『ガッチャード』湊陽祐プロデューサー×『ガヴ』瀧島南美プロデューサー対談 プロデューサーが考えるプロデューサーの仕事とは?

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2025年03月02日 10:00  ORICON NEWS

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(左から)『ガッチャード』湊陽祐プロデューサー、『ガヴ』瀧島南美プロデューサー (C)ORICON NewS inc.
 昨年8月まで放送された『仮面ライダーガッチャード』、21日から期間限定上映するVシネクスト『仮面ライダーガッチャード GRADUATIONS/ホッパー1のはるやすみ』の湊陽祐プロデューサー、『仮面ライダーガヴ』の瀧島南美プロデューサーという東映特撮を支える若手プロデューサーの2人。現在、東映では特撮作品のプロデューサーの募集を開始している。共に転職組である2人に特撮作品のプロデューサーとは、海外展開についてなど、ORICON NEWSがさまざま聞いた。

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■プロデューサーの仕事とは? 転職のきっかけも

 湊陽祐プロデューサーは、2014年にアニメ制作会社へ就職。制作進行から制作デスクとして5年間勤務し、東映の「特撮専任プロデューサー募集」に応募し、2019年に東映へ入社。『仮面ライダーゼロワン』、『仮面ライダーセイバー』、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』にプロデューサー補として参加し、『仮面ライダーガッチャード』でプロデューサーを務める。瀧島南美プロデューサーは、2017年にディスプレイ業の会社へ就職。東映の「特撮専任プロデューサー募集」に応募し、2019年に東映へ入社。『魔進戦隊キラメイジャー』、『機界戦隊ゼンカイジャー』、『仮面ライダーギーツ』、東映ムビ×ステ『仁義なき幕末』にプロデューサー補として参加し、『忍者戦隊カクレンジャー 第三部・中年奮闘編』『仮面ライダーガヴ』でプロデューサーを務める。

――東映のプロデューサーになる前は、どんな仕事を?
【湊氏】前職はアニメ制作会社に新卒で入社しました。そこで制作進行という仕事からスタートして、まずは1クールのテレビ作品で各話の進行を担当しました。その後、劇場作品や、2クールのテレビ作品で制作デスクという役割に。制作進行を統括しながら全体スケジュールを管理する立場になり、仕事漬けのなかなか大変な生活をしていました。そして、今は法改正されましたが、当時は作品中の代休を作品終わりにまとめて取ることができたので、「9月から12月までまるっと休みです」という時期があったんです(笑)。そしたら、ちょうどその時期に前回の特撮プロデューサー募集で白倉伸一郎さんのインタビューが出た。暇だし、記念に受けてみようか、ということで書類を出しました。その後、1月から別作品の制作デスクが決まっていたんですが、東映に受かってしまったので、転職することになりました。そのアニメは引き継ぎもあり、3話まで関わらせていただき、その納品をし切って、5月1日の令和になった当日に入社して『仮面ライダーゼロワン』に携わることになりました。

【瀧島氏】私は店舗の内装の現場監督をやっていました。社会人になってからの通勤時間で、Amazon Prime Videoで『電磁戦隊メガレンジャー』があるのを見かけて、「当時好きだったな」と思って見直していたんです。「特撮って大人になってもこんなに面白いんだ」と衝撃を受けて、日々の楽しみになっていきました。例えば地方の仕事での長期出張中は、毎日現場を終えて、1話ずつ『特捜戦隊デカレンジャー』を見るというのを日課にしたりして。『ルパパト』開始をきっかけに現行も見始めて、少しずつ特撮を見る生活を続けていた時に、ちょうどツイッターで特撮プロデューサーの募集を見かけたんです。社内でもエンタメに近い部署に異動したいなと思っていた時期で。でも、まだ2年目ということもあって、異動が受理されなそうだというのも悟って、記念受験的に、今後あるかわからない募集だから応募してみようと思って書類を出したのがきっかけです。

――いざ転職してみて、特撮のプロデューサーとは、どんな仕事でしたか?
【湊氏】クランクインを1か月後に控えた『仮面ライダーゼロワン』のAP(アシスタントプロデューサー)に配属されました。入社翌日にオーディションの3次審査でした。そのままあわただしく、クランクインを迎えました『ゼロワン』はAPとして1年間担当し、番組が終了するころに、『仮面ライダーセイバー』の立ち上げからAPとして参加しました。『セイバー』はテレビシリーズとともに、最後に撮影したVシネクストまで関わらせてもらいました。その後、スーパー戦隊シリーズの『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を担当して、次の『王様戦隊キングオージャー』を準備すると思っていたところに「次の仮面ライダーをチーフでやってくれ」ということで『仮面ライダーガッチャード』を担当することになりました。今回の『ガッチャード』Vシネクストの仕上げ以降は、一緒にやってた同僚たちが『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』の担当が決まり、孤軍奮闘頑張ってます(笑)。

