クレカの表現規制、真犯人は誰か 見えてきた“構造的原因”を解説する

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2025年03月09日 10:11  ITmedia NEWS

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 以前にクレジットカード利用における表現規制の問題について、執筆時点で筆者が知り得る情報をまとめた記事を出したが、それからいくつか見えてきたポイントがあるので、ここで改めて触れておきたい。


【画像を見る】クレカの表現規制についてVisa本社の意見は?(全12枚)


 前提として、同じく弊誌で2024年12月3日に参議院議員会館で行われた「クレジットカード会社等による表現規制『金融検閲』問題を考える」の集会レポートにある話題について押さえてもらえるとありがたい。


●これまでの経緯を整理


 これまでの経緯を箇条書きで簡単に整理すると、以前からあった問題がここ最近特にトピックスとして取り上げられるようになってきた経緯がある。


・アダルトコンテンツを扱う(主に)オンラインサイトが、クレジットカードの取り扱いを停止するとの決済代行業者から通知を受けるケースが頻発しており、実際に停止に至るケースが出ている


・これらアダルトコンテンツを含む書籍等の流通を行うオンラインサイトには、以前から警告として「当該のキーワードを含むコンテンツを取り扱わないように」との文章とともに禁止キーワードリストが送付されている


・山田太郎参議院議員が渡米してVisaの米国本社において役員と対談し、Visaが特定のキーワードを指定してコンテンツの排除の指示を出したことはないとの確約を得る


・その後、日本のビザ・ワールドワイド・ジャパン社長のシータン・キトニー氏が「(アダルトコンテンツから)ブランドを守るために(Visaカードを)使えなくすることも必要」とのコメントに対し、山田議員が再度連絡を取って本社の見解との相違がないことを確認


・一方で、Visa本社の見解が出た後もアダルトコンテンツを扱う事業者へのクレジットカード取り扱いを止める通告が続いており、マンガ図書館Zの売上金の支払いが行われていない問題や、オタク婚活サイト「アエルネ」の突然の利用停止通告、その後の突然の撤回などがある


 今回はVisaばかりが矢面に上がっているが、海外の国際ブランドとしてMastercardなども同様のことがいえる。「Visaがやっていないというなら、誰が原因なの? Visaがうそをついているんじゃないの?」と考える方がいるかもしれない。筆者が関係者らから聞いた話と、その後、山田議員に改めて事象を確認していくなかで見えてきたのがこの結論だ。


●事件は「疑心暗鬼と伝言ゲーム」の中で起きている


 核心に触れる前に、クレジットカードの仕組みを知る必要がある。クレジットカードを発行するカード会社は「イシュア(Issuer)」、クレジットカードを受け入れる店舗は「加盟店(Merchant)」、この加盟店を営業開拓し、そこから流れてくるカードを処理してイシュアへと流す役割を果たすのが「アクワイアラ(Acquirer)」とそれぞれ呼ばれている。


 利用者はカード会社から発行されたクレジットカードを加盟店で使うことで買い物が可能で、精算日に支払われた利用料金はイシュアやアクワイアラを介して購入代金のうち、インターチェンジフィーや決済手数料といったそれぞれの事業者の取り分が引かれたうえで加盟店へと支払いが行われる。


 「VisaやMastercardのブランドはどこに絡むの?」という話だが、例えばVisaのカードで決済を行った場合、アクワイアラはVisaのネットワークを通してイシュアへと与信枠の問い合わせや実際の請求処理を行うことになる。こうすることでアクワイアラは世界中に数多存在するすべてのイシュアと契約を結ぶことなく、Visaを介して取引が可能になるというメリットがある。


●カギになる「決済代行業者」の存在


 そして今回、もう1つ重要となるのが「決済代行業者(PSP:Payment Service Provider)」の存在だ。加盟店はアクワイアラと直に契約を行う場合があるが、こうすることでより細かい手数料率の交渉が可能になったりする。


