅メダルを獲得。1992年に現役引退。東京2020招致アンバサダーを務めるなど国際的に活動。東京2020オリンピック・パラリンピックでは、スポーツディレクターに就任するなど幅広く活躍。日本オリンピック委員会 常務理事(JOC)、世界オリンピアンズ協会 副会長(WOA)、日本オリンピアンズ協会 会長(OAJ)など、15の役職をこなしながら、2025年7月に開催される世界マスターズ水泳選手権(シンガポール大会)で、4つの金メダル獲得を目指している。