人気ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』原作は少女漫画誌作品 ミステリ好きが薦める人気の少女漫画といえば?

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2025年03月10日 13:00  リアルサウンド

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浅見理都『クジャクのダンス、誰が見た?(7)』 (講談社)

 放送中のテレビシリーズ『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS)が大いに話題になっている。


  テレビドラマが視聴率を取りにくい今、初回は7.8%の視聴率を獲得し、以降も6%以上をキープしている。配信でもTVerのお気に入り登録者数は90万を超え、Netflixでは今日のTV番組TOP10(国内)に毎日のようにランクインしている。視聴者による考察も捗っており、物語も後半に突入したことからさらに考察は捗るのではないだろうか。


■原作に概ね忠実

 『クジャクのダンス、誰が見た?』は浅見理都による漫画を原作にしている。2025年2月28日に放送終了した第6話までで、原作全30話中の20話のはじめあたりまでを消化している。放送ペースを考えると綺麗に1クールで完結するだろう。


  テレビドラマは一話の尺を45分程度に納めなければならないため、脚色にあたっての軽微な省略・変更はあるが概ねドラマは原作に忠実だ。時間軸を入れ替えたり、回想シーンを簡略化するなど話の流れそのものは変更せずによりテンポが良くなっている。読書は自分で読み進める能動的な作業だ。読書そのものが「面倒くさい」行為であり、多少のテンポの悪さはマンガを含む書籍において味になりえる。映像メディアでも特にテレビドラマはリラックスした時間帯に、食事したりお茶を飲んだりしながら、ながら見をするものなのでテンポが悪いと飽きる。映画館の暗闇で観客と制作者が向き合う映画では、アスガル・ファルハーディーのようなテンポの悪さも味になりえるが、同じことをテレビでやったら視聴者は寝てしまうか、チャンネルを変えるだろう。翌週から同じ時間帯は別の番組を見るか、テレビを見る以外の消費行動に移ってしまうに違いあるまい。


  だが何より、このドラマの最良の点は、実写に向いた題材を適切に選んだ企画そのものだろう。『クジャクのダンス、誰が見た?』はフィクションラインの低い(現実との地続き感の強い)舞台設定で、漫画的な誇張表現もかなり控えめだ。映像化するならアニメより実写向きだろう。元々実写向きの題材を変に改変せず、キャラクターのビジュアルも無理に原作漫画に寄せていない。こういった手堅い処理の仕方は大正解だと筆者は思う。筆者は映像制作者でもあるが、同じ原作をやる話になったら同じようなアプローチをするだろう。ただ一点、赤沢刑事の演技だけ少し気になる。他の俳優がテレビドラマをやっているのに対して、演じている藤本隆宏一人だけシェイクスピア劇の悪役をやっているようだ。やりすぎだと思うし、ここは演出がちゃんと指導するべきだと思う。



■少女漫画らしくない少女漫画

  テレビドラマがここまで原作に忠実な姿勢でいるからには、結末を大きく改変するとも考えにくい。ネタバレになってしまうので、原作についての言及はこれ以上控えておくことにするが、一つだけ付け加えておきたい。


  ご存じない読者の方はかなり意外に思われるだろうが、『クジャクのダンス、誰が見た?』は講談社の『Kiss』に連載されていた。『Kiss』は女性をメインターゲットにした「ヤング・レディース」を主に扱う月刊誌である。言い換えると『クジャクのダンス、誰が見た?』は少女漫画なのだ。


  一般的に少女漫画と言えば、恋愛を中心に持ってくることが多いが『クジャクのダンス、誰が見た?』は硬派なサスペンスで、恋愛要素はほぼ皆無である。他の『Kiss』の連載作品と比べると『クジャクのダンス、誰が見た?』は明らかに異彩を放っている。敢えて少女漫画らしい点を挙げるなら、作者が女性で絵柄も一般的にイメージされる線の細い女性的なデザインであることと、若い女性が主人公なことぐらいだろう。作者の浅見理都氏はもともと青年誌で連載を持っており、『モーニング』で連載されていた『イチケイのカラス』もサスペンスだった。『イチケイのカラス』はコミカルな描写も多かったが、女性向けの『Kiss』に移って書いた『クジャクのダンス、誰が見た?』はコミカルな描写も殆ど無く、より硬派な方向に向かっている。こういった方向に進む判断をしたのは実に面白い。『Kiss』の編集部が本作を載せる判断をしたのも面白い。