【瀧島氏】私も入った当日ぐらいに「次のスーパー戦隊のキックオフがあるので参加してね」ということを聞いて(笑)。『魔進戦隊キラメイジャー』立案の会議に入れてもらいました。湊と、もう1人の同期は業界人だったので、ゼロワンに合流していきなり実践に。私は業界未経験だったので、ちょっとスローに、いちから入れてもらった感じでした。そこから『キラメイジャー』が終わって『機界戦隊ゼンカイジャー』の担当となりました。その後、『ゼンカイジャー』が終わったら今度は『仮面ライダーギーツ』で仮面ライダーの担当に。『忍者戦隊カクレンジャー 第三部・中年奮闘編』もありつつ、今は『仮面ライダーガヴ』をやっています。

――どんなスケジュールで動いているのでしょうか?
【湊氏】作品のステータスによって全然変わってしまいます。放送と撮影が同時並行してるぐらいの時期は、基本的に毎週、本の打ち合わせ、オールラッシュというつながった映像のチェック、初号試写だったり、それに関わって本編集とか。さらに現場の撮影などが並行してあります。僕の場合は結婚して子どもがいるというのもありまして、週に1日、できれば土日で必ず休む、家にいる、というのを約束ごとにしています。それ以外は基本仕事しつつ、夜早く帰れる日とか、ちょっと仕事が遅い日の朝とかに家事をしています。それだけ決めて、あとは全部仕事入れるみたいな感じです。1つのシリーズを担当するとそれが大体1年半程度続きます。

【瀧島氏】私は(湊さんのような)家庭生活がないので、何か別のことをしている以外は何らかの仕事に取り組んでいるイメージです。この仕事は会社にいなければできないということが少なくて、パソコンとスマホがあればできてしまうことが多いから、無限に仕事をしようと思えばできてしまうんですよね。だから、メリハリをつけないとダメだと感じています。

――アシスタントプロデューサーを経て、今はプロデューサーとして活躍しています。仕事の違いとは?
【湊氏】大きくプロデューサーの仕事は、本作りから放送して宣伝するところまで全部に仕事がある。その仕事をどう割り振るのかも含めて、チーフプロデューサーはどこまで自分がやるかを決めるのが違うところですね。みんなと一緒に周りを見ながら、人がやっていないところとか、自分が一番得意だなと思えるところを手伝ったりしながらやる。だから普通の管理職の仕事というか、人に仕事を振る作業がチーフの一番難しかったところですかね。

【瀧島氏】私は『仮面ライダーガヴ』でプロデューサーという肩書きでやらせてもらってるんですけれども、チーフは武部(直美)プロデューサーが立っていて、業務内容自体はAP時代と変わらないところもありつつ…。でも、塚田(英明/東映プロデューサー)さんの教えで「チーフのつもりでやれ」とはAPの最初のころから言われていましたね。プロデューサーになったら、いろんな経験に裏打ちされる納得感というか、より深度のある言葉を持たないといけないなと思っています。『忍者戦隊カクレンジャー第三部・中年奮闘編』の時はチーフPを担当したのですが、チーフのカラーがある程度そのチームのカラーにもなる気がしていて。『ガッチャード』は湊(陽祐)の名前の通り“陽”な雰囲気が、現場にも伝播するんですよね。それを醸成できるように、というのは特に気をつけていました。

