店舗数は5年で2倍…「おにぎり専門店ブーム」は淘汰フェーズに。喫茶店のコメダが参入も“強み”のボリューム感はいずこへ

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2025年03月07日 09:01  日刊SPA!

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手前から、天むす、鶏そぼろ、味噌ヒレカツむすび。3個で1040円。
リアルな食トレンドをつかむために大きなカギを握るのが、ズバリ「専門店」です。これまでにもタピオカ、高級食パン、フルーツサンド、唐揚げなどが登場。定着するものもあれば、ひっそりと姿を消していくものもあり、栄枯盛衰。そんな流れの中で最近盛りあがっているのが、「おにぎり専門店」。
おにぎり専門店の数は2025年3月1日時点では2149店。2020年の同日は1316店舗であり、この5年で約2倍に増えていることになります(出典:食べログ)。

日本では米の消費量が年々減少。その一方で供給不足による価格高騰、政府が備蓄米を3月末に向けて21万トン放出する事態になるなど、複雑な問題を抱えているのです。こんな状況の中で、おにぎりブームはなぜ起きているのでしょうか? インバウンドニーズだけで説明がつかなかったものの、先日その答えのヒントになりそうな出来事がありました。

◆「おにぎり専門店ブーム」は淘汰フェーズに

2月22日、コメダ珈琲店を運営するコメダの新業態として、結びたてのおむすびを提供する「おむすび 米屋の太郎」が東京・新宿にオープンしたのです。結論から先に申し上げれば、今巻き起こっているおにぎりブームは、そろそろ勝ち組と負け組が出始める淘汰フェーズに突入ということ。

今回は、「おむすび 米屋の太郎」を訪問して実食レポートをしながら、「高くても買いたいおにぎりの条件」について考えてみることにしましょう。

◆外食・中食の主流は、ファストカジュアル&ワンハンド

はじめに日本の外食や中食業界に見られる近年の傾向について軽く押さえておきましょう。サイゼリヤやスタバの台頭、おひとりさま専用レストランや中食需要の増加からもわかるように、食事のカジュアル化が進んでいます。つまりタイパが重視される現代では、食事はコンパクトに済ませたいのです。

そして食事の手軽さを後押ししてくれるのが、ワンハンドフード。コンビニの菓子パンやスイーツを見れば一目瞭然で、一つ食べるだけで満足度を上げてくれるような、コスパが高くごちそう感のある食べ物がヒット商品になる傾向にあります。

この流れをふまえれば、おにぎりに熱視線が集まるのは必然。日本ではおにぎりこそがワンハンドフードの元祖であり、和食の世界観を手軽に実感できるメニューなのです。

◆おいしい基準は、コンビニのおにぎり

日本では1970年代からコンビニでおにぎりが販売されはじめました。歴史の中で改良が重ねられ、例えばセブンイレブンのスタンダードな鮭おにぎり「手巻おにぎり 炭火焼熟成紅しゃけ」は、厳選した米を低温精米して炊き上げ、熟成した紅鮭を炭火で焼き、有明海産の焼海苔を巻いて仕上げたこだわりの商品。これで199円という価格ですから、専門店のおにぎりを選ぶためには、確かな理由が必要になります。

「おむすび 米屋の太郎」で、コンビニにはない食体験ができるのでしょうか?

◆看板メニューは、名古屋おむすび。気になるお味は?

2月末のある日、昼時に行ってみると、店頭には10人弱の注文客が集まっていました。新宿のオフィスビル内にあることもあり、平日に長時間並んで購入しようというニーズはなさそう。「受け取るまでに10分くらいお待たせしてしまいますが大丈夫ですか?」という店スタッフの確認であきらめて帰る人がちらほら。

私が行った時には外国人観光客はゼロでした。おしながきを見ると、日本語オンリー。まずは日本人だけをターゲットとして想定しているのでしょう。果たして、コンビニおにぎりで鍛えられた日本人の心をつかむことができるのでしょうか……。

おにぎりは全23品。価格は150円〜580円という幅広い設定になっています。そして同店のウリは、「名古屋おむすび」。三元豚を使った「味噌ヒレ カツむすび」(330円)、三河一色産の鰻を使った名古屋名物“ひつまぶし”のおむすび「うなぎむすび」(580円)、ごちそうおむすびの先がけ「天むす」(380円)、他にも名古屋コーチンのとり天や鶏そぼろといった実力派具材がラインナップされています。

名古屋めしの世界観がおむすびでしっかり表現されています。うーん、そそられます。気になるおむすびを購入してじっくり食べてみることにしました。

◆“コメダの強み”では勝負していなかった

私は老舗おにぎり専門店「ぼんご」をはじめ、様々なおにぎりを食べてきた上でまず感じたのは、思ったよりも小ぶりであることです。

コメダといえば、大盛りメニューや“逆写真詐欺”と呼ばれるほどのボリュームが強み。ところが今回の「おむすび 米屋の太郎」のおむすびには全くそれらが感じられず、コンビニおにぎりよりも小さいと感じるようなサイズ感だったのです。

参考までにコンビニのおにぎりは、1個110〜120gが基本。ぼんごスタイルのおにぎりのごはん量は、約180g。ここに具材がたっぷり入るので、1個200g以上にもなる特大おにぎりが専門店らしい特徴の一つに。しかも店内では握りたてほわっほわの状態で提供されるため、自宅やコンビニにはない特別な食体験を楽しむことができるのです。

具材がたくさん入っている「だし巻きいくら」(430円)の重量を計ってみたところ、141gでした。実際に、女性の私が名古屋おむすび3個を食べて満腹にはなりませんでした。おにぎりを頬張っておなかいっぱいになる幸せって、誰もが一度は経験したことはあるはず。でも、そういう気持ちにはならなかったというのが正直なところです。

誤解や失礼のないように伝えたいのは、海苔やお米には確かなおいしさを感じたということ。基本的にはどの食材も秀逸なのですが、イートインがないためにむすびたてを実感しにくいのも残念なポイントかもしれません。

そして最後は、リピートするのに重要な要素となる価格については、3個で1040円払えるか賛否が生まれそうです。

◆“専門店”に期待されることとは?

おにぎり専門店が急増している理由は、ズバリ新規参入がしやすい点にあるでしょう。特別な調理器具やスペースは必要なく、熟練の技が試されるほどの複雑さもありません。また食の世界においては、どのようなジャンルや食べ物であっても、食べる人や選ぶ人の気持ちに寄り添い、おいしいイメージ作りや楽しい世界観を演出することは重要です。

しかしながら、そのような表面的な要素だけでは人の心をつかむことができなくなってきているのが、令和の時代。ましておにぎりは、最もシビアな食べ物かも。小さな頃からおにぎりを食べて育った人は多いはずですから、おにぎりを甘く見てはいけません。専門店に求められるのは、自宅やコンビニではなかなか得ることのできない非日常性や特別感。確かな技術によって握りたてを味わえるぬくもり感などが求められるのです。

おにぎりブームだから何でも売れる、安いから売れるというわけではありません。愛されるおにぎり店として勝ち抜いていくためには、ただならぬ工夫と情熱が必要でしょう。今後全国展開や海外を視野に入れている「おむすび 米屋の太郎」の動向に、引き続き注目していきたいと思います。

<TEXT/スギアカツキ>

【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。世界中の健やかな食文化を追求。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)が好評発売中。Twitterは@sugiakatsuki12。

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