  本作の他にも、少ないながら「少女漫画でありながら、少女漫画らしくない」作品は存在する。『クジャクのダンス、誰が見た?』に関連して、紹介しておこう。


■『BANANA FISH』

  『別冊少女コミック』(現・『ベツコミ』)に1985年〜1994年まで連載されていたかなりの長寿作品。連載終了から14年の時を経て2018年にアニメにもなっている。


  1980年代のニューヨークを舞台に、謎の言葉「BANANA FISH」を巡って物語が展開されるサスペンスである。本作は登場人物の男性率が高く、女性が少ない。女性キャラクターが少ないので、当然ながら恋愛要素は限りなく希薄である。あえて言うならアッシュと英二の関係が友情以上恋愛未満と言ったところだろうか。こういった描写を見ると思うのだが、男性作者の視点から見た男同士の友情と女性作者の視点から見た男同士の友情は違うようだ。


 『結界師』、『BIRDMEN』の田辺イエロウ氏や、『鋼の錬金術師』、『銀の匙 Silver Spoon』の荒川弘氏など、少年漫画誌を主戦場とする女性作家には、作風からいい意味でフェミニンさを感じさせない人がいるが、女性の書いた「少女漫画らしくない少女漫画」にはそれらとは違った魅力がまたあると思う。


■『夏目友人帳』

   『LaLa』に2003年から連載されている長寿作品。何度もアニメになっているため、アニメ好きにもお馴染みだろう。


  妖(あやかし、妖怪)の姿が見える、霊能力者の少年を主人公に人間と妖怪の関係を描いたドラマである。一話完結、または一つのエピソードが数話で完結する形式をとっており、主人公の夏目貴志より毎話登場する妖怪たちとその関係者たちが物語の主人公と言った趣になっている。レギュラー級のキャラクターに女性キャラクターが殆どいないため、恋愛要素は希薄。女性の作者が書くと、こういった雰囲気になりがちだが夏目と夏目の友人の田沼の関係に、仄かにBLの臭いを嗅ぎつける読者もいるようだ。『BANANA FISH』もそうだが、男性作者の目から見た男性同士の友情と、女性の作者から見た男性同士の友情は違って見えるのだろう。筆者は男だが、何を隠そう筆者も本作のファンである。他にも熱心に読んでいる男性の読者は少なくないのではないだろうか。



■『ミステリと言う勿れ』

 『月刊フラワーズ』に2016年より連載中。本作もかなりの長寿作品である。


  「言う勿れ」などと銘打たれているがとんでもない。かなり本格的なミステリーである。主人公の久能整はただの大学生だが、知識・洞察力に優れており、巻き込まれたり依頼されたり何かと事件に関わって探偵役として振舞う。レギュラーキャラクターに若い女性キャラクターのライカが登場するが、整とライカの関係に恋愛の臭いは全くしない。テレビドラマでは、原作だと警察関係者の一人に過ぎなかった風呂光刑事がレギュラーキャラクターに昇格しており、仄かに整に恋愛感情を抱いているような描写があったが、テレビドラマの完全なオリジナルである。


  少女漫画でありながら恋愛要素がほぼ皆無なのは本作の魅力の一つであり、原作ファンには拒否反応を起こした人もいたかもしれない。テレビドラマに引っ張られたのか、放送終了後に連載されたエピソードで、風呂光刑事が整と組んで事件の捜査に取り組むものがある。『ミステリと言う勿れ』はテレビドラマの放送終了後、映画にもなったが新しい事件の発生を描いて終わったので、今後も映像化されるのだろう。


  何を隠そう筆者もファンで、新刊が出るたびに買っている。



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  • 「フルーツバスケット」「天使禁猟区」この2点は絶対に読んだほうが良いです。
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