写真 野菜の摂取量と学歴には相関関係があるそうです。どういうことなのでしょうか?
こんにちは、食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、「一生モノの能力を養う食育」についてさまざまな実践法を提案しています。
受験シーズンになりました。今年我が子が受験をする・しないに関わらず、受験と聞くと、子どもの教育方針について考えさせられるきっかけにはなるでしょう。
◆気になる研究を発見
「やっぱり偏差値の高い学校に合格してほしい!」、「うちは勉強できなくても健康であれば!」と、さまざまな親御さんの考えが出てくるのではないでしょうか? そんなことを考えていた時に、気になる研究結果を目にしたのです。
それは、学歴と野菜の摂取量には明らかな相関関係があるということ。いったいどういうことなのでしょうか?
私は兄とともに東京大学に合格しましたが、後から振り返ってみたときに、私たち子どもが実力を発揮できたのは、母の食事によるところが大きいことに気がつきました。
しかも印象的だったのが、「野菜を食べなさい!」と言われたことが一度もなかったのに、野菜を好んで食べるようになったことでした。母はどうやって食べさせていたのでしょうか?
そこで今回は、「野菜と学力」をテーマにしながら、我が母が子どもたちに野菜をどのように食べさせていたか、エピソードとともにご紹介したいと考えました。この記事をご覧になることで、皆さんにとって野菜摂取について考えるきっかけになればうれしく思います。
◆高学歴の母親を持つ家庭は、野菜量が多い
今回のきっかけになったのは、東京都足立区が健康対策として推進する「あだちベジタベライフ」に関連した東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻の橋本英樹教授の研究レポート。その内容の一部を整理してみましょう。
・学歴は、家庭での野菜の摂取量と相関関係があるということ
・緑黄色野菜の摂取量は、母親の学歴で差が出る
・高学歴と低学歴の層では、その家庭のメンバーの野菜摂取量に20gの差がある
・野菜摂取量の差は、野菜摂取に対する意識・知識の違いなのか、技能や時間的余裕などの問題なのかは、今後明らかにしていく必要がある
つまり、高学歴の母親を持つ子どもは野菜の摂取量が多い傾向にあるということ。これ、ある意味ショッキングなニュースではありませんか?
当たり前ですが、子どもは親を選べないのです。
しかしながらどんな親にも子の健康を願う権利は平等に与えられています。
この結果によって、野菜を食べたから子どもも高学歴になるということまでは言及できませんが、心身の成長や体力の向上、健康増進の観点において有意義な影響を与えることは容易に想像ができるでしょう。
しかしながらここで考えるべきは、親の学歴に左右されることなく、子どもたちが健康的な食習慣を身につけて、健やかな心身を育むことの重要性について。
野菜不足が社会課題になっている現代において、親の学歴などに左右されずに、無理ない工夫で野菜を摂取したいと願う家庭は少なくないと思うのです。
私は日々食育研究をする中で、野菜摂取のコツは母の食卓にあったことを思い出しました。母は私たち子どもたちに野菜を食べろと言ったことが一度もなかったのです。
私は自分が親になって小学生の子どもを育てていますが、母のスタンスをアップデートして我が子に実践しています。それでは具体的にどのような意識を持って、どんな料理を作っているのか、誰でも今日から実践できる工夫ですから、気軽な気持ちで読み進めてみてください。
◆母が「野菜を食べろ」と言わなかった理由とは?
結論から先に申し上げれば、母が重視していたのは、「野菜を特別扱いしないこと」でした。
例えば麻婆茄子。具材はナスと肉がメインではなく、他にもいろいろな野菜やちくわなどがたっぷり入っていました。
私にとってはこれがスタンダードな麻婆茄子であり、母は肉、魚、野菜を区別することなく、いろんな具材が組み合わさった料理を食卓に出してくれていたのです。
つまり野菜が不足しないようにたくさん食べなさいと言われるのではなく、おいしい食体験が先にありました。
もう一つ、忙しい朝の食卓によく登場したのが、スープ餃子でした。鶏ガラスープの中に冷凍餃子が入った料理で、そこにはニラやきのこなど必ず野菜が入っていました。
野菜が高級であるか、緑黄色野菜であるかなどは全く関係なく、ジャガイモ、もやし、玉ねぎ、キャベツなど、本当にいろいろな野菜が入っていたことが記憶に深く刻まれています。
先日、我が家の“なんでも具だくさん料理”について、母に質問をしてみたところ、
「子どもに野菜を食べさせようという意識よりも、まずは親として自分が元気で健康にいるために“バランスよく”を考えていたと思う。忙しかったから、いろんなものを入れちゃったわね!」
と、笑いながら回答が返ってきました。
◆野菜と勉強は同じ!? 無理なく習慣化するために大切なこととは?
子どもの味覚は大人とは違い、苦味や酸味に対して敏感です。
つまり大人が好むような野菜だけを組み合わせた野菜料理に抵抗を感じてしまうのは、決しておかしなことではありません。
野菜を食べなさい! とプレッシャーを与えたり、食べられないことに劣等感を植えつけるのは避けるべき。成長とともに食べられるようになることだってあるのです。
そしてもう一つは、野菜を食べる習慣は、勉強をする習慣に通じるものがあるということ。
「勉強をしなさい!」とプレッシャーをかけられて勉強ができるようになるわけではないのと同じで、言葉で厳しく言っても効果がありません。
野菜を食べる習慣をもっと自然なカタチで実践するためには、はじめに親の野菜不足をチェックしてみることも重要で、親子で一緒に取り組むのもよいでしょう。
全部が手作りで、親が用意するものという価値観から解放されて、一緒にカット野菜や野菜惣菜を買いに行ったり、いつもの炒め物に野菜を1つ加えてみるだけでも大きな成果があると思います。
とは言え、学力を高めるために野菜を食べるわけではありませんから、焦らずに無理なく食生活のチェックをしてみてはいかがでしょうか?
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12