
米国発祥のラケットスポーツ「ピックルボール」が、日本でも徐々に人気が高まっているのをご存じだろうか。日経トレンディの2025年ヒット予測でも14位にランクインし生涯スポーツとして期待されるなか、テニス経験者らの競技転向も増え続けている。日本にこの競技を広めたのは長野県在住のアメリカ人、ダニエル・ムーア(35)。元全米チャンピオンだ。彼は、ようやく火がつき始めた”ピックルボール熱”をさらに昇華させようと「プロ選手」の育成に着手し始めた。そのプロジェクトをシリーズで追う。(第2回)
【写真を見る】親子で「世界を目指す」参加者も 黒船スポーツ”ピックルボール”で下剋上なるか グローバルトッププロ育成プロジェクトが始動【#2】
ピックルボールで世界と戦いたい、そんな強い思いを持ったプレーヤーたちが人生をかけたトライアウトに挑む。2月22日、この日は「グローバルトッププロ育成プロジェクト」の2回目のセレクションが開催された。会場となった神奈川県横浜市は寒気の影響で変わりやすい天気、昼過ぎには「にわか雪」も降るコンディションとなった。前週のセレクションは、ピックルボールの既存大会と被った為、いわゆる競技歴の達者な猛者たちは参加することができなかった。その分、今回のセレクションには多くの経験者が集った。
ダニエルコーチとともに、前回は欠席した藤原里華コーチ(43)も選考に加わり、このプロジェクトの二枚看板である育成コーチが顔を揃えた。前週と同様に、9時、12時、15時と3回に分けてセレクションが行われる。9時前からウォーミングアップに励む選手たちの様子を、藤原コーチは目を輝かせながら見つめる。
「今日から参加で、楽しみです。ウォーミングアップから見ておこうと思って。取り組む姿勢とかはどこを見ても伝わりますからね。新しいスポーツなので、適応力とか工夫するところが見られると良いですね」
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朝のセレクションが始まる。冒頭、ダニエルコーチは「今のプレーレベルだけじゃなくて、メンタルや判断力、動体視力とかいろんなところをみたい。最初から最後まで、頑張って!そこが大事」と、選手らに発破をかける。
セレクション2日目は60人超が参加2日目となったセレクションの参加者は全部で60人を超える。すでに海外で開催されたピックルボール大会にも出場し、世界との差を肌で感じているプレーヤーもいる。嶋晴菜さんもその一人。中学生から大学までテニスを経験してきた。テニスを引退後、ピックルボールに出会いもう一度プレーヤーとして世界と戦おうと決意。海外の大会に乗り込み武者修行も行う。既にオーストラリアの大会では表彰台にもあがっている。
「海外でも凄く盛り上がっていて、日本も少しずつ盛り上がっている。海外へのチャレンジをしないと、差があると思うので、海外で結果を残せるように頑張ります」
羽澤未宥さんは、去年インドで開かれた国際大会に日の丸を付けて参加している。今は所属していた会社も退職し、競技活動に本腰を据えながらピックルボール業界を盛りあげようと活動している。
「世界で通用する選手が生めたら」1本目が終了し、選手たちのプレーを振り返りながら慌ただしく昼食を済ませ、2本目のセレクションへと向かうダニエルコーチ。実は、長野県在住のダニエルは朝3時には自宅を出発している。しかも、この日は高速道路の事故渋滞に巻き込まれ横浜に到着したのはセレクション開始の30分前だった。そんな多忙なスケジュールの中でも新しい発見に出会い、喜びを噛み締める。
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「今の日本のトップ選手も受けに来てくれているし、全く知らない方もいた。これからの選手が来てくれて嬉しいし、テニス歴がすごい人もいるので、伸び代がどこまであるのか予測は難しい。今日、ピックルを初めての人もいたけど、3時間で上手くなったし、すぐ伸びるものだなぁと」
藤原コーチは2回目のセレクションの挨拶で「ピックルボールが普及、発展し、世界で通用する選手が生めたらいいな。応援してもらえる選手もみたい。ピックルボールの楽しさを全身で表現してほしい」と檄を飛ばした。
選考メニューは、基礎練習に始まり、ダブルス・シングスといった試合形式での練習が続く。ダブルスの試合が最も力量を測りやすいとコーチ陣は語る。試合はメンバーを入れ替えながら、各プレーヤーの特徴を細部まで見極めていた。ダニエル、藤原の両コーチに加え、西村尚也コーチ(34)もアシスタントに加わり、選手ひとりひとりのチェックに割く時間も増えた。時折、コーチたちが選手に声をかけながら、人柄や競技にかける想いなどを聞いている姿も多く見られた。
昼からのセレクションは、雲行きが怪しくなってきた。運営スタッフらは、15時以降のセレクションの実施可否判断に頭を悩ませる。13時過ぎ、横浜市戸塚区のKPI-PARKには「にわか雪」が降り始めた。足元が滑ることを危惧してメニューも変更された。動き回るプレーを少なくするため、ディンクショットのダブルス戦を中心に練習が進んだ。コーチらは臨機応変に対応しプロジェクトを続行しなければならない。幸い雪は降り積もらなかったが、限られた時間で参加する選手たちのためにも、これからも沸き起こる様々なアクシデントを乗り越えねばらならないだろう。
「親子で世界」を目指す参加者もセレクションには、子どもたちに夢を持ってもらいたいと考え、挑戦する参加者もいた。ビーチテニスの全国大会で表彰歴もある井関慶太さんは「子どもがふたりいて、子どもを言い訳に海外挑戦しないと言っていたのですけど、それは違うかなと思って(セレクションに参加した)。子どもには、社会もグローバル化しているので、どんどん海外に出て行ってもらいたい。親父の背中、頑張っている姿を見せて子どもたちにも夢を持ってもらいたい」とプロジェクト挑戦に至る想いを語った。
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また、堀井大輔さんは、ピックルボールの大会に数多く出場し受賞歴の持ち主でもある。国際大会にも出場し「世界やアジアの壁にぶちあたっている」と言う。日本のなかで力を付けていく必要性もあると感じるなかで、今回は、娘の優那さんを誘ってセレクションに参加した。「父がピックルボールの面白さを伝えてくるので楽しそうだなと思ってやり始めたらハマりました」と笑顔を見せる娘に対し、「親子でピックルをやれて良いのは、なかなか年頃の子だと話をしてくれないが共通の話題があるのは良いですね」と話した。「教えるのは上手いけど、身内に厳しいのでもっとやさしく教えて欲しい」とリクエストされるなか、やるからには、親子で「世界を目指す」と意気込みを見せた。
全てのセレクションが終了し、ダニエル、藤原の両コーチとスタッフは、すぐさま第1期プロジェクトメンバーの選考に入った。選手たちのプレーの癖や腕の振り方、パドルの扱い方など、細かい動きにもコーチたちは注目していた。ビデオを見直すこともあった。選手の短所は、コーチングによって修正できるのかできないのか、また長所を伸ばせるのか伸びないのか。様々な視点で話し合いが行われていた。プロジェクトは、少数精鋭メンバーで、関東地方を拠点に強化が図られる為、居住地や年齢のバランス等も考慮。チームワークを保てるかなど人間性も見られて、男女各6人、合計12人の候補が選ばれた。
2月末、全ての参加者にコーチ陣からのフィードバックが行われた。そして、第1期メンバーに選ばれた面々には、3月8日から始まる「最初の強化合宿」の案内が送られた。いよいよ世界を目指した挑戦が幕をあける。
(次回はメンバー発表)