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開業医のAさんは本日の患者さんへの診察を終えると、診察室のカーテンを閉めて深いため息をつきました。彼の表情には安堵感よりも疲労感が色濃く表れていました。
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理由は、患者の家族からのクレームが急増していることに頭を悩ませていたからです。先日もひとりで来院した年配の患者さんに処方箋を出したところ、後日、患者の家族から「儲かるからって薬出し過ぎだろう!」と激しい口調のクレーム電話が入ったのです。
Aさんは患者さんの症状を慎重に診断し、必要最小限の薬を処方していたにも関わらず、患者の家族の目には「儲け主義」と映ってしまったようです。
さらに衝撃的な出来事が続きます。診察が終わり薬局に行った患者さんが、医院に戻ってきて「別の病院で同じ薬もらっていたのに、なぜ同じ薬をだすのか!」と怒鳴りはじめました。
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Aさんが患者さんの情報を確認してみると、お薬手帳を持参しておらず他の病院での処方内容を把握することが不可能でした。それにもかかわらず、患者さんはAさんの診断が悪いという考えを変えようとしません。
あくまでも患者さん第一で診療してきたAさんでしたが、さすがに堪えています。このようなクレームが生じる背景はどのようなものなのでしょうか。株式会社S&Sメディカルコンサルタントの田中健太さんに話を聞きました。
ー処方箋や薬の重複がクレームにつながる背景には何があるのでしょうか
背景には、院外処方の普及と患者側の誤った認識があると考えます。院外処方の場合、医師が薬の種類を増やしても診療報酬は変わりません。むしろ1度の処方で7種類以上の薬を投薬した場合、「多剤投与」とされ、処方せん料が減算されてしまいます。薬を多く出すメリットは院外処方を採用している病院にはありません。決して儲け主義から、薬を多く出しているわけではないのです。
また患者さんが複数の医療機関に通院している場合、医師はお薬手帳や患者の申告がない限り、他院での処方内容を把握できません。患者さんはお薬の名前まで覚えていないことも多いため、同じ薬を出してしまうのもやむを得ないのです。
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このような医者側の事情を患者側が誤解しているため、クレームにつながってしまうのだと考えます。
ー医者に対して患者の家族がクレームを言うのはどんな背景があるのでしょうか
根底に「医は仁術である」という認識、つまり患者のために何でもやるべきだとの思いがあるからではないでしょうか。また「医師は高収入」という過剰な思い込みを患者が持っている面はあると考えます。そのため診察時に目も合わせてくれなかったとなると、「まともな診察をせず儲け主義に走っている」とクレームにつながるというものです。
さらに最近ではSNSや口コミで情報を調べてから通院する人も増えています。高評価のはずの病院に期待していったのに、期待外れだとマイナス評価につながってしまいます。そのため、近年の病院はサービス業のような対応が求められているのです。
◆田中健太(たなか・けんた) 株式会社S&Sメディカルコンサルタント代表取締役社長。医院、歯科医院専門の外部事務長。スタッフ採用、育成から書類作成、トラブル対応など「院長先生を一人で悩ませない」をモットーに活動中。
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(まいどなニュース特約・長澤 芳子)