ロックフェラー家当主が推進するブルーシーフード 京都府とタッグを組んだ理由

0

2025年03月09日 13:11  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

(左から)スーザン・ロックフェラー氏、ロックフェラー家当主のデイビッド・ロックフェラー・ジュニア氏、京都府の西脇隆俊知事、セイラーズフォーザシー日本支局の井植美奈子理事長兼CEO

 投資家が企業を見る際に、SDGsを推進しているか否かを重要視するようになってきた。その企業の長期的な成長やリスク管理との関わりが、密接だからだ。


【その他の画像】


 SDGsにある17のゴールのひとつに「海の豊かさを守ろう」が掲げられている。海を守りながら利用することによって、経済や社会全体を持続可能にする「ブルーエコノミー」に対し、投資する企業も出てきた。


 長年この海洋保護活動に取り組むのが、米国を代表する財閥ロックフェラー家の当主でロックフェラー・キャピタルマネジメント取締役のDavid Rockefeller, Jr.(デイビッド・ロックフェラー・ジュニア)氏だ。デイビッド氏がこれまでサステナブルな魚介類であるブルーシーフードを推進してきたことはレポートしてきた。ブルーシーフードとは(1)資源量が比較的豊富な魚種で(2)生態系を守りつつ(3)管理体制の整った漁業による魚種を指定し「積極的に食べよう」と推奨する水産物を指す。


 同氏が2004年に設立した海洋環境の改善に取り組むNGOのアフィリエイトであり、同氏が名誉会長を務めるセイラーズフォーザシー日本支局(SFSJ、東京都)は2024年11月、京都府と包括連携協定を結んだ。海洋環境保全、海洋水産資源の持続的活用などの課題に対し、フードテックの活用をはじめ、教育や観光、文化など幅広い側面から解決を目指し協働していく構えだ。


 デイビッド氏は都内で開催した協定の締結式で「京都大学では持続可能な水産物消費の推進活動に賛同し、一緒に活動しています。京都府との協定締結は、京都大学とSFSJの良好な関係から始まりました」と説明した。


  「水産物の生産、流通、消費の持続可能性は、ブルーシーフードガイド(BSG)を推進することで達成できます。この京都府版のBSGが、漁業者、流通業者、消費者が消費をより持続可能なものにするきっかけになれば幸いです」(デイビッド氏)


 京都府の西脇隆俊知事も「京都から最先端の海のサステナビリティを推進する」と意気込む。「世界的なネットワークや専門的な知見を持つSFSJと研究などを進めたいと考えています。もともと京都にはフードテックについての研究開発企業や機関があります。京の食文化と最先端の食に関する研究開発を融合することによって食関連の産業を振興していきます」(西脇知事)


●「ロックフェラー×京都府」 何が起こる?


 協定の第1弾として「京都府版BSG2025年版」を制作した。ポジティブ・キャンペーンによって、激減した魚の資源を回復させることに着目しているのがBSGの特徴だ。SFSJの井植美奈子理事長兼CEOが解説する。


 「2013年にBSGを発行しました。これは当社が、水産資源の持続可能性について国際基準に基づき、日本の農林水産業の事情を鑑みて独自に開発したメソドロジーによって評価しているものです。世界にはさまざまな評価プログラムがありますが、このガイドの特徴は『(資源が枯渇するから)食べないで』とは言わないことにあります。非常にポジティブなプロモーションなのです」(井植CEO)


 ブルーシーフードは、ある魚種の資源量が減ったからといって、一律に消費を禁じるような考え方に基づくものではない。あくまで持続可能な水産物を優先的に消費することにより、日本の漁業を支援しながら、枯渇した水産資源の回復を促進するという方法論だ。


 「漁業者やサプライチェーンに関係する方々に、ご迷惑をおかけするつもりは決してないという観点に基づいて、このようなガイド方法を設けています。BSGには、今おすすめの持続可能性の高い魚種のみを掲載しています」(井植CEO)


 今回の協定では三重県、東京都、広島県版に続く4つ目の「地方版BSG」を制作した。資源量など水産庁のデータに基づいて制作している全国版のBSGでは評価できない魚種も、京都府が保有するプライマリーデータを利用して評価した結果、持続可能性が認められた魚種を掲載している。地域のデータを活用したきめ細かな評価が可能になるという。これは水産庁の資料では見えてこない結果だ。井植CEOが京都府版を発行する意義を語る。


