韓国IR「インスパイア」が1周年 社長が考えるLTV向上策は?

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2025年03月01日 18:31  ITmedia ビジネスオンライン

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グランドオープン1周年を迎えたインスパイア

 韓国の仁川国際空港西側に位置するIR(統合型リゾート)インスパイア・エンターテインメント・リゾート(インスパイア)は、グランドオープン1周年を迎えた。同施設はホテル、カジノ、ショッピングモール、プールドームなど多彩な施設を備えている。


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 この期間中、目を見張るのが改善するスピードだ。「走りながら改善する」ことによって顧客生産価値(LTV)を向上させている。ここまでのスピード感はあまり日本では見られない。なぜこういったことが可能なのか。インスパイアのチェン・スー社長にインタビューした。


●プールを開業後、数カ月で改修に踏み切る


 筆者が驚いたのは、インスパイアに2度目の宿泊をした際、インスパイアのアイコン的存在である全天候型のプールドーム「スプラッシュ・ベイ」が開業してから半年もたたないうちに臨時休業していたことだ。スー社長は「オープン当初からかなりの人気で改修する必要があると判断をしました」と説明する。


 想定以上に大勢の人が訪れたため、ロッカールーム、シャワー室が足りなくなることがあったため「来訪者をより受け入れやすくするために増やします」と話す。改修といっても、物理的に増築するわけではないという。より良い施設になるならば、再び混雑してシャワー室が足りなくなる気もするが「人気であれば営業時間の延長は当然考えられます」と時間延長を想定しているようだ。


 この改修工事にあわせ、スプラッシュ・ベイに隣接しているフードコート「オアシスグルメビレッジ」と連結させた。より気軽に食事ができるようし、さらに楽しいリゾート体験ができるようにしている。


 以前レポートした通り、韓国にはコンサートに適した「ハコモノ」が少ない。収容人数1万5000人の多目的施設「インスパイア・アリーナ」は、それを打破できるゲームチェンジャーになり得ると予想していた。実際に、開業後、他のIRと比べても大きな違いだと実感しているのか。


 「1年を通してたくさんのインパクトのあるイベントを開催してきました。一流K-POPアーティストのパフォーマンス、授賞式、eスポーツトーナメントなどです。韓国のIR業界において、インスパイアと他のIR施設との大きな違いとなっています」と強調した。


 開業してから実際にMAROON 5、LINKIN PARK、YOASOBI、なにわ男子のコンサートが開催されたほか、韓国からはBIGBANGのSOL、SHINEEのテミンのコンサートは日本からも大勢のファンが駆け付ける人気ぶりだったという。今後も、米津玄師やTOMORROW X TOGETHER、BLACKPINKのジェニーなどの公演も控えている。


 ファンはアリーナを訪れた時点で、オーロラなどインスパイア内の他の施設も自ずと体験することになる。インスパイア・モールの全館で最大10%の特別割引をするほか、無料で加入できる会員プロブラム「モメンタム」のメンバーになれば、より高い割引が適用されることから、多くの客が会員になっているという。多彩な接点を生かし、LTV向上策に余念がないようだ。


●カジノでは日本語対応を充実


 IR施設の大きな収入源の1つは、言うまでもなくカジノだ。日本ではインスパイアのような大型のIR施設がないため、多くの日本人はカジノ初心者。そこで同社は日本語のガイドブックを用意した。


 ただし、スロットマシンは、実はルールが複雑で遊び方が難しい。テーブル席もいきなり座るには勇気がいる。遊ぶ時の心理的ハードルの下げ方とはどのようなものなのか。


 「スロットマシンは、遊び方について日本語が表示されるよう対応をしている最中です。テーブルゲームを含めカジノのスタッフに日本語を話せるメンバーが豊富にいるので、誰か声をかけてもらえれば、必ず日本語で対応してくれます」


 カジノ運営の責任者であるウィル・リー・アシスタント・ヴァイス・プレジテントも「日本にカジノがない分、興味津々で来られる方が多いです。学習意欲が高いと感じていて、それに応えるべく、楽しみやすく、安心して遊べる環境作りをしています」とアピールした。 


 「インスパイアのカジノは、バカラのような人気ゲームでも最低金額がローリミットからハイリミットまで幅広い金額設定がされているのが特徴です。韓国のカジノでは初めて(2個のサイコロの出目を競う米国で長年愛されてきたゲーム)クラップスが楽しめる場所にもなっていて、日本の方にも多くお楽しみいただいています」


