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男女トラブル、不倫、人権意識を欠いた暴言など、芸能界では不祥事が多発している。その一方、おめでたい結婚などの話題も相次いでいるが、昔の芸能界と大きく異なるのが、ネガティブな発表でもポジティブな発表でも「記者会見を開くことがほぼなくなった」ということだ。
現在はSNSや公式サイトなどで文書を発表したり、YouTubeで動画を公開したりといった「一方通行」の形が主流になっているが、この大きな変化はタレントや業界にどのような影響をもたらしているのだろうか。
長年芸能の世界に携わってきたベテランの敏腕テレビマン・A氏にインタビューすることで芸能界の裏側に切り込む連載企画の1回目として、今だからこそ「記者会見」の意味や効果に注目してみたい。
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記者会見が生み出す「ガス抜き」効果
A氏は不祥事を起こしたタレントこそ、記者会見を開くべきだと指摘する。
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A氏「記者会見による『ガス抜き』の効果はとても大きい。一時はさらし者になって、記者から嫌な質問を浴びせられて、辛い時間を過ごすことになるでしょうが、最終的にはその人のプラスになります。もちろん、あまりに受け答えの印象が悪かったらダメですが、基本的にはいい方向に進むはずです。少なくとも、会見をやらずに文書や動画だけで済ますより、間違いなく本人にとってポジティブな効果が生まれる。
なぜかといえば、会見で1回しゃべりさえすれば、大半のメディアは引き下がるので一つの大きな区切りになるからです。会見が不十分でしゃべってないことがあり、週刊誌などが追加取材することはあるかもしれませんが、テレビや新聞といった最大手のメディアは会見を一度やれば基本的に追いかけなくなります。それだけでもバッシングの熱量が大きく低下し、不祥事の影響がダラダラと長引くことを防げる。記者会見までやらなくとも、囲み取材で5分でも10分でもしゃべるだけで、状況はまったく違ってきますよ」
以前は記者会見の効果を認識し、上手に使っているタレントも多かったようだ。
A氏「最も記者会見をよく使っていたのは歌舞伎役者さんですね。たとえば、元暴走族リーダーらと酒席でトラブルになった市川海老蔵(現・市川團十郎)、隠し子騒動があった市川染五郎(現・松本幸四郎)、酒気帯び運転と信号無視で検挙(2006年)された中村獅童など、問題が起きた直後に謝罪会見をやることが多かった。ひいき筋を意識したパフォーマンスの側面もあるでしょうが、会見をやれば報道やバッシングが早く収まり、結果的にプラスになることを歌舞伎界の人たちはよくわかっていたのです。
本人でなく『サレ妻』が会見するケースもあり、中村橋之助(現・中村芝翫)の不倫騒動で妻の三田寛子が会見したことがありました。三田は凛とした態度で『ここからが彼の男として、人としての見せどころ』などと話し、見事な梨園の妻ぶりが評判になったことで、夫へのバッシングを収束させた上に自分の株まで上げました」
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芸人の記者会見の成功例は
最近は芸人の不祥事が多いが、やはり会見は大きなプラスになるようだ。
A氏「芸人の代表的な成功例としては、狩野英孝の会見があります。2017年に未成年女性との淫行疑惑が報じられ、本来なら表舞台から消えてもおかしくない騒動となりましたが、22歳だと偽っていた女性が未成年であると分かった経緯について『野生の勘』と発言するなど天然ぶりが炸裂。汗びっしょりになりながら厳しい質問に答えつつ、本人の意図せぬ笑いがたびたび生まれる会見となり、彼の憎めない人柄が視聴者に伝わった。
結果、謹慎になったものの数カ月で復帰し、イメージが悪くなるどころか『愛されキャラ』が際立つことになりました。事実を認めてちゃんと謝り、カメラの前で記者たちに厳しい質問を浴びせられて反省した姿を見せることは、事態の収束を間違いなく早めます。狩野のように人柄が伝わり、世間がむしろ同情的になることもある」
狩野の記者会見は、本人が汗だくになりながら長時間対応していたことから、マスコミ側から「可哀そうなのでこのあたりで切り上げたら」といった声も上がったが、事務所スタッフが「最後までやらせてあげてください」と続行させたという逸話がある。このころは、事務所側も記者会見の有効性を強く認識していたのだろう。会見でボコボコにされている姿を見せればガス抜きになり、世間の怒りも収まっていくわけだ。
なぜ記者会見がなくなったのか
記者会見を開くことにメリットがあるのなら、なぜ最近は会見がほとんどなくなってしまったのだろうか。
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A氏「はっきりと『会見をやらないのが当たり前』となったきっかけは、2020年からのコロナ禍ですね。会見うんぬん以前に人が集まれなくなった。それがタレントさんにとっては『わざわざ会見でさらし者になって辛い思いをしなくていい』という口実になった部分もあるのでしょう。コロナの時期に不祥事の謝罪会見をやったのは、アンジャッシュの渡部健くらいじゃないですかね。
ただそれ以前からタレントの『会見離れ』の兆候はありました。ある有名女優が『記者会見をするのはカッコ悪い』というような主旨のことを言って、それが業界に浸透していった記憶があります。それから事務所やマネージャーさんの間で『タレントのイメージのためにも会見はやらないほうがいい』という空気が広がった。実際は逆で会見を開いたほうがイメージは回復しやすいのですが、そういった兆候があった上でコロナ禍が決定打になったといえます。
テレビ業界側の問題でいうと、情報番組があまり芸能人のスキャンダルを扱わなくなったというのも、会見が減ったことに影響しています。また、最近はワイドショーの記者が芸能人を追いかけたりすると、ネットで『何の権限があって追い回すのか』『他人のスキャンダルを生業にして家族がかわいそうだ』などとメディア側が非難を浴びやすくなった。それもあってテレビの情報番組は芸能ニュースにおける攻めの姿勢がなくなり、会見を開いてほしいと事務所に求めることもほとんどなくなってしまったのです」
近日公開のインタビュー第2弾では、中居正広氏がもし記者会見を開いていたら引退は避けられたのではないか……といったテーマでお送りする。
(文=佐藤勇馬)