 ただし、手数料を極限まで引き下げるには主に自身の店舗で利用される主要なカード会社を網羅した契約が必要であり、こうした交渉が可能なのは取引件数の多い大手小売店やチェーンに限られる。多くの場合、より簡易に決済サービスを導入したいと考えるため、中小の加盟店はこうした契約を一括して処理するPSPを利用することになる。


 そのため、今回お題目に上がっているような「アダルトコンテンツを扱っており、取引停止を通告されるようなサービス事業者」は、ほぼPSP経由でクレジットカードを導入していると考えていいだろう。


 このため、今回話題になっているクレジットカード取引の停止はPSP経由で通知されることが多い。事前に規制キーワードリストが送られてくるケースも、PSP経由ということになる。


 ただ、24年12月29日に東京の有明で開催された「表現の自由を守る会フォーラム」では前述の山田議員のほか、赤松健参議院議員らが登壇していたが、そこで触れられていたのは「PSPからだけでなく、アクワイアラというケースもあり、必ずしもどこが原因かを特定できない」という点だった。


 最終的に国内で契約可能なPSPが見つからなかったため、海外のPSPと契約したら問題なかったというケースもあるが、他方で前述のような理由で手数料交渉が行えず、日本国内の他業者と比べても非常に高い手数料を受け入れざるを得なかったという。


 ヒアリングするなかで共通しているのは、以前までは問題なかったものの、“取引先からの圧力”によりPSPがアダルトコンテンツ事業者の取り扱いを終了せざるを得ないというケースで、取引上の“上流”にいる誰かしらが表現規制に至る圧力をかけているのは間違いないようだ。


 そうなると真っ先に疑われるのはVisaのような国際ブランドということになるが、山田議員は「Visaと事前交渉をして話し合いをしたからというわけではないが、Visaがうそを言っているようには思えない」とコメントしている。


 Visaはサービス運用にあたってルールを明確に定義しており、アダルトコンテンツについての言及も行われている。正確には「アダルト」ではなく、CSAMと呼ばれる「児童虐待」などにまつわるコンテンツに関するものだが、下にあるようなものが明確に確認できない限り、Visaとして具体的なアクションは起こさないという判断だ。


●存在した、Visaによる“ペナルティー”


 ただし、筆者のある情報源によれば、Visaはルールの適用にあたってアクワイアラに対し「当該コンテンツでの利用が確認された場合、即座にペナルティーとして違反金の請求を行い、取引を停止する」と通知しているという。


 このペナルティーの金額が非常に高額なうえ、即座に取引停止を含めた措置が実行されるため、特に日本国内において取引量の過半数を占めるとされるVisaの取引停止はアクワイアラにとって致命傷になりかねないため、それに抵触しそうなコンテンツの取り扱いに慎重にならざるを得ないのが実情のようだ。


 これは日本国内のアクワイアラによっても温度差があり、別の情報源の話によれば、「アダルトコンテンツを取り扱う可能性のある漫画雑誌を扱う書店の加盟店開拓で、頑として取引を拒否したアクワイアラがあり、別のアクワイアラを選定した」といったことがあるという。


 一方でMastercardの場合は数日程度など対策までに若干の猶予が与えられることがあり、ブランドによる対応の差もあると先ほどの情報源は説明している。


 順番としては国際ブランドのルールがあり、それを守るためにアクワイアラが加盟店や、自身に接続してくるPSPに対して独自のルールを設定して規制を行い、さらにそれを受け取ったPSPが自身のビジネスを守るためにさらに独自のルールを設定して規制を行って……という形で多段階で規制が強化されているのではないかというのが現在の筆者の考えだ。


 それを裏付ける話が2つあり、1つは前述のオタク婚活サイト「アエルネ」のように話題が大きくなった途端にPSPが規制を撤回したこと、もう1つは禁止キーワードリストの存在だ。前者については、取引停止に至る規制判断が確固たるものではなく、現場や一部の責任者の判断で行われるレベルだったことを証明している。「危うきには近寄らず」というわけだ。


 後者の規制キーワードは非常に興味深く、当該キーワードをコンテンツ販売サイト上で検索して引っ掛からなければ「問題なし」とされるが、実際にはタイトルや説明文に当該キーワードが含まれていなければ問題なく、本文はまったく見ていないことが多い。つまり、「内容をいちいちチェックできないので、危なそうなキーワードが検索で引っ掛からなければいい」という考えで運用されているということになる。


●キーワードリストは誰が作成した?