■最初の仕事は『Over Quartzer』 歴史の1ページを目撃

――もともと特撮作品とは、どんな関わり方を?
【湊氏】ちょうど2000年が小6なんです。『仮面ライダークウガ』が小6で放送されて、中1から『仮面ライダーアギト』を見始めているんです。もうそこからは付き合い方がまるっと変わってしまいましたね。子どもとして見ていた1990年代のヒーロー作品も好きでしたが、自分が中学生になると見なくなる友だちが増えて、見てるのはオタク的な友だちばかりになりました。そんな中、放送された『仮面ライダー』シリーズや『特捜戦隊デカレンジャー』が本当に面白くて。自分も一オタクとして、インタビューを漁るように読んだりしました。だから2〜3歳に観た『地球戦隊ファイブマン』、『鳥人戦隊ジェットマン』、『特救指令ソルブレイン』から離れる時期がなかったまま大人になりました。アニメ会社に入って、本当に忙しすぎて見られてない時期が『仮面ライダードライブ』、『仮面ライダーゴースト』あたりでありましたが、ちょっと仕事に慣れてきて『仮面ライダーエグゼイド』ぐらいでまた見られるようになりました。『エグゼイド』や『仮面ライダービルド』も面白くて。『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』で「すごいな〜。佐藤健さん出たな〜」と思ってたいたら、「東映に呼ばれたんだけど」みたいな感じで、そのままこの会社に来てしまいました(笑)。

【瀧島氏】私の最初の特撮は『ウルトラマンティガ』ですかね。『ウルトラマンダイナ』も見ていてました。たぶんスーパー戦隊は『電磁戦隊メガレンジャー』を最初に見て。人生初の推しができました。メガブラックが好きで、きっとサッカーを始めたりしたのも潜在的な推しの影響です(笑)。でも数年みたところで、『ポケモン』に移っちゃったんです。「特撮は昔見てたけど」みたいな時期が続いて。大学時代に『エグゼイド』にハマっている友だちがいて。「今の特撮作品はすごいんだ」という話はなんとなく聞いていましたが…。社会人になってから、サブスク配信で再会、再燃した感じです。湊とかは平成ライダーを全部見てるだろうし、生まれてからのスーパー戦隊も全部見てると思うんですけど、私は正直なところ、まだ見られていない作品の方が多くて、今も勉強中です。

――『機界戦隊ゼンカイジャー』は大変だったのでは?
【瀧島氏】『ゼンカイジャー』はレジェンド作品の細かい設定やシーンを取り上げるというよりは、「このスーパー戦隊はこうだよね!」という部分をエッセンス的に取り上げてるので、私ぐらいのイメージでもわりとそのまま入れて。『鳥人戦隊ジェットマン』のフィーチャーの仕方は特殊でしたが、いろいろなところで取り上げられているのもあって、最終回は知ってるわけですよ!皆さんのリスペクトを肌で感じながら関わることができて楽しかったです。

――『ゼンカイジャー』のジェットマン回は面白かったです。
【瀧島氏】すべてを深く知りすぎていない分、ある種新鮮にどんなことも面白がれたと思います。脂が乗った香村(純子)さんの脚本を楽しみながら受け取っていました。

――特撮作品に関わってみて、記憶に残ってるところは?
【湊氏】一番最初に関わった『仮面ライダーゼロワン』は、毎話お仕事するヒューマギアを取り巻くお話でした。いろんな職業にスポットを当てていこう、となった時に、5、6話で漫画家と、その漫画を原作としたアニメの声優さんの話を作ることになりまして。自分を採用してくれた当時のチーフプロデューサーから「湊、アニメ作って」と言われたんです(笑)。それで、柴崎(貴行/※崎=たつざき)監督と一緒に、僕のアニメ業界時代のツテをたどって、現役の漫画家さんの作業場に行って、その現場を取材させてもらいました。どんなものが必要なのかを調べたり、本作りにもその内容を反映させたりしながら、そのままキャスティングや、編集にも全て立ち会って、1本作り上げたのが『ゼロワン』の5話と6話でした。

中でも『パフューマン剣』という劇中漫画は、大まかなストーリー構成も僕が作ったものをそのまま採用してもらったり、それに合わせて漫画の表紙や映画版のポスターを作ったりと、転職したけど、前作のスキルをそのまま生かせるのが1発目の仕事だった。ハードルがなかったというか…。「あれ?なんか転職した覚えがない…。同じ仕事をやってるぞ。なんだったら前の会社に仕上げ発注したぞ」という感じでした(笑)。おかげで業種は違うけど、あまり差を感じずにこの仕事に移ることができました。

【瀧島氏】自分がプロデュース側に携わったことじゃないんですけど、キラメイジャーの撮影開始まではまだ間があるからと、現場研修的に入れてもらったのが『仮面ライダージオウ』の劇場版『仮面ライダージオウ Over Quartzer』でした。スーツアクターさんという存在は知っていたけど、現場に行ったらすごい人数の若者がいて。キャラクターの数が多いから、アクション補助の人数が多いんです。レジェンドキャストも来ていて。入社する直前に『ドライブ』を見返していたばかりで、稲葉友さんを見て「剛がいる!」みたいな感じで。花束を用意する仕事を仰せつかったりしていたので一つひとつが感激でしたね。

