
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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仕事終わりの下北沢で、夕飯を食べつつ軽く飲める店を探していた。
下北沢は東京のなかでも、ここ数年ですっかり様変わりした街の代表格。大好きだった酒場「八峰」や「宿場」も、もうない(古すぎるか)。なので勝手が分からず、ただやたらめったらに歩いていると、なんとなく気になる店を発見。
ビルの2階にある小洒落た雰囲気の「タパシエスタ」という店。一見カフェ風だが、店前の看板が魅力的だ。なんと、ハッピーアワーのアルコールドリンクが税込330円で、その開催時間が昼の12時から夕方6時半まで! 名物のひとつである数種のピンチョスからふたつを選べ、そこに好きなドリンクがつけられる「ちょい呑みset」(1100円)などもあるし、かなり飲める店のようだ。
さらにその時空腹で、しかもカレー好きの僕的に、続くメニューがたまらなく魅力的だった。特製キーマカレーにミニサラダとドリンク1杯がついた「カレーセット」(1749円)。多くの場合こういうセットってソフトドリンクのみで、アルコールはあってもプラス料金だったりするのに、看板に堂々とビールの写真が載っている。あぁもう、好きだ。
さっそく窓際のカウンター席に通してもらい、カレーセットの詳細を確認する。選べるドリンクのうち、アルコール類は以下の5種類。
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・生ビール(ミニグラス)
・ハイボール
・ワイン(赤 / 白)
・お茶ハイ(烏龍茶 / 緑茶)
・梅酒
この過不足ない感じがなんていうか、酒飲みの心をよくわかってくれている感じですごくいい。その他ソフトドリンクや、プラス100円で自家製サングリアなども選べるらしいが、ここはハイボールかな。
また、カレーにはプラス200円で炙りチーズがトッピングできるらしい。そして単品のカレーメニューページを見ると、「炙りチーズ特製キーマカレー」が一押しとなっている。これは味わっておきたいと、追加する。
すぐにやってきた、ハイボールとサラダ。下北の街を見下ろしながら飲む爽やかなハイボールが最高にうまい。
レタスとにんじんが中心のサラダには、揚げたパスタ? もしくは揚げた餃子かしゅうまいの皮? のようなものがのっていて、パリパリしゃきしゃきでいいつまみになる。
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また、僕が必要以上にごきげんになってしまったのが、今座っているカウンター席の目の前の風景だ。
カウンターに「ワンピース」の1巻と、57〜61巻、そしてポチャッコのぬいぐるみが置いてある店を、この世の中の誰が憎めるだろうか? どう考えたって、愛するしかないじゃないか。しかもポチャッコはよく見ると、ローソンのからあげクンとのコラボ仕様で、店の隣がローソンだったから、そこの出身かもしれない。
いい店だな。僕はこういう店に出会いたくて酒場めぐりをしているんだよな。と、まだその良さを体系的に説明する術は持っていないんだけど、妙にしみじみ思う。 なんてことを考えつつハイボールを飲んでいたら、いよいよカレーが到着。
わー! わーわー! 突然に語彙力がなくなってしまって面目ないけど、美味しそー! 超美味しそー!
最高だった。自家製キーマカレーは、大好きなクミンの香りを中心にほどよくスパイシーで、しかし甘辛酸のバランスがよくて食べやすい。それをサフランライスと絡めて食べると、そりゃあもう絶品。そこに、香ばしく焦げ目のついた濃厚チーズがたっぷりなのが嬉しく、とろりとコク深いそれを合わせて食べると、がぜんハイボールが加速する味になる。
頂点にのった卵黄を崩すタイミングは迷うところだけど、妥当なのはやはり、カレーが残り1/3くらいになったあたりだろう。ぐっと過剰なまろやかさが加わってまったく別の味になるが、それもエンターテイメント。最後まで楽しく食べることができ、身も心も大満足だ。
表現が合っているかは別として、なんていうか、古き良き下北らしさを感じさせるような、どこかかわいい、とても良い店だったな。タパシエスタ。まだまだメニューはたくさんあったし、飲み放題やコースなどもあるらしい。なにより、昼から夕方までずっとハッピーアワー。下北に来たらひとまず水分補給をしたい店を見つけられて、とても嬉しい夜だった。
取材・文・撮影/パリッコ