NECのDX事業はなぜ好調なのか 同社の最新動向から探る「DX推進に必要な“力”」

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2025年03月05日 07:11  ITmediaエンタープライズ

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NEC 執行役 Corporate SEVP 兼 CDO(最高デジタル責任者)の吉崎敏文氏(筆者撮影)

 企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める上で必要な“力”とは何か。NECのDX事業の最新動向と、同社会見での質疑応答の内容から考察する。


NECのDX事業はなぜ好調なのか 同社の最新動向から探る「DX推進に必要な“力”」


●NECが推進する「DXを成功に導くシナリオ作り」


 NECが2024年から「BluStellar」(ブルーステラ)というブランド名で展開しているDX事業が好調に推移している。直近の四半期(2024年10〜12月)の業績では、同社の事業の柱であるITサービス事業の3分の1を占めるようになり、「ITからDXへの転換」を実感させる動きを見せている。


 同社のDX事業の陣頭指揮を執るNECの吉崎敏文氏(執行役 Corporate SEVP 兼 CDO)が2025年2月27日、最新動向について記者およびアナリスト向け説明会を開いた。その中でDX推進で必要とされる“力”を探るのにヒントになりそうな話があったので、従来型のITサービスとNECが提供するDX事業「BluStellar」との違いとともに紹介しよう。


 「BluStellarを一言で表すと、『お客さまを未来へと導く価値創造モデル』だ」


 こう強調する吉崎氏は、BluStellarを構成する要素として「ビジネスモデル」「テクノロジー」「組織/人材」の3つを挙げ、「お客さまが求めるビジネスモデルに対して、当社が提供するテクノロジーとその活用を支える人材を用意している」と説明した。また、これらによるソリューションの提供形態として「戦略コンサルティング→サービスデリバリー→運用・保守」の流れを示した(図1)。


 BluStellarはSI(システムインテグレーション)をはじめとした従来のITサービスとどう違うのか。吉崎氏は、「従来は、個別のお客さまに対して当社の個別のアカウント部門がそれぞれの要望に沿った製品やサービスを提供してきた。それに対してBluStellarでは、当社がこれまでのITサービスで実績を上げてきたアセットやナレッジを『Scenario』(シナリオ)に集約し、お客さまの経営課題の解決に向けたコンサルティングからデリバリー、運用、保守までお客さまにとっての価値を提供する」と説明した。(図2)


 同氏の説明の中で注目すべきキーワードが「Scenario」だ。これについて同氏は「お客さまが抱える課題を解決するための価値創造シナリオ」だとし、その中身について「お客さまの課題解決へ向け、当社が提供するコンサルティング、製品やサービス、オファリング、インテグレーションを組み合わせて提供し、お客さま価値を創出する」と説明した(図3)。


 NECはScenarioのメニューとして、5つの顧客課題に対して8つの取り組みを推進しており、そこから業種共通Scenarioを14件、業種別Scenarioを11件、整備している(図4)。


 Scenarioについての吉崎氏の話で印象深かったのが、「DX事業を推進するにあたり、当初はオファリングを前面に出していたが、それだけではお客さまに受け入れられないと気付いた。その前にお客さまの課題をどう解決するか、そのシナリオが求められていると痛感し、Scenario作りとその提案に注力した」との発言だ。


 顧客起点で考えるというのはよく言われることだが、大きなビジネス転換の中でそれがぼやけてしまうこともある。同社はそれを軌道修正する際、コンサルティングではなくシナリオという言葉を前面に出した。これが多くの顧客企業にとって取り入れやすい印象を与えたのではないかと推察する。


 ユーザー企業にとってもこの話は、DXをイメージするシナリオ作りに自らも積極的に関わるのが肝要なことを示唆しているのではないか。


●DXに求める価値を見いだす“力”をつけよ


 正式には「BluStellar Scenario」と呼ぶScenarioは、ここにきてその内容によるベストプラクティスのフレームワーク化として、3つのパターンに広がった。Scenarioに沿って案件の内容がコンサルティングからデリバリー、運用に連鎖する「Scenario連鎖型」、Scenarioの内容を変えずに複数の案件へ広がる「Scenario水平展開型」、当初のScenarioから別の内容のScenarioが追加される「Scenario発展型」だ。最後の発展型は、モダナイゼーションが発端となって働き方改革につながるのが一つのイメージだという(図5)。


 吉崎氏は図2で紹介した「従来(Before)」と「BluStellar(After)」の具体例として、大手銀行のモダナイゼーションの例を図6に示した。


 この図のポイントは、従来はアプローチにおいて個別の案件として提案し、実装および運用でも個別にSIを実施してきたのに対して、BluStellarではScenarioをベースにアプローチし、コンサルティングとモデル化したSIによって実装および運用をすることで、NECにとって短期間で収益性の高い案件になったことだ。


 さらに、ユーザー視点からも短期間でコストパフォーマンスの高いサービスになったと捉えられる。


 同氏はAIの活用についても、「BluStellarにおける戦略コンサルティング、サービスデリバリー、運用および保守の全てのプロセスにAIを活用して、お客さまの価値を最大化させる」と述べた(図7)。


 会見の質疑応答で、筆者は「BluStellarによるDX事業が直近の四半期でITサービス事業の3分の1を占めたそうだが、今後どのぐらいの割合まで高まりそうか。BluStellarによって、ユーザーはこれまでと何か違ったものを得られるのか」と聞いてみた。これに対し、吉崎氏は次のように答えた。


 「割合については、個人的な思いとしてまずは5割にしたい。その先はAIの活用がカギを握るだろう。BluStellarによってお客さまが得られるものとしては、お客さまが求めておられる価値だと改めて強調しておきたい。私としてはScenarioをはじめとしたソリューションによって、その手応えを大いに実感している」


 吉崎氏のこの回答を受けて、ユーザー視点でこれから必要になるのは、「DXによって自社が求めている価値とは何か」を、NECのようなITベンダーの力を借りながらも、できるだけ自ら見いだす“力”ではないかと申し上げたい。BluStellarでいえば、Scenarioの最初の部分にも積極的に関わる姿勢が大事だと考える。


 自社のDXのXは自分たちで考える――。本連載でもこれまで幾度も訴えてきたが、その姿勢こそがDXの核心であることを改めて強調しておきたい。


○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。



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