先日発表されたM3チップ搭載の新型「iPad Air」を早速レビューする機会を得た。検証したのは13インチモデルで、色はスターライト、ストレージ容量は1TBという最上位モデルだ。
予想通りではあるが、製品を試した感想を一言でまとめると「2025年にタブレットを新たに購入する人、古いタブレットを新しくしたい人が最初に考えるべき選択肢」。これに尽きる。iPad Airは、15年前に「タブレット」というジャンルを切り開いた世界的ヒットシリーズiPadの王道モデルといえよう。
●Airは、iPad購入予定者が最初に検討すべきモデル
「第3のデバイス」――PCでもスマートフォンでもないデバイスとして、故スティーブ・ジョブズ氏が最初のiPadを発表したのは2010年。最初は1モデルのみの構成でカメラも搭載していなかったが、2025年で15周年を迎え、ラインアップもPro/Air/mini、無印の4つのモデルに拡大。そして、その中心的存在となっているのが、iPad Airだ。
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標準モデルは、通称「無印iPad」ではないかと思うかもしれない。しかし、無印iPadはとにかく価格を重視した学校やテーブル注文端末などでの利用を前提にしたモデルだ。これからApple製品の中心的機能となる、Apple Intelligenceも使えない特殊モデルでもある。
詳しくは、こちらの記事「Apple製品でiPadほど多用途なモデルは珍しい? 2025年モデルは“iPadの方向性”を再定義する」を読んでほしい。
そちらの記事にも書いた通り、今、iPadの選び方は非常に簡単だ。
そもそも今、自分がiPadを必要とするか否かを考える必要はあるが、「必要」と分かったら後はほぼ自動的にモデルが決まる。
動画や電子書籍など用途を限定しており、Apple Intelligenceよりも価格を優先したい人は無印iPad、動画や写真の撮影や加工、3Dモデルの取り込みや加工といった仕事をしている人はiPad Pro、どうしても小さいサイズがいい人はiPad miniを選ぶ。
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そして、そのどれにも該当しないほとんどの人はiPad Airを選ぶことになる。
11インチと13インチのどちらのモデルにするかは悩ましい。当然、画面が大きければ大きい分、写真も動画も迫力が増すし、電子書籍の文字も大きく見えるが、重さと価格は上がる。
さて、新製品が登場すると性能テストなどを通して前モデルとの差を定量化して比較するのが一般的だが、今のiPad選びでは、個々のモデルの性格の違いがあまりにも明瞭なため、あまり定量的な比較は意味を持たない(それでも気になる人はいると思うので、本記事の最後に検証結果をまとめた)。
新型iPad Airは、プロセッサがM2チップからM3チップに変更された以外は、製品の外観も含め従来モデルとほとんど変わりがない。そのため新たに語ることは少ないが、これまでiPad Airに着目してこなかった人に向けて、以下で製品としての特徴を簡単に解説する。
●iPad Proには及ばないが「十分先進的」なスペック
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名前に“Air”が付くことで、超薄型の製品を想像する人がいるかもしれない。製品の厚さは約6.1mmで重量は13インチだと約617g、11インチは約460g(Wi-Fi+Cellularモデルの場合)となる。
約481gで約7mm厚の無印iPadと比べると約0.9mm薄い。
ただし、圧倒的に高性能なのに約5.3mmとさらに薄く、しかも、13インチモデルでも582g(11インチは446g)というiPad Proの引き締まった本体の魅力を1度知ってしまうとそこまで薄いという印象は持てない。
実際にボディーの曲げテストを行ったわけではないが、手で持った印象ではiPad Airの方が厚い分、iPad Proと比べて本体の剛性がかなり高そうな印象を持った。
センターステージに対応したビデオ会議用カメラが付いているのは他のiPad同様だが、赤外線センサーは省かれており、Face IDには対応しておらず指紋を使った個人認証、Touch IDを使うデバイスになっている。
では、iPadという製品において最も重要なディスプレイについてはどうだろうか。
iPad Airが搭載するディスプレイは、Liquid Retinaディスプレイと呼ばれるもので、Appleの一部の高級モデルが搭載するRetina XDRディスプレイよりは性能が落ちる。例えば晴れの日の空など、写真の明るい部分が驚くほど忠実に再現できるXDR表示には対応していない。