佛田洋監督という天才特撮監督がいるんですけど、仮面ライダーたちがキックをすると、敵が持っているバリアが破られていく、そしてなぜかその筆跡?が「平成」という文字になる、という絵コンテを、たぶん私が世界で一番最初に見せてもらっているんじゃないかと(笑)。早く着いたので田崎(竜太/※崎=たつざき)監督が来る前にこっそり見せてもらって。何が起きてるんだこれ、みたいな。田崎監督も、うれしそうに受け取っていました。歴史の1ページを目撃したような気持ちといいますか、一つひとつが、やばいことに関わっているという衝撃の連続でした。『Over Quartzer』というP.A.R.T.Y.な作品に最初に入れてもらえたからか、小さなことでは動じなくなったというか(笑)。しかも、現場で何かをできたとは全然思わなかったんですけど、名前をクレジットしてもらえました。カンパニーの中に入れてもらえる、作品の1つとして名前が残るのは、すごく重いことだし、うれしいなと感じました。

■『仮面ライダーガッチャード』はVシネクストでも青春貫く

――現状、関わっている作品の魅力を教えてください。
【湊氏】『仮面ライダーガッチャード』の場合は青春、元気、キラキラみたいなところを軸に作っていたので、最後の「卒業」というところに至っても、前向きに捉えられるような作品にしたいというイメージで作らせてもらいました。完成披露でお客さんに見ていただきましたが、非常に好評で。放送自体は終わりましたけど、連綿と続く作品郡の中の一つとして、「元気、青春といえば『ガッチャード』だよね」という作品になればいいなと思います。瀧島さんが言ってくれたように、これはたぶん自分のキャラクターだと思うので、まずは自分が楽しいと思える作品づくりを心掛けてます。

【瀧島】『仮面ライダーガヴ』の魅力の一つは、自分で決断して、自分の人生を切り開いていくことかなと思っています。『仮面ライダーギーツ』もやらせてもらっていましたが、全く主人公像が違う。ある程度アンサーを持っている浮世英寿は背中で語ると言いますか、ほかのキャラクターが彼を追いかけていくという構成です。『仮面ライダーガヴ』の主人公のショウマは、本当に知らないところに放り出されて最初は何をしたらいいのかわからない。でも進まなきゃいけない。やがて彼のまっすぐさが人をひきつけて、欠けたところを持った人たちが集まり、それぞれがもがいていくのが『ガヴ』の話です。仮面ライダーは、いろんな作品があるからこそ、自分に刺さるものが見つけられる。私たちが毎年違う作品を作って『仮面ライダー』という図鑑を、どんどん分厚くしてる作業なのかもしれないですね。だからこそ『ガヴ』で救われる人がいると思うし、ショウマみたいに生きていこうと思える人がいるかもしれないし、逆にショウマじゃまぶしすぎて絆斗やラキアに共感する方がいるかもしれない。まあなかなかこんな凄惨なことはなかなか起きないと思うんですけど(笑)。

【湊氏】だいたい親族死んでますからね(笑)。

【瀧島氏】孤独に戦うヒーロー、と最初に武部Pが言ってたので、みんなが付和雷同じゃなく、自分で答えを探していく姿勢をポップに、あまり重々しくなく伝えたいですね。

【湊氏】うちの子のイチオシは仮面ライダーヴラムです。でも、まだ「ヴラム」が言えないから「仮面ライダープリン!」と(笑)。

【瀧島氏】かわいいな〜!

【湊氏】だんだん成長とともに画面の前にいられる時間が長くなってきていて。そういう意味で本当にプリンは演出含めて好きみたいです。『ガヴ』見ると「プリン食べよう」と言うし、プリン食べると「『ガヴ』見よう」と言います。無限ループです(笑)。

【瀧島氏】あのプリンカップが落ちてくる変身の演出も佛田監督です!

