
東京女子プロレス・中島翔子 インタビュー後編
(前編:元芸人の女子プロレスラー中島翔子が振り返る、「絶対に無理」と思ったプロレスに挑むまで>>)
3月16日の東京女子プロレス(東女)春のビッグマッチ、「GRAND PRINCESS '25」で、プリンセスタッグ王座を狙う中島翔子へのインタビュー。後編では、同期の山下実優との王座を懸けた戦いや、タッグパートナーのハイパーミサヲ、プリンセスタッグ王者である山下実優&伊藤麻希の「121000000=ワン・トゥ・ミリオン(通称ワンミリ)」に対する思いを聞いた。
【タッグ王者になって生まれた使命感】
――2016年1月4日、東女初の後楽園ホール大会で、新設されたTOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王座(現プリンセス・オブ・プリンセス王座)の初代王座を懸けて山下選手と対決しました。
中島:当時は、山下とケンカばかりしていました。結婚式プロレスで試合があった時も、試合後、控え室で山下と大ゲンカ。ユカッチ(坂崎ユカ)になだめられて、(ハイパー)ミサヲはソワソワしてましたね。
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今は、お互いリスペクトの気持ちがありますけど、2016年の王座をかけた試合は仲の悪さがリング上で出てしまった。結果的に山下に敗れたし、悔いが残る一戦です。
――翌年の10月14日には、TOKYOプリンセスタッグ王者決定トーナメントで優勝。坂崎ユカ選手とのタッグで初代王者に輝きました。
中島:当時、東女は清水愛が卒業したりして節目を迎えていました。タッグのベルトを初めて巻いた喜びはありましたが、スタート地点に立ったイメージでしたね。それまでは目の前の試合をこなすことで精一杯でしたけど、「タッグ王者は注目されるから強くならなければいけないし、うまくならなければいけない」という使命感が生まれて、「もっと頑張らなくちゃ」と思いました。
【悔いが残っている試合】
――2019年5月、TOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王座を10回連続防衛中だった山下選手に勝利。初めて"プリプリ王座"を戴冠しました。
中島:今も動画が観られないほど、プロレス人生で一番悔いが残っている試合です。
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――勝ったのに、後悔したんですか?
中島:その少し前から、ユカッチがAEWの旗揚げ戦に参戦したりして海外から注目され始めて、私も"とにかく結果を出さなければ"と焦っていたんです。今振り返ると、自分の器に合ってないことをしていたと思います。
2018年頃から、道場に週3、4回通いながら、赤井(沙希)さんに誘っていただいて坂口道場に足を運んだり、スタントマンの練習にも参加しました。壁を使って宙返りしたり、逆立ちして練習場を1周したり、リングのないところで受け身を取れるようにしたり......とにかく毎日、どこかで練習していました。
焦りすぎて失敗してしまう人はたくさんいると思うんですけど、この時の山下との試合は、まさにそれでした。結果的にギリギリ勝てたけど、内容はとても納得できるものではなかった。しかも試合後、山下が「私は負けたけど、負けた悔しさより、中島がベルトを巻いてうれしい」と言ったのを聞いて......。「わざと負けてあげた」とも捉えられるので、"ナメんじゃねえ!"と、さらにムカつきました(笑)。
――2022年3月、初の両国大会でも山下選手に勝利し、プリプリ王座2度目の戴冠。この時はいかがでしたか?
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中島:この時はこの時で、悔いが残っています。東女初の両国国技館のメインイベントでしたが、ふと、"プロレスラーのなかで、両国国技館のような大きな舞台のメインで試合をせずに引退する人ってどのくらいいるんだろう"と考えてしまって。
この先、20年くらいレスラーを続けたとしても、もう一度両国のリングに立てるかはわからないし、立てない可能性のほうが高い。そんな重圧がのしかかり、全体練習後にひとりで道場に残って飛び技の練習をしたりもしましたし、考え過ぎて変な痩せ方もしちゃいました。
――そういったことを真正面に受け止めるタイプなんですね。
中島:真面目なんだと思います。もっと気楽に臨めたら、いつもどおりの自分のスタイルで動けたはずなんです。でも、思い詰め過ぎて、入場時に感極まって泣いてしまって......試合に勝ったのにカッコ悪いですよね(笑)。
【ハイパーミサヲと辿り着いた頂点】
――2020年7月4日、ハイパーミサヲ選手とのタッグ「享楽共鳴」が本格的に動き出しました。ただ、2018年8月に新宿で開催された1DAYタッグトーナメントは準優勝でしたね。
中島:享楽共鳴を結成する前も、ミサヲとは変なタッグ名で、その場のノリで組んで出場することがありました。伊藤(麻希)ちゃんや上福(ゆき)など、"規律を乱す人たち"に対して"風紀委員"として戦いを挑んだり。ちゃんとタッグを組んだのは、あの1DAYタッグトーナメントからでしたね。
――ちゃんとタッグを組もうと思ったのはなぜですか?