例を挙げるとiPhone 16シリーズで撮影した屋外写真などは、Super XDRディスプレイを搭載したiPhone 16シリーズ上では、空の部分が驚くほど明るく表示されるが、iPad Air上では明るくは表示されるもののiPhoneほどの明るさにはならない。写真や動画をXDR品質で確認したい人は、多少高くてもiPad Proを選ぶ必要がある。
もっとも、それはXDRディスプレイと比較した場合の話で、iPad Airのディスプレイは決して品質が悪いわけではなく、むしろ業界でも高品質な部類に入る。そもそもiPadのディスプレイは無印iPadでも高品質で、ちゃんと色が再現されるという定評があるからこそ、多くのトップブランドがiPadには自社のファッションアイテムのカタログアプリを提供している(他社製だと、画面の表示品質がバラバラで同じ色でもかなりバラツキが出てしまうため、ブランド側がイメージ低下を防ぐべくアプリを出すことを避けている)。
無印iPadはsRGBの色域がベースとなるが、iPad Airは、それよりも広い範囲の色を表示できるP3という仕様に対応している。これはMacBook AirやApple Studio Displayのディスプレイなどと同じ範囲の色で、ほとんどの仕事で十分使える品質だ。
言い方を変えれば、iPad Pro、MacBook Proやディスプレイ製品のPro Display XDRが、ちょっと先に進み過ぎているだけで、iPad Airでもちゃんと今日の平均的水準以上の上質な表示を楽しめる。
スピーカーは2基内蔵しており、本体を横向きに構えた時にステレオで最適化される。また、AirPodsシリーズや対応ヘッドフォンの併用で空間オーディオを楽しめる。
カメラは正面のカメラも背面のカメラも約1200万画素で、光学2倍ズームなどの機能はない。ただし、iPadを使うほとんどの人はiPhoneなどと併用していると思うので、写真撮影はそちらで行い、AirDropやiCloud経由で写真を撮影し取り込むことを考えれば、特に困らない仕様だ。むしろ、そこで本体価格を上げずに抑えてくれたことに感謝したい人も多いだろう。
以前のAppleは、標準モデルにも少し先の機能を搭載してしまうことが多かったが、無印iPadが完全に日本の教育市場を意識した価格設定をしているように、iPad Airでも製品価格を抑えるために、割り切った仕様の選別をしているように感じる。
これから、この製品でiPadデビューをしようとしている人には、そもそもiPadOS自体が使い勝手も良く、プライバシーにも配慮した安心設計なので十分楽しめるはずだ。
しかし、古いiPadから乗り換えようとしている人は、もう少し何か目玉とか花となるような機能が欲しいと感じるかもしれない。
実はAppleは、そこにもちゃんと答えを用意している。
●アクセサリー次第で用途がさらに広がる
iPadは、多様な使い方ができるのも大きな魅力だ。メール/Web/写真真/動画再生/電子書籍といった利用方法が一般的だが、乗客の命を預かった飛行機のパイロットや手術中の医者が必要情報を確認するために用いたり、中古車の査定業者や森林管理をする人々がカメラを使って状態を記録するのに使っている。
さらに、漁師が船上でどの場所でどれだけ魚を獲ったかを記録したり、飲食店でテーブルからの注文システムに使われたり、ホテルで室内の照明やエアコンを制御するのに使われたり、自閉症スペクトラムなどで言葉での会話が苦手な人たちが絵をタップして会話をするために活用されたりと、使われ方は本当に千差万別だ。
初期のiPadはこうした多様な使い方にアプリだけで対処してきた。しかし、iPadの柔軟性はケースや取り付け用の治具、外付けキーボードなどの周辺アクセサリーを使うことでさらに広がる。
特に2020年以後のiPad AirはUSB Type-C端子を搭載したので、それにより外部のカメラやマイク、大容量ストレージなど多様な周辺機器が活用可能になった。それ以前のiPadでは、例えばプロジェクターに接続する際にもApple純正の少し高価なデバイスを購入しないといけなかったが、現在のUSB Type-C搭載iPadなら、価格的にも手頃で種類も豊富な他社製のアダプターなどを使える。
そんなiPadシリーズの最も定番の周辺アクセサリーが、「Apple Pencil」とキーボード、そしてカバーの「Smart Folio」だろう。