 問題はキーワードのリストをどのように作成したかという点だが、以前の筆者のレポートにもあるように、最近ではそれなりに当該ジャンルに知識のある日本人が関わっている可能性が高い。加えて、「リストに含まれるキーワードはPSPやアクワイアラによってもバラバラで、異なっている」(山田議員)という話もある。


 つまり、たたき台となる規制キーワードのリストが存在したとして、それを各アクワイアラやPSPが「危うきには近寄らず」の考えで独自にキーワードを追加していき、現場での表現規制が行われているのではないかという推測だ。


 マイナビニュースで小山安博氏がライフカードのIWF加盟の背景と、こうした規制キーワード作りをアドバイスするような存在について言及しているが、伝言ゲームと疑心暗鬼の中で醸成された取引停止対策が、結果として極端な表現規制を生み出しているのでは、というのが現時点での筆者の結論だ。


●ではどうすればいいのか?


 おぼろげながら原因が見えてきたところで、この問題の解決は非常に難しいとも考えている。業界の仕組みのなかで築かれてきた階層構造が自発的に生み出してきた表現規制の可能性が高く、どこか特定箇所を治療すれば改善するという話でもない。


 また、企業活動にどこまで政治が介入できるかという課題もある。理想は政治の本格介入が始まる前に状況が緩和することだが、近年これだけ話題が大きくなっているにもかかわらず、むしろ取引停止の報告が増えつつあるのを見る限り望み薄だ。もし政府側の介入がある場合、どのような対応が取られるのか。


 山田議員は5つのパターンを挙げている。1つは優先的地位の濫用の一環としての対応、2つ目はプラットフォーム規制の一環としての対応、3つ目はインフラ規制の一環としての対応、4つ目は金融規制の一環としての対応、5つ目は消費者保護の一環としての対応だ。


 1つ目は分かりやすく、例えば先ほどの漫画図書館Zのように売上金が支払われずビジネスそのものを停止せざるを得ないケースは表現規制以前に、係争に至る案件のように思える。またVisaのようにシェアの過半数を握り、取引停止圧力が優先的地位になるケースにおいて、介入判断が入ることも考えられる。


 2つ目のプラットフォーム規制については、昨今のスマートフォンにおける米Appleや米Googleなどと同じように、プラットフォーマー対策の一環としてクレジットカードの取扱も含むという考えだ。


 3つ目のインフラ規制については、キャッシュレスを国として推進している以上、すでにクレジットカードはインフラそのものであり、政府側もそれを認識している。そのうえでインフラとして円滑に運用できるよう、関連事業者に相応の対応を求めるという流れだ。


 4つ目の金融規制は国によって法制度が異なっており、日本はクレジットカードの発行形態が他国と異なっているという問題もあり、どう対応していくのかを比較検討しながら進めていくことになる。


 5つ目はプラットフォーマーやインフラの考えに近いもので、諸処の規制で消費者が不利益を被らない仕組みを作る必要があるという考えだ。


 政府側の動きとは別に、民間側でできることの1つは、どういった経緯で日本でのクレジットカードによる表現規制が発達してきたのか、その内側を少しずつ解きほぐし、政府による過度の介入がないよう、ある程度透明性のある運用ルールを制定することにあると考える。


 現在の表現規制の一番の問題は「何が起こっているのか分からず、なんだか気持ち悪い」という部分にあると考えており、これをある程度クリアにすることが直近で解決すべき課題だろう。



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  • VISAが“即座の違反金の請求と取引停止”を止めれば済みそうな希ガス。
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