
ダンロップブランドを展開する住友ゴム工業が、これまでの常識を覆すオールシーズンタイヤを発売し人気を集めている。自動車産業が100年に一度の変革期を迎える中、タイヤメーカーが仕掛ける次世代タイヤ戦略について、住友ゴム工業の山本悟社長に聞いた。
「ダンロップ」次世代タイヤ ゴムの常識を変える新技術千葉県松戸市にあるタイヤ販売店。店内の一番目につく場所に置かれているのは
住友ゴムが2024年10月に発売したオールシーズンタイヤの「シンクロウェザー」。
タイヤセレクト松戸 飛田正人店長:
一番多いときで1日4組ぐらい予約があった。同じタイヤで1日4組はなかなかない。シンクロウェザー指名で購入する人が多いと感じる。
このシンクロウェザーはオールシーズンタイヤとしては世界で初めて国際的な氷上性能テストに合格し、「アイスグリップシンボル」を取得した。一面に氷の張ったテストコースでも、カーブでタイヤが流れることもなく、しっかりと止まることができる。価格はサイズによって1本1万9140円から10万3290円と高価格帯に位置する。
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タイヤセレクト松戸 飛田正人店長:
(冬用タイヤは)1年間で2回履き替える手間がかかってしまうので、あとは家に置き場所がないという人にも選んでもらうことが多い。
――何がこれまでのオールシーズンタイヤと違うのか?
住友ゴム工業 山本悟社長:
凍った路面が、従来のオールシーズンタイヤだとまだまだそこに課題があった。
――なんちゃってオールシーズンともいわれた?
住友ゴム工業 山本悟社長:
そのレベルをどう上げるかっていうのは、各タイヤメーカー競っているところだと思うが、今回私ども 「アクティブトレッド」という技術を開発したので、今までのアプローチとは全く違う次元のアプローチとして氷の上の性能をアップさせた。
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シンクロウェザーに使われている「アクティブトレッド」。ゴムに特殊な素材を混ぜることで、路面の「水」と「温度」に反応してタイヤ表面のゴムの性質を変化させる技術。水に反応する「水スイッチ」は、水に触れるとタイヤのゴムの化合物の結合がほどけ、柔らかくなり、温度に反応する「温度スイッチ」は、本来なら硬くなってしまう低温状態でもゴムが硬くなりにくく柔軟性を保つことで、滑りやすい路面状態でもグリップ性能をキープする。
制動距離のテストでも濡れた路面では、サマータイヤと同等以上のブレーキ性能を発揮し、オールシーズンタイヤの弱点とされた凍った路面でもスタッドレスタイヤと同等の結果となっている。
シンクロウェザーの開発拠点が、兵庫県神戸市にあるタイヤテクニカルセンター。
シンクロウェザーと同じ性能を持つゴムの板を使ったテスト。硬度計で計測すると、乾いた状態よりも濡れた状態の方が柔らかくなっているのがわかる。
住友ゴム工業 タイヤ事業本部材料企画部 猪飼拓真さん:
シンクロウェザーも水に即時反応して柔らかくなる性能がある。
また、現在、低温でも柔らかくなる素材の開発を、北海道大学と進めている。
手のひらで温めた素材は、ピンと張った状態を保っているが、保冷剤で冷やすとすぐに柔らかい状態に変化する。
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住友ゴム工業 タイヤ事業本部材料企画部 猪飼拓真さん:
今回、元々タイヤに入れるような材料ではないものも入れていて、そういったところは我が社の別の部門(産業品やスポーツ用品)からこういったものを入れてはどうかというアイディアを得た。材料の可能性は無限大になっている」
――高性能な「オールシーズン」。ビジネス縮小の懸念はないのか。
住友ゴム工業 山本悟社長:
年間の販売本数のうち、当然ながら夏タイヤの比率が圧倒的に多いので、私どもとしては夏タイヤを全てシンクロウェザーに変えてもらいたいと思う。夏タイヤとしても、音は静かだし、もちろんドライ性能は夏タイヤそのものの性能をしっかり持っているし、非常に良いレベルに仕上がっている。現在は水のスイッチと、それから温度のスイッチだが、第3、第4のスイッチも並行して研究している。
――なんですかそれは。
住友ゴム工業 山本悟社長:
今、まだお話できない。
――成熟したタイヤ業界。新素材の可能性は?
住友ゴム工業 山本悟社長:
まだまだゴムの技術革新、そこから生まれるノウハウが様々な商品に導入してもらえると思っているので、楽しみにしている。
――「シンクロウェザー」。販売戦略での位置付けは?