他のタブレットでは味わえない描き心地と、繊細な表現ができると多くのアーティストも愛用しているApple Pencil。iPad Airでは、本体側面にピタッと吸着してペアリングと充電が行えるApple Pencil(USB Type-C/直販価格1万3800円)も選べれば、より洗練された使い心地と高度な表現が可能なApple Pencil Pro(同2万1800円)の2種類から選べる。
Apple Pencil Proでは、強く握って色やペン種を変更するパレットを表示させたり、回転させてペン先の角度を変えたりといった表現もできる。また異なるペン先を変更した際などに、ちゃんとそれが触覚でも伝わってくるのも魅力だ。8000円ほど高価だが、その分、紛失した際にiPhoneを使って探す機能も用意されており、紛失する確率も低いことを考える差額の価値は十分以上にある。
iPad Air用のキーボードとしては、他社のBluetooth接続キーボードやUSB Type-Cのキーボードも使えるが、純正品として用意されているのがMagic Keyboardだ。
iPad Airとマグネットで合体し、まるで最初からそういう製品だったかのような一体感を感じさせる美しい仕上げの製品でもある。新iPad Airの登場に合わせて製品仕様が更新され、新たにファンクションキーも追加された。このため画面の明るさ調整や音量調整、再生操作などをキーボードから行うことができ、ノートPCのような使い勝手を感じさせる。
ちなみに、新Magic Keyboardは2024年のM2搭載iPad Airでも利用可能で、価格は11インチ用が4万9800円、13インチ用が5万9800円だ。iPad Airの価格との合計はMacBook Air(16万4800円〜)の価格に近付いてしまうが、いざとなったら取り外して他の構成にもできるのがiPad Airの強みだろう。
ちなみに、13インチモデル用キーボードの重量は実測で749gだった。iPad Air本体の重量と合わせると1.37kgとなる。MacBook Airは13インチモデルが約1.24kg、15インチモデルが約1.51kgなので、その間の重量となる。
iPad Airの純正アクセサリーには、他にもSmart Folioというカバーがある。
マグネットで本体に吸着し、パタパタと折りたたんで三角形を作りスタンドとしても使える優れものだ。タッチ操作や画面上のキーボード入力がしやすいように本体に自然な角度をつける傾斜台になったり、もっと角度をつけて飛行機や長距離列車のテーブルに置いて、ちょうど見やすい角度で動画を楽しめたりするスタンドにもなれば、持ち運び時には画面をガードするカバーにもなる。
重さは今回試した13インチ用が実測で284gと、本体と合わせた重量は901gだ。用途も周辺アクセサリーも本当に多種多様であることも、iPadを最も人気のあるタブレットにしている理由の1つだろう。
●従来モデルとの性能差は10〜15% ターゲットは新規購入と前世代以前のiPad
さて、最後にiPad Airの性能を検証してみよう。実は2024年発表のiPad Airと2025年のiPad Airのほぼ唯一の違いは、搭載プロセッサとMagic Keyboardのファンクションキーなので、ある意味、これこそが新iPad Airの違いの本質と言える部分だ。
おなじみのGeekbenchとGeekbench AIを使って性能を検証したが、2024年のM2モデルとの比較では、いずれのテストの結果も1.1〜1.16倍で2割に満たない伸びだ。人間がコンピューターの処理速度の違いを感じ取る上では、性能比ではなく、実際に行わせた処理がどれくらいの時間で終了するかの方が重要なので一概には言えないが、実行時間や応答性の違いを認知できる「just noticeable difference(JND)」を感じる上で必要な性能比は、一般にウェーバー比と呼ばれる法則から10〜20%以上といわれている(根拠として示せる論文はないので、参考値として捉えてほしい)。そう考えるとiPad Airの性能向上はギリギリのラインで、明らかに2024年のiPad Airを買った人が購入すべきモデルではない。
これからのApple製品で重要になるApple Intelligence対応に関しても、iPad AirはM1搭載モデルから対応しているので2024年モデルで十分だ。
そう考えると新規購入の人にはお勧めできるが、旧製品からの乗り換え需要の主なターゲットはMシリーズのプロセッサを搭載する前のAシリーズのプロセッサを搭載したiPadユーザーとなるだろう。
とはいえ、iPad 15周年に登場した記念すべきiPad Airだし、製品としての外観ももちろんだが、価格や機能、性能のバランスは円熟した魅力を感じさせる。
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