――50年以上の歴史がある「仮面ライダーシリーズ」、「スーパー戦隊シリーズ」という作品に関わるプレッシャーはありますか?
【湊氏】最初に「チーフをやってくれ」と言われた時には流石に「うわっ」と思いましたね。思わず、平山(亨)さん、吉川(進)さんなど、歴代プロデューサーの経歴を見返して、皆さん何歳で初めてのチーフをやってるんだろうというのを全部調べて、表にしたんです。そしたら、自分は拝命された年が34歳で、放送始める時に35歳だったのでわりと普通だったことがわかりまして。昭和のころに行っても、日笠(淳/東映プロデューサー)さんが『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』をやったのがちょうど30歳の年で、「じゃあ、やれるか」と思った覚えがあります。とは言え、入社4年目はさすがにいなかったんですけど(笑)。でも、前職の経験もあるし、重みを受けつつも、今の自分にしか作れないものを作ればいいのかなというような感じで受け止めました。

【瀧島氏】それを聞くとすごいですね…。連綿とつながる歴史の中で働かせてもらっているな、というのはあります。けど、新しいものをどんどん追求していこう、と。もちろん冠名は変わらないし、そのイズムは、ずっと受け継ぐし、血は流れている。その中で、それぞれが新しいものを模索しながら作っている。感謝をしつつ、ちゃんと新しいものをお見せできればな、と思っています。『カクレンジャー』は30周年で、当時のPがもう東映から退社されていたので私が担当をさせていただくことになったのですが、当時のキャラの関係性とかはそのままにしつつ、ちゃんと各々が積み重ねた厚み=老いを表現しようとキャストたちとも話し合ってやっていました。あまり気を遣って小さくなってもしょうがないので、新しいものを提示しよう、という気持ちでやっていました。これからも新しいものが生まれるシリーズと思ってもらえるように新鮮に作っていかなきゃいけないなと思います。

■今や海外でも人気のシリーズ 海外展開でもやることは変わらず

――東アジアを中心に「仮面ライダー」「スーパー戦隊」が海外でもヒットしています。意識する部分はあるのでしょうか?
【湊氏】基本は日本で作っているので、日本人の倫理観で、日本人が見るものとして作っていますけど、例えば戦争など世界的なニュースがあった時には、意識しています。そういう意味では、どこにアジャストして、というより、世界中で誰が見ても楽しんで見ていただける話にはしたいと思っていて。例えば、『ガッチャード』の変身アイテムをカードにした一因に、海外でも手に取りやすく、という考えもあったんです。国や地域ごとに貧富の差はあっても、低単価なカードであれば届けられて、誰でも楽しめるかなと。だから、カードの表記は英語で書こうとか、「ガッチャ(Gotcha)」は英語だから親しみやすいんじゃないかとか、そんなことを最初に考えたりはしました。

【瀧島氏】『ガヴ』は最初から海外展開も視野に制作も早めたりしているんです。ただ湊が言っていることに近くて。気を付けなきゃいけないところはありますが、「こういうのが海外にウケそうだから入れよう」という意識は実はそんなになくて。自分たちも含めて面白いと思えるものを作らないと意味がない。おもちゃやグッズもカッコいいとかカワイイとか、ちゃんと心が動くものを作らないとしょうがないので、それが海外にも届くと信じてやっています。パーツごとに取り上げることはあっても「海外でこういうのが人気だから」というものだけを組み合わせている意識はないです。ただ、「ゴチゾウ」(主人公から生まれた変身アイテムにもなるもの)に書いてある文字がアルファベットなのは、世界に羽ばたけるようにという思いがあってのことですね。まだ私たちも手探りなところはあるので、よりワールドワイドになっていくために、どういう思考を身につけたらいいのかは日々勉強中です。

――具体的に海外からの反響は?
【湊氏】今、「ガッチャラジオ」という後夜祭企画でラジオ番組やっていて。そこのお便りフォームにブラジルやロサンゼルスからコメントが来たり、「タイで見てました」というお便りもいただきました。見る手段がいろいろあるので、何かで見られたと思うんですけど、作品キャストにコメント届けようと思って、日本語のサイトに送ってくださる熱意がすごいですよね。いただいてびっくりしました。ありがたいですね。

【瀧島氏】『ガヴ』は、日本の放送後かなり早いタイミングで配信され、キャストのSNSのフォロワーも海外の方がかなり増えていると聞きました。もちろん今までもあったけど、その率がやっぱり比べものにならないぐらい増えたな、というのはあります。世界に羽ばたいていってほしいなと思います。やっぱり公式で早く配信できるということは、ちゃんとパワーがあるんだ、というのを実感してます。

