日本ハム・吉田賢吾 (C)Kyodo News 今季は台風の目ではなく、王者と張り合えるところまで着実に成長を遂げているはずだ。
先月21日に開幕したオープン戦は、各チーム4試合から9試合を消化した。9日終了時点で首位に立っているのは、就任4年目を迎えた新庄剛志監督率いる日本ハムである。
まだ6試合を終えただけだが、すべて2点差以内という接戦続きの中、4勝1敗1分の好成績を残している。ソフトバンクのように相手を圧倒する試合運びはほぼ皆無だが、昨季培った勝負強さを発揮。先週末には新戦力の台頭もあった。
6-6で引き分けた8日の中日戦で、 スタメン起用されたのは吉田賢吾。その試合で4打数4安打の固め打ちを見せると、翌日にもしっかり1安打を記録した。昨年の現役ドラフトでライバルチームから引き抜かれた24歳が開幕一軍に向けて猛アピールを続けている。
昨年は吉田と同じくソフトバンクから現役ドラフトで加入した水谷瞬が躍動ことも記憶に新しい。さらにその前年には近藤健介の人的補償として獲得した田中正義がソフトバンク時代の鬱憤を晴らす活躍を見せていた。吉田とすれば、この流れに乗って一軍で大暴れしたいところだろう。
その吉田が1安打を放った9日の中日戦は、息詰まる投手戦だった。4回裏に挙げた1点を日本ハム投手陣が最後まで守り抜いたのだが、最終回を任されたのがオフに加入した清宮虎多朗である。
2018年に育成ドラフト1位で楽天に入団した清宮虎の最大の武器は150キロ台の速球。23年には自己最速161キロを叩き出し、同年のイースタン・リーグ最多セーブにも輝いた。しかし、入団時から制球難に苦しみ、一軍での登板は昨季の3試合だけ。プロ経験6年、24歳の若さで楽天から非情の戦力外通告を受けていた。そんな清宮虎に救いの手を差し伸べたのが新庄監督というわけだ。
清宮虎は2月の紅白戦で相変わらずの制球難を露呈していたが、新庄再生工場のマジックもあったか、9日の試合では2人目の打者・石川昂弥を歩かせたものの、後続を断ち切り見事な無失点デビューを飾った。
1点リードの最終回という緊迫した場面でオープン戦初マウンドに送ったことも新庄監督の期待の表れだろう。新天地で大きな自信にもつながっていくはずだ。
清宮虎と吉田が公式戦でも戦力になるようなら、新庄監督は「再生工場」の代名詞を確固たるものにするかもしれない。
「再生工場」といえば、新庄監督のかつての恩師・野村克也監督の代名詞だった。
野村監督は1999年から3年にわたり阪神で指揮を執ったが、いずれもセ・リーグ最下位。ヤクルト監督時代の辣腕を発揮できなかったが、選手・新庄の運命を好転させたのが野村監督だった。
野村監督が就任したのは1998年秋。まず着手したのが、それまで類まれなるポテンシャルをなかなか発揮できずにいた選手・新庄の再生だ。それが本職の外野に加えて、投手としても起用する二刀流プランである。
実際にオープン戦でもマウンドに登った投手・新庄だったが、ケガの影響もあり、公式戦で二刀流が実現することはなかった。それでも野村監督が意図した通り、マウンドに登ることで、投手心理を理解したのか、98年に打率.222、6本塁打だった新庄の成績は99年に.255、14本塁打、2000年には.278、28本塁打と急上昇。その後、メジャーでも4番を張るほどの打者に進化を遂げた。
現在、新庄監督が山崎福也やドラフト1位ルーキーの柴田獅子を二刀流で起用しているのも25年以上前に野村監督から受けた影響もあるのかもしれない。
ちなみに野村監督は2001年まで3年間かけて畑を耕し、種をまいたが、芽を出す前に沙知代夫人の逮捕を受け辞任。4年目の指揮を執ることができなかった。しかし、その後に星野仙一監督と岡田彰布監督の下でまいた種が花となり、03年と05年のセ・リーグ優勝につながった。
一方の新庄監督は2年連続最下位から就任3年目の昨季に2位へ急浮上という結果を出した。野村監督が果たせなかった“勝負の4年目”で見据えるのは優勝の二文字だけだ。「再生工場」が再び賑やかになってきたのは、それが実現する前兆なのかもしれない。
文=八木遊(やぎ・ゆう)