2021年にコミック配信サイト「少年ジャンプ+」で公開された藤本タツキ氏の青春物語『ルックバック』。その後、劇場アニメ化され2024年6月に上映が始まり、興行収入は20億円を超え、2025年3月現在まで上映が続くロングランヒットとなっている。
同映画の監督・脚本・キャラクターデザインを手掛けた押山清高氏が、CCCメディアハウスが発行する雑誌『Pen』主催の「Pen CREATOR AWARDS 2024」を受賞した。
同作はひたむきに漫画づくりを続ける2人の少女の姿を描く青春ストーリーだ。その特徴は、2時間程度が当たり前の劇場作品の中で、58分で終わるという短さにある。1月25日に開催された授賞式で、押山氏は「短い映画であってもお客さんの満足度を高めたいという思いで、絵を濃密に仕上げ、原作を再現するために普段以上に時間をかけて描き上げた」と明かした。
押山氏によれば、通常は1作品あたり20〜30人がアニメーションを担当することが一般的なところ、本作ではわずか8人体制で制作したという。同氏は「僕自身、監督を務めながらアニメーターとしても多くの部分を担当した」と話す。
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「モノを作るプロセス自体がすごく大事だと思っていて、作品は人を幸福にするものだと思っています。たとえヒットしなくても、作品を作っている時間そのものが幸せで、完成すればさらに幸せを感じられます。さらにアニメーターは、目の前のアニメーションの作業に没頭し続けられる、特別な仕事だと思います」と話し、制作に対する愛情も語った。
Welcome to Pen 2025 CREATORS FES.には、押山氏と共に原作の担当編集を務めた編集者の林士平氏も登壇した。今回の記事では、林氏に原作を映画にする際に意識したことやヒットの裏側を聞いた。
●漫画原作をアニメに 両方を成功させた要点は?
――漫画原作を劇場アニメにしていく上で、難しい部分もあったと思います。漫画も映画もどちらも興行的に成功させられた背景には、どんなポイントがあったと思いますか?
漫画のヒットの要因は、(原作の)藤本さんの描かれた作品が非常にハイクオリティーなものであったことが大きいと思います。アニメーションでは、漫画をただ動かすだけではなく、アニメーションとして再編集し、押山さんの考えるアニメとしての魅力がふんだんに詰まった作品にしていただきました。漫画の良さとアニメの良さ、それぞれを追い求めた結果、正しくお客さまに響いた。だから多くの人に届いたのだと思っています。
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――私も映画を拝見させていただきましたが、登場人物が漫画を制作する過程と共に、キャラクターが魅力的に描かれていると感じました。
(一生懸命に漫画を作り続ける登場人物と同じように)視聴者の皆さんも、朝から晩まで仕事をするなど、それぞれに夢中になって自分の人生を費やしているものがあると思います。そういう方々に感じるものがあったから、たくさんの人に響いたのかもしれないと感じています。
――押山監督と原作者の藤本氏とのミーティングの場も設定したと聞きました。編集者として意識したことはありますか?
これは『ルックバック』に限った話ではなく、原作者によって、こだわる箇所やアニメにする際に残してほしいポイントなどは全く違います。バラバラです。
だからアニメにするときには、原作者のこだわりや、作品に込めた思いなどと、(アニメの)監督やプロデューサーの考えとを、すり合わせた方がいいと考えています。ただ『ルックバック』に関しては「こうしてほしい」とか「こうじゃなきゃダメ」とかいうお話は全くしていません。
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「原作ではこうだった」「(原作者は)こんな風に思っています」ということを伝えた上で「押山さんの思い通りに仕上げていただきたい」というコミュニケーションをしていました。もちろん作品によっても変わるのですが、本作ではそんな風にコミュニケーションを取っていたと思います。
――林さんは『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』といった漫画を始め、サイバーエージェントとの漫画家育成プロジェクト『MANGA APARTMENT VUY』(マンガアパートメント ヴイ)の寮長兼プロデューサーを務めるなど、さまざまな意欲的な仕事に取り組んでいます。編集者の仕事の可能性をどう考えていますか?
僕の仕事はまず、漫画家さんと共に面白い漫画を世に届けていくっていうのが、最初にあります。原作の魅力を伝えようとする時には、『ルックバック』のようなアニメーション映画や、実写の映画やドラマ、舞台といろんな形にしていきます。ただ何にせよ、根幹にあるのは「良い作家さんが良い作品を作る」ということです。
基本的にはそれを、編集者として愚直に丁寧にたくさんやっていこうと思っています。広げ方については、自分なりの経験値は、たまってきています。アニメにする時は、こういうコミュニケーションを取ってくべきだとか。監督やクリエイターとはこういう話をすると、クオリティーが上がる可能性が高くなるとか。そういった工夫をしながら、やれることは全部やっていきたいと考えています。
(アイティメディア今野大一)
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