写真はイメージですお菓子や料理を作りながら科学が学べる『キッチンラボ 作って 食べて おうち実験!』(偕成社)。
プリンをつくりながら砂糖の性質を知ったり、ピザ作りでたんぱく質の性質を学んだり……。著者の東洋大学食環境科学部准教授の露久保美夏先生が行ってきた、小学生を対象とした親子の食育プログラムや科学実験講座から、特に変化が分かりやすく子ども達が楽しんでいた実験を一冊に収められ、さらに、その科学的根拠が子どもにも分かりやすく解説されています。
子どもと一緒に「料理=おうち実験」をすると、手間取ってしまったり、子どもが材料をこぼしてつい叱ってしまったりとトラブルが発生することも。子どもと一緒に実験を楽しみ、科学に興味を持ってもらうためには、何が大切なのでしょうか?
露久保先生に、おうち実験をする時に知っておきたい準備の仕方や、心構えについて聞きました。
◆「どんな食感だと思う?」実験前に話し合うことでしっかり観察
――おうち実験を始める前にやっておいた方がいいことはありますか?
露久保美夏先生(以下、露久保):実験の工程を一度全部読んでおくと、見通しを持って取り組むことができると思います。どれくらい時間がかかるのか、材料を入れる順番、焼くのか冷やすのかなど、暗記する必要はないですがイメージを持っておくといいですね。
その上で材料を揃えたり、道具を清潔にしたりと準備をします。すると作業を始めてから、「え?重曹がいるの?」「冷やすなら冷蔵庫にスペースを作らなくちゃ!」とバタバタしなくて済みます。
また、実験をする前に「味はどう違うのかな?」「どんな食感だと思う?」と話し合ったり予想しておくことをお勧めします。科学的には「仮説を立てる」というのですが、そうすることで作業をしている時に「やっぱりこうなったね」とか「予想とは違うね」と観察する視点をしっかりと持つことができます。
◆おうち実験に失敗は無い!親の心構えとは
――実験がうまくいかないこともあるのですが、失敗しないためにはどうしたらいいのでしょうか?
露久保:おうち実験に失敗はないんです。本に掲載されていた仕上がりとは違う結果になっただけなんですよ。そう発想をすることで、保護者の方も気楽に取り組めるし、子どもに対する声かけも変わるのではないでしょうか。「失敗しちゃったね」ではなく、「別のレシピを見つけちゃったんじゃない?」と言ってあげたり、「どこが違ってこうなったのか振り返ってみようか」と話し合ってみてください。
掲載されている加熱時間はあくまでも目安なので、お鍋の形状が変われば蒸発量は当然変わりますし、混ぜ方1つで違う結果になることもあります。
本書には、「おいしくできたかな」「上手にできたね」のような言葉を入れないようにしています。「こうしたらおいしいものが作れます」というスタンスではないので、「本の通りの結果にしなければいけない」と思う必要はないんです。
実験に慣れてきて、なぜその結果になったのかというメカニズムに疑問を持つようになると、まさに研究者ですね。既存の知識を学ぶだけではなく、未知のものを探究するのが研究だと思います。
――しかし、明らかに手順を間違えたりすると、子どもが「もうやめる!」となってしまうことがあるのですが、どう声かけしたらいいでしょうか?
露久保:「違う順番にしたらどうなるかな、新しいものが生まれちゃうかもよ?」とそのまま続けてみてください。本当に思わぬ発見があるかもしれません。実際に「タルト・タタン」(アップルパイを作ろうとしてリンゴを炒めすぎたことをきっかけに生まれたと言われる。ただし諸説あり)など、失敗から生まれた食べ物はいっぱいあるんですよ。
◆子どもが主体的に取り組むためには?
――おうち実験について、親の方が前のめりになってしまうと、子どもが”やらされている感”を持ってしまうことがあると思います。子どもが自分から楽しんで取り組めるようにするためには何が大切なのでしょうか?
露久保:前提として、「やってみたいものはどれ?」と子どもに興味のある実験を選んでもらうことと、作業をお子さん自身にやってもらうことだと思います。
作業中は、「今どんな匂いか嗅いでみて」と言うと指示になってしまうので、保護者の方が匂いを嗅ぎながら「へえ〜」と感心してみたり、味見してみたりしてください。大人が楽しんでいる姿を見ると、子どもは真似したくなるはずです。
「どんな匂いがするの?」と聞かれたら、答えを教えずに「自分で嗅いでみたらいいんじゃない」と促してあげる。子ども自身が一緒にやってみたいと思えるようなサポートをするといいのではないでしょうか。
――子どもが作業していると、つい「そんなやり方じゃこぼすよ!」と口うるさく言ってしまいそうになります。どう見守ればいいのでしょうか。
露久保:まずは安全が保たれることが大前提なので、火の扱いや、手を切らないようにサポートすることは必要です。
でも、材料をこぼすくらいはいいと思います。私の場合は、実験講座で子ども達が作業するのを「この持ち方だと、どれくらいこぼすんだろう」と観察することも子どもを知る事であり、ひとつの学びとして楽しんでいます。
ご家庭でも、子どもがどんなやり方をするのか観察することを楽しみにするといいかもしれません。そして、「こういう持ち方するとこぼれると分かったね、次はこういう持ち方してみよう」と、具体的に持ち方の見本を見せながら伝えてあげるといいと思います。あとは、こぼした時の掃除の仕方を学ぶ時間にしたらいいのではないでしょうか。
◆実験した人にしか分からないことがある
――おうち実験を始めるのに、おすすめの実験はありますか?
露久保:「ふっくら&ぎっしりカップケーキ」という実験は、小学生から高校生まで幅広く取り組んでもらいやすいと思います。
2種類のカップケーキを作って比べるのですが、「どんな違いがあるだろう」という予想が立てやすいんです。焼く前の生地の状態を比べても違いが見えてくるので、各工程で気づきや発見の言葉が出てきやすいんです。出来上がったら食べながら、ふくらみ方や、食感、甘さに違いがあるのか話し合って楽しんでもらえると思います。
――表紙に登場している「納豆でのびーるアイスクリーム」が気になるのですが、納豆の匂いはするのでしょうか?
露久保:それは是非作ってみてください!読者の方から「これはどんな味なんですか?」と質問をいただくことが多いのですが、匂いや味は人によって感じ方が違います。
私が「匂いは気にならない」と言ったとしても、わずかな納豆の匂いをキャッチする人がいるかもしれませんし、言葉では伝わらない部分があると思います。実際の味や匂いは、実験した人しか感じられないことなので、作ってみて楽しんでくださいね。
【露久保美夏】東洋大学食環境科学部食環境科学科准教授。博士(学術)。専門は調理科学、食育。小学生を対象とした親子の食育プログラムや、科学実験講座を定期的に実施。「所さんの目がテン!」(日本テレビ)に不定期出演。
<文/都田ミツコ>
【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。