中島:コロナ禍で無観客になったあとも、「これが明けたら、またいつもの生活が戻ってくる」って信じていたんです。でも、会場に足を運んで応援してくれていたお客さんがコロナに感染して亡くなってしまって。「ああ、元の生活に戻れない人もいるんだ」と。
どうしたらいいのか、答えは出ない。「だったら、後悔をしないようにプロレスをしなくちゃいけない」と思ったんです。それでミサヲと、「世の中が落ち込んでるから、楽しいことをしよう」と。まぁ、それもノリのようなものですけどね(笑)。とにかく"今"、楽しいことをしよう。それが5年間続いています。
――2023年2月『第3回"ふたりはプリンセス"Max Heartトーナメント』の決勝でも、「享楽共鳴」は山下実優&伊藤麻希の「ワンミリ」と戦っていますね。
中島:2年前は、私とミサヲの試合ができませんでした。ワンミリは"味が濃い"チームなので、あのふたりの"鍋"に入ると全部がワンミリの味になっちゃう。ワンミリは海外のどんな選手と試合をしても、すべて自分たちの色に染めて防衛してしまうんです。
その頃、享楽共鳴はタッグとして勢いがあったのに勝てなかった。その後、何度かプリンセスタッグ王座に挑戦しましたが、ズルズルと勝てないチームになってしまいましたね。
――ただ、今年の『第5回"ふたりはプリンセス"Max Heartトーナメント』では優勝し、2023年の雪辱を果たしましたね。対戦相手は、マックス・ジ・インペイラー&原宿ぽむ組。試合前は、かなり緊張していたとも聞きます。
中島:前日の寝る前は、「明日、行きたくねぇぇぇ!」とビビり散らかしてました(笑)。当日は、好きな戦隊ヒーローの曲を聴いて、"こんなに練習してるし、私は天才だ"と自分に暗示をかけました。
ただ、試合が始まると、いつもより会場が広く感じましたね。トーナメント5度目の挑戦で初制覇でしたが、戦いによる成長の積み重ねで辿り着いた感じです。
――ミサヲ選手も、ハイパミ号(自転車)で南側の客席の階段を滑走して相手に突っ込んでしましたね。
中島:あれは怖すぎて、私にはできません。ミサヲのマインドはすごいです(笑)。"やりたいこと"が既存のプロレスの枠を超えているんですが、しっかり考えて周りを巻き込みながら形にするのがうまいですね。
翌日は、身体の痛みがヤバかったです。試合中、トペ・スイシーダをマックスにキャッチされ、リングの一番固い場所であるエプロンに叩きつけられることもありましたし。でも、その痛みに見合った楽しさがあり、やりきった感がある決勝戦でした。
【やっと、トゲを抜くチャンスが来た】
――試合後は、ワンミリに対しての思いを口にしていましたね。
中島:2年前、私は伊藤ちゃんに負けました。あの時の悔しさがトゲとなり、私の体に刺さり続けている感じです。山下も伊藤ちゃんもいいやつだし、リスペクトもしているけど、タッグとしては大っ嫌い。やっと、トゲを抜くチャンスが来ましたね。
――シングルでも何度も戦っている、山下選手とはどんな存在ですか?
中島:彼女とはデビューが一緒ですが、ふたりでは出かけたくない。気まずいというわけではなく、気を遣っちゃう感じ。たぶん、山下も同じように考えているんじゃないかと。家族のように同じ時間を過ごしてきた、大事な存在。ケガをしたらすごく心配だし、海外遠征で無事に帰国するとホッとするし......本人には、あまり言えませんけど(笑)。
――伊藤選手はどうですか?
中島:「カリスマ・オブ・カリスマ」で、アイドルっぽいけどタフですね(笑)。努力家だから、海外で活躍するために英語の勉強をしたり、自分の見せ方もすごく研究している。私の一段上のステージで頑張っている人なので、尊敬しています。
――そんなふたりに挑む、3.16大田区大会に向けての意気込みをお願いします。
中島:私は山下実優も伊藤麻希もレスラーとして尊敬しています。ふたりのタッグはカッコいいし、ワクワクするし、試合を観るのは好きです。ただ、戦うとなったら大っ嫌い。
完成したタッグチームに挑むには、どれだけ自分たちがハチャメチャにやれるかが大事だと思っています。私はけっこうカッチリいっちゃいがちだけど、そこをミサヲが崩してくれる。私やワンミリの想像を超える動きで、かき乱してくれると信じています。
私も自分のやれることを最大限にやる。そのうえで裏切っていきたいし、楽しみたいし、後楽園ホールより広い大田区総合体育館を存分に使って試合ができたらいいなと。当日まで、ミサヲといろいろ考えます。
【プロフィール】
中島翔子(なかじま・しょうこ)
1991年7月19日、新潟県生まれ。147cm。2013年8月17日、両国国技館で行なわれた「DDT万博〜プロレスの進歩と調和〜」でプロレスデビュー。2016年1月4日、新設されたTOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王座の初代王座を賭けて山下実優と対決するも敗退。2017年10月14日、TOKYOプリンセスタッグ王者決定トーナメントで優勝し初代王者に。2019年5月3日、山下に勝利して念願のTOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王者となった。2020年7月4日、ハイパーミサヲとのタッグ「享楽共鳴」が本格始動。2025年2月8日、第5回"ふたりはプリンセス"Max Heartトーナメントを初制覇。2025年3月16日大田区総合体育館でプリンセスタッグ王者・山下実優&伊藤麻希のタッグ「121000000」に挑戦する。