<書評>『図解 知識ゼロからの食料安全保障入門』 農中総研の総力結集 共同通信アグリラボ

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2025年03月10日 10:40  OVO [オーヴォ]

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<書評>『図解 知識ゼロからの食料安全保障入門』 農中総研の総力結集 共同通信アグリラボ

 食料安全保障は、食料供給や自給率に矮小(わいしょう)化されて論じられることが多いが、本来は極めて多岐にわたる複雑な概念だ。本書の冒頭、目次の前に挿入された見開き2ページの相関図は食料安保の構成要素を一覧できる形で示しており、曼荼羅(まんだら)のように複雑だ。

 その全体像をわかりやすく説明するのは容易ではないが、農林中金総合研究所が総力を挙げて1冊にまとめた。「知識ゼロからの入門」と位置付けられているが、内外の最新情勢と学術研究の成果を踏まえた密度の高い解説書だ。

 執筆には、同研究所の平澤明彦理事研究員ら監修を担当した3人に加え、小畑秀樹常務執行役員、内田多喜生常務取締役、さらに外部からも小泉達治農林水産政策研究所上席主任研究官、須田敏彦大東文化大学教授、品川優佐賀大学教授、小山修国際農林水産業研究センター理事長らが参加している。

 それぞれの分野の第一人者の書き下ろしを、概要(1章)、海外情勢(2章)、食料安保のリスク(3章)、国内情勢(4、5章)、消費者の役割(6章)のテーマごとに織り交ぜて再編しており、あたかも一人で書き上げたように違和感なく通読できる。洗練された編集だ。

 新型コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻を受けて、いわゆる「食料安保」に対する関心が高まり、昨年、食料・農業・農村基本法が改正された。それ以前は食料安保について政府の公式な定義さえなかった。改正基本法は「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態をいう」(2条)と定義しただけでなく、同法の第1の基本理念として位置付けた点で評価できる。

 ただ、改正はあまりにも拙速で、当時は与党が国会で過半数を占めていたこともあり十分に議論されたとは言いがたい。世論の関心はさっぱり盛り上がらず、新たに定義された食料安保に対する理解が深まっているとは到底思えない。

 もし本書が2年早く出版されていれば、間違いなく立法の関係者の間で幅広く読まれ、改正基本法は少し違った内容になったかもしれない。本書の読了後、新品の家電製品が動かなくなり慌て取扱説明書を読むような、そんな間の悪さを感じるのが残念だ。本書は、家の光協会から2024年12月18日に出版された。1800円(税別)。

(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)

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