 インスパイアがすでにオープンした部分(1Aエリア)は計画全体の10%で、まだそれしか開発していない。残りの90%はこれからだ。今後はどういった施設を考えているのか。開発に顧客の声(VOC)も反映させるのか。スー社長は「次の開発エリアである1Bに、VOCを反映させます。韓国政府や世界各国のビジネスパートナーと話を進めていて、さまざまなアイデアが出ています。韓国政府の認可が得られたら公にできますので、もう少し待ってください」と話す。


 スー社長は、マカオなどでIR施設の運営に携わっていた経験がある。開発が「100%」になったインスパイアの全体像をどうイメージしているのか。


 「世界各国にある主要なIR施設は非常にキラキラしているイメージで、インスパイアも目指したいところです。しかし韓国でのビジネスモデルは、諸外国とは少し異なる部分もあります。普通のIR施設は海外客を主なターゲットにしている一方、韓国は国内の需要が高いため、両方の人々に来てもらう戦略が必要だからです。外国人客の割合が大きいマカオとの一番の違いはここでしょう」


 今後の課題や改善点を尋ねると「リゾート体験をいかにして、よりエキサイティングなものにするかです。例えば、オーロラではクジラが登場するダイナミックなショーが好評を得てきましたが、それだけには頼れません。チームとしてチャレンジングでしょうが、どんどん新しいことを考える必要があります」と話す。


 もう1つは人材育成だ。


 「オープン後、良いブランドイメージを築き上げることができた分、客の期待が高まっています。あらゆる場面で世界最高のサービスを提供できるかどうかが勝負です。それには、いろいろなものを醸成しなければならないので時間を要します。その実現には人材育成が欠かせません。今後、注力していきたい分野です」


●印象的な色使い インスパイアの理念から


 インスパイアでは、施設にいろいろな色を取り入れている。スー社長は「分かりやすいところでは、フォレストタワーは、ファミリーフレンドリーなホテルタワーですが、多彩な色を意図的に取り入れています」と話す。


 その辺りの作り方が、北東アジアのこれまでのIR施設とは異なる印象を受ける。例えばインスパイアにはオーロラ、デジタルシャンデリアの下に位置する魅力的なオープンキッチンスタイルのシェフズキッチン、そしてインスパイア・アリーナなど、米ラスベガスなどの大きなIR市場を彷彿(ほうふつ)とさせる要素が多数ある。 


 インスパイアのリーダーとして、どのような組織を作っていきたいかを聞くと「成功するには異文化の人々の架け橋となることです。卓越した顧客体験を提供するために重要なこと」と答えた。


 「人事や文化部門は、これらの価値観を新入社員に浸透させるために時間と労力を費やしています。私は社員に対して顧客にサービスを提供する専門家としてだけではなく、大きな組織の一員として、また個々のチームメンバーとして、インスパイアの理念を持ち続けるよう鼓舞するリーダーでありたいです」


 インスパイアが直接雇用する従業員のうち、全体の80%は仁川市民であり、韓国の雇用創出に貢献している。韓国政府からは「2024年雇用創出大統領賞」を受賞。「2024年模範企業」にも選ばれた。


 「われわれのプロジェクト投資の根幹にあるのが社会貢献で、『共存共栄』が大きな理念でした。現在インスパイアは、20ほどの高等教育機関と連携し、1000人以上の新卒を雇用しました。これが大きかったと思います。この採用方針により、インスパイアは韓国の一般的な企業よりも若い社員が多く、若手主導の企業文化が醸成されていると感じています」


 アリーナでのコンサートが開かれた場合、インスパイアの客室が満室になると、当然に周辺のホテルに顧客が流れる。他のホテルも満室になり、周辺のスーパーの売り上げも向上するなど、地域経済にも貢献しているという。


●企業論理を優先せず、客と向き合う


 顧客第一とは、よく叫ばれている。だが実際に実践している企業は、どのくらいあるだろうか。現実的には企業論理が優先され、顧客第一が形骸化しているケースも少なくない。


 スー社長率いるインスパイアは、スプラッシュ・ベイの改修や今回のインタビュー発言にもにじみ出るように、客と向き合うことによってサービスを充実させ、満足度の高いリゾート体験を提供している。その結果として、LTVの向上を図ろうとしているように感じた。


(武田信晃、アイティメディア今野大一)



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