 「水産資源の状況に関しては全国的な統計では計り知れないものがあります。京都府と連携することによって、京都府が持っているプライマリーデータを使って評価し、地方版を発行できます。例えば伊勢海老ですと、現在の全国版ではブルーシーフードとして認定することはできないのですが、三重県版では(データに基づいて)三重県の資源管理という視点で掲載をしています。同様のことが京都府でも起こってくるわけです」(井植CEO)


 京都府版BSG2025年版では、ズワイガニ、マアジ、アカガレイ、マガキ(養殖)、イワガキ(養殖)、トリガイ(養殖)、アカモク(養殖)、ワカメ(養殖)の8種を掲載した。このガイドをより広く普及させることで、持続可能な水産業や流通を通した地域経済の発展を目指すという。


 デイビッド氏は「BSGは、地域の経済発展にも貢献するでしょう。京都府がブルーエコノミーや近未来の取り組みなど、最先端のサステナビリティへの取り組みを推進するとき、その効果は高く評価されます」と話した。


●ロックフェラー夫妻で活動 京都府が推進する理由は?


 デイビッド氏は妻のスーザン・ロックフェラー氏と共に海洋保護活動に積極的に取り組む。83歳になった今でも夫婦で毎年日本を訪れ、啓蒙活動を続けているのだ。スーザン氏は、SFSJと提携している世界有数の海洋保護NGOであるOCEANA(オシアナ)の理事でもある。


 「歴史的に、京都府は沿岸漁業に専念して、消費するのに十分な量を漁獲し、経験を通じて適切な漁獲量を知っていました。このように、京都府は2008年に日本で初めて、またアジアで初めて(持続可能な漁業で獲れた水産物に与えられる国際認証)MSC認証を取得した都道府県として、世界から高い評価を得ました」(スーザン氏)


 京都府はMSC認証取得に加え、水産業にIoTやAI技術を取り入れたフードテックを推進している。西脇知事は「フードテック構想の基盤には、京の食文化があります。京都の食材や農林水産物といった一次産業があるのです」と説明する。


 最近は、定置網漁などにもIoT技術を活用しているという。海流や水温に加え、魚の群れの動きをリアルタイムで観測。定置網に入る魚種を、地上で把握することで、効率的な判断を可能とした。


 「トリガイのような二枚貝の養殖にもフードテックが必要です。高水温に弱いトリガイは時々、水温が高くなったり、酸素濃度が低くなったりして大量死する場合もあります。そういった事態は結局、資源の無駄にもなってしまいます。このような状況を防ぐためにもフードテックは重要なんです」(西脇知事)


 一方で、京都府にとっては「京都の北部に海がある」ということが広く認知されていないという課題もある。


 「皆さん実は、京都の水産物を食べているのに、それが京都の海で取れたものだと、認識していないこともあります。京都の食材の素晴らしさや、水産資源を保存する必要性を実感することも、水産業の振興と活性化につながると思うんですよね」(西脇知事)


 日本海に面した京都北部を振興させようと打ち出したのが「海の京都」構想だ。西脇知事は「京都の文化のベースには自然資源があるということを、全国に訴求していきたい」と話す。


 「資源保護や海洋環境の保全に加えて観光や教育といった文脈でも訴えていきたいと思います。包括連携協定には観光や教育といった項目も含まれていますから、その意味でも協定を結ぶ意義は大きいと考えています」(西脇知事)


 言うまでもなく京都は「京都議定書」発祥の地だ。京都大学の前総長でもある総合地球環境学研究所の山極壽一所長は生物多様性の問題を、広く根づかせる活動に取り組み、京都府も支援しているという。このような独自の取り組みは、環境先進都市である京都にとってもブランディングになる。企業だけでなく自治体も、どれだけ独自性を打ち出せるかが勝負だ。


 「水産資源の持続可能性を、その地域のプロモーションの武器として活用していただけることを期待しています。そしてこれを持続可能な水産資源を活用したブルーエコノミーに発展させていく。地域の文化とつながって、さらなる交流が生まれることを願っています」(井植CEO)


(アイティメディア今野大一)



    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定