「トランプ関税は怖くない?」 現場は余裕(!?)のニッポン自動車メーカー"必勝戦略"

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2025年03月06日 13:10  週プレNEWS

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2月18日、トランプ大統領は記者団から自動車関税について問われ、「4月2日に伝えることになるが税率は25%前後になる」とキッパリ


トランプ大統領がブチカマしてきた鬼の自動車関税。大手メディアは「日本自動車メーカーに大打撃」と大騒ぎ。マジか! ニッポンの基幹産業は大丈夫なの!? というわけで、関係者や専門家に話を聞いてきた。

【写真】米国市場で爆売れのトヨタ車

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■米国で需要が伸びるハイブリッド車

米国のトランプ大統領がブチ上げた自動車関税25%問題にニッポンの大手メディアは大騒ぎとなっているが、そもそも米国市場で日本メーカーのクルマは売れているのか。自動車ジャーナリストの桃田健史氏が解説する。

「2023年、米国の乗用車市場で日本車のシェアは48%と約半分を占めました。売れ筋はCセグメント、Dセグメントと呼ばれる中小型車のSUVとセダンです。日本勢の売れ筋モデルはトヨタのRAV4、カムリ、カローラ。ホンダのCR−V、アコード、シビックですね」


そして昨年、米国での新車販売台数は約1590万台。3143万台をマークした中国に次ぐ世界2位の巨大マーケットである。そんな米国市場の主要自動車メーカーはどこか。

「シェアベスト5を挙げると、GMが17%、トヨタが15%、フォードが13%、ヒョンデ11%で、ホンダ9%という状況です。全体的にアメ車が目減り(テスラは鈍化傾向)、日本車上昇の傾向です」

その背景には、世界的に需要が落ち込むEV(電気自動車)を尻目に、ニッポンの"お家芸"とも言えるハイブリッド車の需要が大きく伸びている現状がある。そこにぶっ放されたのが"トランプ関税砲"である。具体的にどんな影響が予想されるのだろうか。

「現在の関税は2.5%ですが、これが25%になると10倍に跳ね上がってしまう。つまり、400万円のクルマを米国に輸出する場合、関税はこれまでの10万円から一気に100万円に......。ちなみに昨年は、日本から米国に約137万台が輸出されています」(自動車誌の元幹部)


仮にこの25%関税が価格に転嫁されると、米国の現地メーカーとの販売バトルが不利に働く可能性も......というわけで、大手メディアが大騒ぎしているのだ。だが、トヨタもホンダも、中の人たちには特に慌てた様子はないと関係者らは口をそろえる。桃田氏が言う。

「もちろん、自動車メーカーへの影響はとても大きいです。ただし、日本の自動車メーカー各社は大統領選挙期間中から"もしトラ戦略"を当然検討してきており、今の動きも想定内なのです」

日本の各自動車メーカーの「想定」の中身とは?

「例えば、バイデン政権が実施したIRA(インフレ抑制法)の見直しです。これによるEVへの最大7500ドルの税額控除の廃止も想定されていました。同様に、"Buy American""Made in America"をうたう保護主義政策の強化の中での関税引き上げも想定内です。25%という税率は想定の中でも高い数値ではありますが」

では、これから日本メーカーはどんな戦略を打つのか。

「端的に言うと、米国内工場の生産能力の拡大です。トヨタ、ホンダの場合、関税の対象となる日本から米国への直接輸出はすでにかなり減らした事業戦略になっています」

一方で、桃田氏は米国内工場の生産能力の拡大の課題についてもこう指摘する。

「事実上、自動車メーカーに呼ばれる形でカナダやメキシコに進出した部品メーカーの扱いがどうなるか。部品メーカーの工場についても米国内に移管、または自動車メーカーが既存の米国内工場の生産能力を拡大して対応するとなると、部品メーカーの経営に打撃も。

そうした部品メーカーのコスト増などを自動車メーカーがしっかり受け止めることが、下請法も踏まえた自動車メーカーの責務です。いずれにせよ、今回の"トランプ関税"により、結果的には自動車メーカー自社のコストアップを含め、新車価格が上昇することが考えられます」

自動車評論家の国沢光宏氏は、今回の"トランプ関税"についてこう見立てている。

「そもそもトランプは米国を豊かにするのが狙い。仮に日本からの直接輸入車に25%の関税をかけると、米国内では値上がりし、当然売れなくなる。

そこで日本の自動車メーカーが米国に工場を造ると言えば、巨額の投資や雇用が期待できる。しかも自動車産業は裾野が広いのでメリットも大きい。

つまり、関税への防衛策の肝は、自動車の生産拠点をどれだけ米国に移せるか。実はこの"取引"に関して言うと、日本の自動車メーカーは痛くもかゆくもない」

仮に日本の自動車メーカーの生産拠点が米国へ移転すると、困るのは下請けだという。

「確実に割を食うのは取引先の中小の部品産業や、日本国内の生産拠点のある地方自治体、地域経済です。例えば日本の自動車メーカーが米国に工場を造るとします。当たり前の話ですが、米国の雇用は増えて日本は減ります。

繰り返しになりますが、自動車メーカーに打撃はありません。困るのは下請けと地域経済です。果たして国は"自動車産業"を守れるのか。今、岐路に立っていると思います」


さらにトランプ大統領が激オコなのが、日本市場でアメ車が全然売れないこと。ちなみに米国のクルマを日本に輸入する場合の関税はナシなのだが、トランプ政権は「日本の補助金などが"非関税障壁"になっている」と大騒ぎしているから厄介だ。

「今も昔もアメ車はデカく、燃費が悪い(笑)。日本の道路環境に適していません。売れない理由はそこに尽きる」(前出・自動車誌元幹部)

最後に桃田氏が言う。

「ホンダの青山真二副社長は第3四半期決算発表の場で、『こうした(トランプの)政策がいつまで続くのか、見極めることは難しいことが課題』と発言していました」

"楽しい日本"を掲げる石破政権。この難局をどう乗り切るのか。

取材・文/週プレ自動車班 撮影/望月浩彦 写真/時事通信社 共同通信社

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