各企業が盛んにDXの取り組みを始めたのは、政府からの推奨も強化された2018年頃からです。それに伴い、ITやコンサル業界でも「DXバブル」が到来したかのように、案件の依頼が急増しました。
それから7年がたち、各社のDXは良好に作用しているのでしょうか。また、現在の完成度はどれくらいで、今後はどのように進展していくのでしょうか。現状の課題を踏まえて整理したいと思います。
情報処理推進機構(IPA)が2024年5月に発表した2023年版の「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート」によると、大企業におけるDX推進指標の目標は3.62、中小企業は3.11。対して現在値は大企業は2.11で58.3%の進ちょく、中小企業は1.14で36.7%にとどまっています。全企業平均でも目標値3.17に対して現状値が1.26、進ちょく率は39.7%です。この数値から見るとまだまだDXは道半ばであることが分かります。
今まで取り組んできたDXで、多くの企業は期待通りの成果を出せているのか、それとも失敗したり、想定とは異なる結果となったりしているのでしょうか。PwC Japanが2024年9月に発表した調査結果によると、期待通りの成果となっていない企業が全体の約6割でした。成果が出ていない企業も10%を占めている状況です。
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●なぜ、DXは「うまくいかない」のか
では、どのような課題があるのでしょうか、今回はバックオフィス業務に焦点を当てて整理したいと思います。バックオフィス業務とは人事、法務、労務、営業管理など、顧客と向き合うフロント部門を支える、本社の業務を指します。これらの業務を支援するソリューションがどれくらいあるのでしょうか。全てを網羅しているわけではありませんが、各分野のカオスマップに掲載しているソリューションの数を整理しました。
これだけツールがある中で、各社が選ぶのは各分野につき一つです。もちろん全てを比較するのは不可能ですから、絞り込んだ5つくらいのツールを比較し、自社に最も適切なツールを決定していきます。
慎重に選定を行ったにもかかわらず、期待通りの成果を出せない企業が多い要因には何があるのでしょうか。その一つに「各ツールを横断して全体最適を導く視点が欠如している」点が挙げられます。
それぞれのツールは各IT企業が高い知見を投入して開発したもので、業務効率化に貢献する部分を多く保持しています。しかし、あくまで業務内だけの話であり、隣接する領域との繋ぎ合わせに課題を抱えているのです。
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例えば、勤怠管理を考えてみましょう。まず、社員の業務開始を管理するために打刻管理ツールがあります。就業時間を記録するだけでなく、残業代を役職別に自動計算できるツールも必要でしょう。適切な給与計算ができたら、給与支払いや会計の販管費に反映させる必要も生じます。業務時間の内訳を分析するために、どの業務にどれくらいの時間を費やしたのか記録するツールも必要になるでしょう。
これらツールを個々に導入すると、CSVファイルでデータを書き出し、別途管理や分析が必要になるケースが多くあります。エクセル管理をやめたくてシステム導入をしたのに新たなエクセルが発生してしまうという事態もあるのです。
●目指すべき「全体像」とは
月次、四半期、通期の決算早期化を実現するには、人事管理領域以外に営業観点の売り上げや仕入れ管理も迅速に行わなくてはなりません。事前に申請があった内容と突合し、請求書の発行、受領を円滑に進めるためには、発注管理や申請管理、リーガルシステムも必要になるでしょう。
また、経営者は詳細データよりも、会社全体を俯瞰できる全社的な傾向や予測、部門別の課題を常に察知できる状態を望むはずです。そのため、さらにBIツールやAI分析ツールを投入し、アドオンされたSaaSのオンパレード状態となってしまい、収集がつかなくなります。
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次に示したのは、バックオフィス業務で多くの企業が目指したい姿の一例です。これを実現するためには、最初から全体像ありきで一本化できるベンダーやソリューションを探すか、いくつかのツールをつなぎ合わせる自社の最も効率的な流れを構築するしかありません。
とはいえゼロベースから構築する企業は少なく、何かしらのツールを既に導入しているでしょう。全体像をイメージしつつ、一つずつのつなぎ方を丁寧に考えていくのがベターです。
人数が多く業務が煩雑な企業の場合は、一つのソリューションを導入するにもかなりの労力を要するはずです。やっと導入の終着点が見えてきたころ、他の業務とのつなぎ合わせが不十分という課題が挙がったり、導入してから現場からクレームの嵐になったりというケースも見受けます。
そうならないためにも、目指す姿を明確にし、部分最適に陥らないようにすることが重要です。今後もDXの潮流は続いていくのが予想される中で、今回はバックオフィス業務のDX課題について解説させていただきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
(佐久間俊一)
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