
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「トレーサビリティ」について。
* * *
あたしゃ驚いた。コメが高くなって、政府はやっと備蓄米21万トンの放出を決定した。市場に並ぶのは3月末になる。
遅きに失したとは思うが、驚いたのはそれが遅れた点ではない。私が問題だと思うのは、行政が「値上がりしている理由は不明」(大意)と述べた点だ。つまり誰がコメを買い占めたり、手放さなかったりしているか追跡不能だという。
もちろん、これは"素直"だとはいえる。しかしねえ、日本はずっと食品のトレーサビリティを国家政策として掲げてきた。なのに、小麦や原油と並んで最重要なコメすらも追跡できないと吐露したのだ。国民生活を守るために頑張ってほしいなあと同じく"素直"に思う。
|
|
イーロン・マスクはDOGE(政府効率化省)を通じて、米国民の消費や企業の全取引についてブロックチェーンによる記録化を提案している。そうすれば、お金とモノの流れを明確化できる。税金をとりっぱぐれることもない。市場では自由に取引をすればいいが、今回のような買い占め・市場操作についても原因判明の一翼を担うかもしれない。
なお、私は税理士から「あなたの仕事は脱税できないね」と言われた。私はコンサルタントだが、現金のやりとりは存在せず、すべて振込み。また、請求書を必ず出すから売上げを誤魔化す余地がない。だからこれは現金商売をしている方々への恨み節からの提案ではある(笑)。
先日発表された2024年の日本のGDP速報値は609兆円で、はじめて600兆円を超えた。しかしこれはあくまで「名目」。物価の上昇=インフレを考慮した実質GDPは、前年比でたったのプラス0.1%だった。
これは速報値で、実際にはマイナスになる可能性すらある。米国のトランプ大統領が自動車に25%もの関税を実際にかけるとなれば、今後はさらにやばい状況になりかねない。
国内は基礎控除(年収の壁)を引き上げるだけでも政治がガタつき、遅々としている。人びとが使える金額は増えず、制約や既得権益は生きている。経済が成長するはずがない。
|
|
トランプ政権よろしく現金をできるだけ減らし、取引をブロックチェーン化すればマネーロンダリングの可能性が減る。政策的に民間同士の金銭的交換も「見える化」され、透明化が進む。
ただし、現代日本では統計上申告されない現金商売が相当数あるといわれる。GDPの1〜2割と試算する人もいる。売上げ申告しないから、当然ながら税金は支払われていない。
それが「見える化」されたら、一部の飲食店経営者などの実入りは減少し、経済悪化につながるかもしれない。積極的にやろうとする政治家はいないだろう。
そこで提案をひとつ。
現在の日本では会計処理上、基本的に10万円以上のモノを購入したら固定資産の登録をして、減価償却しなければならない。つまり一括でコスト計上できず、税金を余計に払わねばならない。だから設備投資が進まない。モノの価格も上昇しているなか、この制度は基礎控除と同じく基準となる金額が低すぎるし、古すぎる。これを50万円くらいに上げてくれ。
|
|
そうだ。もしイーロン・マスクがホワイトハウスから離反したら(可能性は十分にある)、いっそ日本にヘッドハントしてみたら? 外圧に弱い日本の改革にぴったりでは?
写真/時事通信社