住友ゴム工業 山本悟社長:
私どもは今、プレミアムタイヤの拡販に注力をしていっている。我々の新技術で、差別化をして、お客様により良い価値をご提供できるタイヤ。このプレミアムタイヤの代表例が今回のアクティブトレッドを搭載した、シンクロウェザーということになっている。将来の戦略的な商品として投入をして、ブランドのグローバルの展開に合わせてオールシーズンタイヤをしっかりと市場で拡大をしていく。
現在、自動車業界は「CASE」と言われる電動化や自動運転といった大変革期を迎えていて、タイヤメーカーもその対応に迫られているという。
住友ゴム工業 山本悟社長:
EV用で求められるタイヤというのは結構シビア。
――ガソリン車とは、違うのか。
住友ゴム工業 山本悟社長:
一つは電池を積むので、荷重がすごくある。荷重があってトルク(回転力)があるので、摩耗に非常に大きな影響。それから1回の充電で長く走れることを重視しているが、低燃費にして「転がり抵抗」をどんどん下げていくとウェットグリップが落ちてしまう。この両立が今、タイヤメーカーが一番注力してるところの一つ。今までのタイヤの設計、ゴムの技術だと、なかなか両立が難しかったが、私どもは「アクティブトレッド」という全く違うアプローチがある。
――つまり、電動車専用のベストなタイヤを作っていく上でも、今回の新しいタイヤ技術は核になると。
住友ゴム工業 山本悟社長:
それからその先にある自動運転。自動運転というのはドライバーがいない。人が運転していて「雨が降ってきたな」「ちょっとスピード緩めようか」となるが、自動運転車は自動で運転していく。タイヤ自体が変化していくので、本当に自動運転にもアクティブトレッドは適応していく。
アクティブトレッドと並びもう一つ、次世代戦略の柱となる開発を進めている。住友ゴムがもう一つの次世代戦略の柱として開発を進めているのが、タイヤをセンサーのように活用する「センシングコア」技術。
住友ゴム工業 山本悟社長:
私どもには「空気圧警報装置」という仕組みがあるが、うちのはハードセンサーを一切使わない。
――どうやって空気圧を?
住友ゴム工業 山本悟社長:
空気圧が減ると当然、径も変わったり、四輪の車輪速も、微妙な変化が生まれる。どこの空気圧が減っているかをソフトウェアで車輪速の変化から読み取る。センシングコアの元となるソフトウェアの空気圧警報装置が5000万台走っている。
走行中のタイヤから得られるデータを分析する、センシングコア技術では空気圧のほかにもタイヤの摩耗や荷重、脱輪の予兆などを察知することができる。
また、タイヤのグリップする度合いを計測することで、将来的には走っている路面の滑りやすさを地図上に反映させ、ドライバー同士で共有するサービスの実現を目指している。
――今風に言うと、素材メーカーのDXビジネスということか。
住友ゴム工業 山本悟社長:
ゴムの開発が中心だったが、「CASE」の時代にタイヤがどう役に立てるかを考えている。
――「センシングコア」。自動運転への活用は?
住友ゴム工業 山本悟社長:
社会のインフラと繋がりながら自動運転にも活用していく。すでに中国の蘇州で自動運転の実証実験をセンシングコアを装着してもらっている。
――伝統的な産業が最もイノベーティブな世界と繋がっている。
住友ゴム工業 山本悟社長:
路面と唯一接しているのはタイヤなので、タイヤの役割はますます強くなってくる。
シンクロウェザーは、水と温度に反応して雪や氷の上では柔らかく、夏のアスファルトの上では硬さを保つという特徴がある。またオールシーズンタイヤとしては世界で初めて氷上性能の基準をクリアした「アイスグリップシンボル」を獲得。氷の上でも同じスタッドレスタイヤと同じぐらいの距離で止まることができる。
――タイヤの材質自体が変化して対応できるというところがすごい。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生 氏:
本当にサイエンスの時代だなと思う。「センシングコア」の技術のところはデータを取るという、データサイエンスが使われているということにびっくりした。
「センシングコア」は、現在開発が進められているこの技術。走行中の車輪から得られる情報を基に、空気圧や磨耗・荷重・脱輪予兆、さらに路面状況などを把握して運行管理者、ドライバー同士で共有することができるというソフトウェアシステム。
――空気圧が減っているマークはタイヤの空気圧を測っている車もあるが、車輪での微妙な変化でわかる。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生 氏:
「自動運転で(進化が)終わりだ」みたいに思っていたが、これまだまだどんどん車は進化する。
伝統的な素材産業で成熟していて、変わらないのではないかと思っている産業でも、新しいナノ技術やそれを解析する技術などによって、新しい素材がさらに進化していく。
――さらに「センシングコア」の面白いところは、素材産業がDX化できるということだ。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生 氏:
素材だけではなく、そこにデータや分析力を加えると、企業の競争力が高まる。簡単には真似できない技術なので、国際競争力が高まるということではないか。
(BS-TBS『Bizスクエア』 3月1日放送より)