
『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(40)
大阪マーヴェラス 宮部愛芽世
(連載39:大阪マーヴェラス志摩美古都を成長させた勝利と敗北 「この人みたいになりたい」『ハイキュー‼』キャラは?>>)
「姉と比べられるのはコンプレックスだったと思います」
大阪マーヴェラスの宮部愛芽世(あめぜ/23歳)は、静かなトーンで告白した。3歳上の姉・藍梨(ヴィクトリーナ姫路)は常に先を行く存在で、愛芽世が大阪の金蘭会中学に進んだ時、藍梨は金蘭会高校の1年でエースだった。
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「藍梨の妹なのに、なんで下手なの?」
心ない声も耳に入ってきた。
――なぜバレーを続けられたのか?
そう質問を投げた。
「自分にはバレーしかなかったからです」
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実際に、宮部はバレーに打ち込み、アウトサイドヒッターとしてたくましく成長してきた。ナイジェリア人の父と日本人の母を持ち、身長は姉ほど高くないが(藍梨:181cm、愛芽世:173cm)、高い跳躍力は天賦の才。春高バレー連覇を経験し、姉を追うように日の丸も背負った。2022年には世界選手権で日本代表のチームメイトにもなった。
「姉の存在があって、(目標を)見つけやすかったんだろうなとは思っています」
パリ五輪に出場した姉の存在は、自身のバレーボール人生と切っても切り離せない。ただ、彼女のバレーボーラーとしての原型は自身で作り上げたものだ----。
宮部がバレーを始めるきっかけも姉だった。地元の小学生チームの人数が足りず、まず姉が出場した。その後、小学1年になった彼女も入部したが、バレーがそこまで好きだったわけではない。ほかに女子で活動しているスポーツチームがなく、「体を動かすのが好き」な少女は自然とコートに立っていた。
「強いチームではなくて、勝って楽しい、という感覚もなかったです。バレー、楽しかったのかな?」
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宮部はおどけた表情を見せた。人生を大きく変えたのは、金蘭会中学時代だ。
「中学で基本を教わりました。同級生は7人が入ったんですが、私ひとりだけが下手すぎて別メニューでしたね。ディフェンスが持ち味のチームだったこともあって、まずは1時間、自分の真上にボール上げて片手で突いたり、といったことの繰り返し。そのあと、チームはパス、レシーブ、スパイク、6人練習になるんですが、私はずっと基礎練習をしていました」
彼女はそう言って、小さく笑う。
「小学校は幼なじみの友達といるのが楽しい、という感じでやっていたので、痛い目を見ました(笑)。対人パス(ペッパー)もろくにできなかったですし。技術にフォーカスすると、自分は何もできないんだなって。『とにかく追いつかないといけない』と必死でした」
宮部は中学3年間の鍛錬で急成長。金蘭会高校では日本代表登録メンバーに選ばれ、東海大学時代には世界選手権を経験するなど、一気に駆け抜けた。
「もし私の身長が大きくて、中学時代にスパイクをバンバン打っていたら、今の私はないですね。監督に『今はそれに値しない』と、バレーの基礎を教えてもらったからです。つきっきりで指導していただいて、本当に感謝です」
中学時代の福岡遠征を、彼女は今も覚えている。
「なんで今のセット負けたと思う?」
監督の何気ない問いかけに、彼女は答えた。
「自分の調子が悪かったからです」
監督が怒髪天をついた。
「そんなことを言うなら、チームスポーツをする資格がない」
そう言われ、福岡に置き去りにされた。新幹線でひとり、チームとは別に大阪に帰ることになった......。
「たとえ勝っても、自分の調子がよかったから勝つわけではないんですよね。バレーはチームスポーツだから、自分の出来によって勝った、負けたというのは"おごり"。そういう教えだったんだと思います」
今も、チームプレー精神は彼女の土台にある。一方で、自分のバレーを革新させることも怠っていない。
パリ五輪、宮部は会場に足を運んだ。姉を応援するだけでなく、目に焼きつけたい風景があった。
「(世界選手権でも戦った)ブラジルを相手にどこまでできるか、観ておきたくて。ブラジルは誰が出ても強かった。2022年の世界選手権では控えだった年下の選手も出ていたし、『自分なんかが出ても......』なんて思っている選手はいないんだろうなって。当時は、"世界で戦う"という気持ちがかすんでいたんですが、パリであらためて強くなりました」
姉とはパリで、短いながら会話をしたという。「来てくれてありがとう」と言われた宮部は、「もっと見たかった」と本音で返した。
「バレーはひとりでするスポーツではありません。ただ、『あそこで決めておけば』って思われるのはサイドの選手。一番注目される責任感と覚悟は持っています」
戦う気持ちを新たにした妹は、辿り着くべき場所に辿り着く。
【宮部愛芽世が語る『ハイキュー!!』の魅力】
――『ハイキュー‼︎』、作品の魅力は?
「私は強豪校と言われるチームにいたので、正直、序盤はあまり共感できなくて(笑)。インターハイ予選で、青葉城西や白鳥沢学園が描かれるようになって、強豪ならではの選手たちの気持ちなどが『めっちゃわかる!』ってなりました」
――共感、学んだことは?
「東京体育館の描写も含めて、春高バレーのシーンは共感できるところが多かったです」
――印象に残った名言は?
「烏野の縁下(力)は一回、部活をやめていますよね。それで春高予選の時に『逃げる方が絶対後から しんどいって事は もう知ってる』と自分に言い聞かせるのが、自分にも刺さるものがあって......。部活をやめたいと思ったことはなかったけど、『しんどくて逃げたい』と思うことはあったので。でも、その時その時を頑張り続けることで、いろんなものがあとからついてくるんですよね」
――好きなキャラクター、ベスト3は?
「1番好きなのは、白鳥沢学園の天童(覚)。一番、アスリートだなって思います。優勢でも劣勢でもずっと楽しんでいて、"ゲスブロック"をミスしても気にしていない。高校時代に、あんなに楽しく必死になれるのはいいなって思います。
2位は白鳥沢学園の五色(工)。ちょうど読んでいる時の自分に重なるところがあったんです。自分も、高校ではひとりだけ1年生でコートに立っていて、よく怒られる葛藤があって。五色も監督に怒られてばかりで、先輩に理由を聞かれて『未熟だからです』と答えるんですが、『違う、一番期待しているからだ』と言われて、火がつく。それで、『自分も期待されているってことなのかな』と思えました。
3位は、"一緒にバレーをやってみたい"という視点で、梟谷学園の赤葦(京治)。絶対、一番やりやすいセッターなので(笑)。木兎(光太郎)との信頼関係も感動します。ボールだけじゃなくて、人と人をつないでいますよね」
――ベストゲームは?
「烏野vs白鳥沢学園ですね。これは絶対です! 個の力が強い白鳥沢学園と、チーム力が高い烏野の対戦。春高バレーは予選も面白くて、勝つにしろ負けるにせよ、次がないから気持ちが全面に出るんですよね」
(連載41:
【プロフィール】
宮部愛芽世(みやべ・あめぜ)
所属:大阪マーヴェラス
2001年10月12日生まれ、兵庫県出身。173cm・アウトサイドヒッター。小学1年でバレーを始める。金蘭会高校では春高バレーに3年連続で出場し、1、2年時に連覇。東海大学でも2021年に全日本インカレを制し、ベストスコアラー賞とスパイク賞を受賞。中学時代から各世代の日本代表で活躍し、高校3年時に初めて日本代表に選出される。2022年には世界選手権に出場した。2024年に大阪マーヴェラスに入団した。