「なおエ」の懸念もあるなか、覚醒予感の菊池雄星はエンゼルスを11年ぶりのポストシーズンに導けるか

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2025年03月10日 07:20  webスポルティーバ

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 今オフ、ロサンゼルス・エンゼルスには4人の「タイトルホルダー」が加わった。

 カイル・ヘンドリックス(前シカゴ・カブス)は2016年の最優秀防御率、ホルヘ・ソレア(前アトランタ・ブレーブス)は2019年の本塁打王、ティム・アンダーソン(前マイアミ・マーリンズ)は2019年の首位打者、ケンリー・ジャンセン(前ボストン・レッドソックス)は2017年と2022年のセーブ王だ。

 ただ、エンゼルスが今シーズン、最も期待を寄せている新加入の選手は、先発投手の菊池雄星だろう。そのことは、契約の大きさからもうかがえる。

 今オフにエンゼルスが交わしたメジャーリーグ契約の総額は、菊池の3年6367万5000ドル(約98億円/2025年〜2027年)が約3分の2を占める。現在のエンゼルスで菊池を上回る契約を手にしているのは、マイク・トラウトとアンソニー・レンドンしかいない。

 菊池は、今年の6月17日に34歳となる。これまでにメジャーリーグで投げた6シーズンの防御率は4.57だ。シーズン防御率が4.00を下回ったのは、2023年(3.86)しかない。

 それにもかかわらず、今回の契約は、総額、年平均額のどちらにおいても、その前の2度の契約を上回る。2019年に西武からシアトル・マリナーズへ移籍した時は4年5600万ドル(2019年〜2022年)、2022年にトロント・ブルージェイズと交わした契約は3年3600万ドル(2022年〜2024年)だった。

 30代なかばの菊池に対して、エンゼルスは多すぎる金額を注ぎ込んでしまったのだろうか。その答えは「ノー」だと思われる。

 過去2シーズンとも、菊池は165イニング以上を投げて、奪三振率9.70以上と与四球率2.60未満を記録している。計343.1イニングは全体22位、奪三振率10.14と与四球率2.41は300イニング以上の46人中4位と16位に位置する。

 シーズンを通して健康で、三振を奪う能力が高く、制球も悪くない、ということだ。2022年の夏に首を痛めたのを最後に、負傷者リストにも入っていない。

【2025年の新たな武器はスイーパー】

 2024年のスタッツは、夏のトレードでブルージェイズからアストロズへ移ってから大きく向上している。移籍前の115.2イニングと移籍後の60.0イニングを比べると、奪三振率が10.12→11.40、与四球率が2.33→2.10、防御率は4.75→2.70だ。アストロズではエース級の投球を披露した。

 サンプル数は多くないものの、菊地の好調さは一時的なものではなく、完全開花の兆しに見える。移籍後のFIP3.07ほどではないものの、移籍前のFIPも3.66。防御率より1点以上も低かった。

 FIPとは「フィールディング・インディペンデント・ピッチング」の略。ざっくり説明すると、守備の要素をできる限り排除した防御率だ。対戦結果のうち、三振、四球と死球、ホームランは基本的に投手の責任だが、ホームランを除くインプレーの打球の結果は守備に左右されることが少なくない──という考え方から生まれた。

 菊池を高く評価しているのは、エンゼルスだけではない。思い出してほしい。アストロズはFAになるまで数カ月しか保有できない菊池を獲得するのに、若手を3人も手放した。今オフに争奪戦が起きなかったのは、12月を迎える前にエンゼルスと契約を交わしたことが理由だろう。

 2025年の菊池の投球は、さらに進化する可能性がある。スタットキャストで2024年の投球割合を見ると、ブルージェイズで投げた最初の4カ月はスライダーが20%未満だったのに対し、アストロズでは35%以上に増えた。9月に限るとスライダーの割合は39.2%を占め、フォーシームを上回っている。

 さらに2025年は、通常のスライダーよりも横に大きく動く「スイーパー」が加わりそうだ。大谷翔平(当時エンゼルス/現ロサンゼルス・ドジャース)は2年前、この球種でマイク・トラウトから空振りを奪い、WBC優勝を決めた。

【大谷に被弾された影響はない】

 もしかすると、菊池は「大器晩成タイプ」なのかもしれない。西武時代もエースとなるまでは時間を要した。

 2009年のドラフトで6球団から指名を受けながら、2010年は一軍登板がなく、実力の片鱗は見せつつも初めて規定投球回に到達したのはプロ7年目の2016年だった。ただ、完全覚醒したあとはパ・リーグ防御率が2016年2位→2017年1位→2018年2位と無双を誇った。

 菊池にとって、2025年はメジャーリーグ7年目となる。少しこじつけるなら、日本プロ野球で資質を存分に発揮し始めたのもプロ7年目。果たして──。

 オープン戦初登板の2月28日、菊池は先頭打者の大谷にホームランを喫し、続くふたりにもヒットを打たれた。しかし、それは不安材料にはならない。菊池はXにこう記している。

『このままでは捕手に申し訳ないので発信します。まずはじめに、一番「あり得ない」のは、四球を出すことでした。世界一の選手と、結果を気にせずに対戦出来るオープン戦において、四球ほど勿体無いものはありません。かつ、僕もエンゼルスのユニフォームを着ての最初の打者。四球スタートだけはあり得ないわけです。

 シーズン中に同じ配球をするか?は全く別の話です。ただ、我々は勝負を楽しみたかっただけなのです。なぜなら目の前に立っているのは世界一の選手だから。腕を振ったストレートを、オープン戦の一打席目に完璧に仕留められた。凄いの一言です。めちゃくちゃ悔しいですが、それでいいのだと僕は思います』(原文ママ)

 この書き込みは、配球についての疑問に答えているだけではない。シーズン中も勝負を楽しむことは変わらないかもしれないが、それよりも結果を求め、勝負に勝つ(ことを目指す)と宣言しているように受け取れる。

 それでも、結果が気になるのであれば、この登板には続きがある。初回途中に降板した菊池は、シーズン中にはない特別ルールによって2回裏のマウンドに上がり、最初のふたりから三振を奪い、3人目の大谷を遊撃フライに討ち取った。3回裏も、3人ともアウトに仕留めた。

【メジャー初の開幕投手に抜擢】

 菊池が好投しても、エンゼルスが勝てるのかどうかは、まだわからない。大谷が在籍していた時期に生まれたスラング『なおエ』の二の舞も考えられる。「なお、エンゼルスは敗れた」という意味だ。

 けれども、菊池が6イニングを投げ、その時点でリードしていれば、「ブリッジ(橋渡し)」が必要なのは1イニングだけだ。最後の2イニングは「勝利の方程式」が成り立つ。ベン・ジョイスのフォーシームはコンスタントに100マイルを超え、ジャンセンのカッターは今も打者を抑えることができる。

 3月27日の開幕戦(シカゴ・ホワイトソックス戦/アウェー)で、菊池は先発マウンドに上がる予定だ。メジャーリーグでは初、西武時代を含めると2016年〜2018年に続く4度目の開幕投手となる。

 エンゼルスのポストシーズンを振り返ると、最後に進出したのは11年前。現時点では、どのチームよりも長く遠ざかっている。そのブランクに終止符を打つには、トラウトの復活に加え、菊池が名実ともにエースと呼ばれる存在になることが不可欠だろう。

このニュースに関するつぶやき

  • あれだけ大谷くん1人で頑張ってもやはりチームが頑張れないとなあ。
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