
声優・春瀬なつみさん インタビュー前編(全3回)
新感覚アイスショー『滑走屋』が3月8〜9日、広島市のひろしんビックウェーブで開催される。2日間、合計6公演。昨年、好評を博した福岡公演の再演だが、内容は新たにアップデートされているという。16曲をノンストップの疾走感で、各スケーターの滑りは情感に訴え、エンターテインメント性はさらに増している。
その座長を務めるのが、日本を代表するフィギュアスケーター、高橋大輔だ。高橋はシングルだけでなく、アイスダンスでも日本の頂点に立った。世界中から敬意を集めたスケーティングは伝説的。そんな至高のスケーターが、究極の表現に挑戦する。スケート芸術をチームとしてパッケージした75分間は、冒頭から圧倒的なショータイムとなるーー。
今回の『滑走屋』で応援団長を務めるのが、声優の春瀬なつみである。春瀬は、フィギュアスケートを題材にした人気アニメ『メダリスト』(テレビ朝日系/原作つるまいかだ・講談社)で、主人公の結束いのりの声を務める。
じつは、彼女自身が玄人顔負けのフィギュアスケート通。まさに当たり役だったわけだが、さらに『滑走屋』とも縁を結ぶことになった。
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「仕事の一環で"こんなラッキーがあるなんて!"って驚いています」
春瀬は、小さい体いっぱいに幸福感をにじませて言う。
「『滑走屋』は、みなさんと同じ目線で楽しみたいですね。公演当日は、"影ナレ"(音声のみで行なわれるアナウンス)をやらせていただく予定です。『本日は、滑走屋にご来場いただき、誠にありがとうございます......』っていうアナウンス。すごく楽しみです!」
そんな応援団長の春瀬に、『滑走屋』の魅力を語ってもらった。
【高橋大輔さんの"遊び"に魅了されました】
ーー座長である高橋大輔さんとは対談などでお会いしたようですね。2011−2012シーズンのフリー『ブルース・フォー・クルック』が高橋さんのプログラムのなかで一番好きだとか?
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春瀬なつみ(以下同) 『ブルース〜』は、高橋さんのよさが余すところなく出ていると思うんです。曲自体の音数が少なくて、余韻で表現しないといけないじゃないですか? だからすごく難しいはずなのに、リラックスした感じに見えるんです。それがスケートの"遊び"につながっていて、引き込まれるんですよ。すばらしいスケーティングと曲がマッチしていて、振付師の(パスカーレ・)カメレンゴ先生もそんな演技を見越していたのかなって。
ーー高橋さんのスケートは現役時代から別次元でした。二人三脚で戦った長光歌子先生は「多くの人は見て聞いてそれから体を動かそうとするけれど、(高橋)大輔は細胞が勝手に反応するようなところがある気がしました」とおっしゃっています。
本当に感覚がすごいなって思います。ふつうの人が考えられないところの滑りに"遊び"があって。本人は軽く流しているだけでも思わず見入ってしまう。たしかに細胞全体が勝手に反応していて、同じ演技が存在しないんですよ。『滑走屋』は、その高橋さんがつくり出すものだけに特別ですね。
【華やかなショーの裏側に見た覚悟】
ーー先日、練習風景をご覧になったそうですが、いかがでしたか?
疾走感があるスケーティングで、ハッとしました。とても細かく何回も動きを繰り返すんですよ。ちょっと見ただけでは、わからないようなところまで突き詰めていて。あらためて、作品は地味な練習から始まるんだなって感じました。
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ーー地味な鍛錬が、お客さんの前で華やかなショーにつながるんですね。
プロの方が突き詰める練習を目の当たりにしました。表に出る時はあんなに華やかなのに、コツコツの積み重ねなんだって。私も声優で、「おーい」って発声練習を30分ほど繰り返すんです。その言葉がお腹のなかを起こすのに適しているからなんですが、練習はすごく地味で......。『滑走屋』のみなさんは、私の何倍も何度も練習を繰り返し、これが圧倒的な作品をつくるんだなって。私もまだまだ足りないなって思いました。
ーー昨年の公演で高橋さんは「スケーター全員が黒い衣装なのは"強い職人"のイメージで、シンプルにスケートを見せたかった」とおっしゃっていました。表現者としての心意気ですね。
滑りだけで見せるという自信、覚悟、選択ですね。演出で盛ることをいっさいやらずに人の心をつかむってすごいことです。(ダンサーで振り付け担当の)鈴木ゆまさんが、氷上に今までなかった動きを採り入れているのも印象的ですね。高橋さんとゆまさんの新しい挑戦がマッチして、スケーティングとダンスの融合が見られるのは贅沢です。
ーー総勢26人(予定)のメインスケーターとアンサンブルスケーターの共演は圧巻です。これだけ大勢がリンクでひとつの絵を描くのは奇跡に近い。
高橋さんが座長として、その背中を見せているからこそ、みんなが同じ方向に行けるのでしょうね。一体感を感じられるのは素敵だなって思います。今回、練習をじっくり見させていただいたのですが、少しでもタイミングがズレるとぶつかっちゃうって怖いほどで。交差する動きはめちゃくちゃスリルがあるんです。技術だけでなく、信頼がないとできません。プロの人たちしかいない一般滑走のような密度でした。
ーーでは、『滑走屋』をどんな人に見てほしいですか?
私は勝手にフィギュアスケートのショーはチケットがめちゃ高いって思っていたんです。でも『滑走屋』には値段を抑えた席もあるんですよ! だから若い世代も含めて、いろんな人に見てほしいと思います。気軽に、映画を見に行くような感覚で。今回のスケートリンクは、スケーターたちをすごく近くに感じられるはずです。フィギュアスケートを知らないからこそ、楽しめるところもあるかもしれません。行かないのは、もったいないです!
中編へつづく
<プロフィール>
春瀬 なつみ Haruse Natsumi
香川県出身。2014年に声優デビューし、『アイドルマスター』シリーズの龍崎薫役で注目を集める。2025年にスタートした、フィギュアスケートを題材としたアニメ『メダリスト』では、主人公の結束いのり役を務めている。自身もフィギュアスケートの大ファン。マウスプロモーション所属。