【湊氏】この間も『ドンブラザーズ』の志田こはくちゃんがバンコクのイベントに行って大盛り上がりになったらしいです。

【瀧島氏】『キングオージャー』の韓国もすごかったらしいですね。

【湊氏】マーベルなんかは、もともと自国の中でローカル的に人気を博していたものをワールドワイドなものにしようして、今、世界中で親しまれる映画シリーズへと育ったわけですよね。大人だけでなく、子どもたちにも人気を獲得している。だったら、日本でも同じことができないわけがないと思うんです。日本の中で特撮のシリーズが50年以上の歴史を持っているということは、やっぱり何かしら絶対に魅力があるはず。あとは届け方とか、我々自体が縮こまった作り方をしないことで、どこかで誰かに引っかかるタイミングがあるんじゃないかなと思います。世界に向けて、ということではなく、特撮作品の魅力をもっと引き出していけるような企画を今後も作っていこうと思っています。

【瀧島氏】このアクションや合成や造形のクオリティで毎週放送してる番組は、冷静に考えるといい意味でちょっとおかしいんですよ(笑)。裾野が広くなって海外も含めて見てくれる人が増えるのは一番いいことだと思います。本当にたくさんの技術を詰め込んで合成スタッフが仕上げてくれるし、現場もすごいスピードで撮影している。いろんな人の苦労が詰まったものなので、もっと全世界の人に見てほしいなと思います。別に今まで出し惜しみしていたわけじゃないんですけど、もっと世界に届いてもいいのに…!と思っています。

【湊氏】時々、ハワイで『人造人間キカイダー』とか、ブラジルで『巨獣特捜ジャスピオン』とか意図せず届いちゃってたりしますもんね。

【瀧島氏】あの、ガラス瓶に入れた手紙が届いた感じですよね!すてきなことです。いい作品を作っているので、それを届ける力を強くするのは私たちの使命でもあると思います。

――先輩から教えてもらった中で印象的な一言は?
【湊氏】直接言われたわけじゃないんですけど、白倉が「プロデューサーの仕事はなんですか?」と聞かれた時に「全部」と言ってたのが印象に残っています。「こういう企画をやります」とプロデューサーが紙ペラ1枚で言うわけです。で、誰も手伝ってくれる人がいなければ1人で全部やるのがプロデューサーの当然の仕事で。ただ全部やるのは不可能だから人を探して、頼んでお願いする。もしお願いできなかったら、それは自分でやる。何をやってもおかしくないのがプロデューサーの仕事というのが印象的です。だからこそ、仕事を受けていただけることはありがたいことだと思ってます。監督もキャストも現場スタッフの皆さんも本当に感謝です。

【瀧島氏】先輩プロデューサーの言葉で、その方の人生観すぎるんですけど…。人生の3分の1が睡眠の時間で、3分の1がプライベートの時間で、残る3分の1が仕事の時間。「寝るのは好き。プライベートは楽しいことをする。じゃあ仕事が楽しければ全部が楽しいじゃないか」って(笑)。すごく明るい人だなって思いました(笑)。でも、現に先輩はそう思える仕事についている。私もどんな業務にも楽しみが潜んでいると思っているので、自分でちゃんと見つけていこうと思いました。

――これから応募しようか考えているプロデューサーの人に向けてメッセージを。
【湊氏】プロデューサーは、どんな経験も活かせる仕事だと思います。ただ1つ応募条件的なものがあるとすれば、我々の仕事はできあがった作品を見ることではなく、作ることになるので、僕だったらアニメだし、瀧島だったら内装だったり、何かを作ったことがあって、それが楽しいと思える人に来て欲しいですね。実は作ることって、できあがりを見るよりも楽しいんですよ。

【瀧島氏】やっぱり人が好きな人がいいと思います。東映という会社でプロデューサーをやるのであれば、いろんな部署の人と関わります。イベントをやるのも、国外に持っていっていただくのも1人ではできなくて、沢山の人の知恵や力を借りていくことになります。撮影現場でも、全部自分で脚本書いて、撮影して、録音して、照明して、ではないですし。人とモノを作るとか、そういうことが好きな人であれば、乗り越えられることが多いと思います。自分のスキルが全てではなく、脳みそを集める力、お話ししてスキルのある人に動いてもらう力の方が大事ですね。それを私が今できているかというとわからないんですけど。自分だけじゃ生み出せないものを誰かと生み出すことが好きな人とお仕事したいなと思います。

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