
31年ぶりに少数与党となった国会で、野党の勢いが止まらない。現在、審議が行われている新年度予算案でも、可決のために与党は野党からの要求に対し、大幅な譲歩を迫られている。
“ステルス値上げ”の可能性も
そのうちの1つで、国民の注目を集めているのが高校授業料の無償化だ。現行法では年収910万円未満の高校生のいる世帯に公立、私立問わず、年に11万8800円が助成され、私立に通う低所得世帯には支援金が上乗せされている。
この年収制限を廃止し、すべての高校生の授業料を無償化すると主張する日本維新の会の案に、自民党と公明党は合意し予算審議に入った。しかしこの案についてのデメリットについて、教育ジャーナリストの石渡嶺司さんはこう語る。
「私立に人気が偏重してしまうことと、授業料の便乗値上げが予想されます。前者は特に都市部で顕著になるでしょう。私立のほうが教育レベルが高く、それが無償になるからです。後者は都市部、地方とも同じ。授業料そのものでないにしても、実習費などを値上げする、いわば“ステルス値上げ”が考えられます」
こういった問題について、石破茂首相は国会の答弁で、「収入の多寡によって教育の差がないようにすることが今回の主眼」とし、「課題はいくつもあり、これから先、よくよく議論をして示していきたい」と答えている。
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懸念される“地方格差”
石渡さんは、
「無償化は言い換えれば義務教育化ともいえます。文部科学省『学校基本調査』では、中学校卒業者の高校進学率は98・6%でした。98%台は、'10年以降15年連続、95%超は'90年以降35年連続です。ほぼ全員が高校に進学しているわけで、実質的には義務教育と変わりません。その高校進学に年収要件を持ち出すと、保護者間、あるいは生徒間で無用な心理的な壁が生じることもありえます。そうした弊害を考えれば、年収要件をなくした無償化のほうがいいのではないかと思います」
と、メリットを話す。しかし、国からの助成金で足りない部分は各自治体の負担になる。東京都や大阪府は所得制限なしの無償化に舵を切っているが、税収の少ない地方の自治体ではどうなってしまうのだろうか?
「初めに指摘しましたが、今回の無償化で影響を受けるのは公立です。都市部を中心に人気がない学校は生徒数が減り、廃校になるところが出るでしょう。地方は公立・私立とも多くはないので、短期的な影響は軽微です。
ただ、長期的には公立・私立とも人気が低下し廃校となる学校が増える可能性も。今後は中学校までは地方でも、教育費が無償になるなら寮生活や移住をして、高校は都市部のものを選択という生徒や家庭も出てくるでしょう。
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こうした地方格差について、税収の少ない自治体が打てる手は多くはありません。高校維持のためだけに予算を使うことはできませんから。なので、この格差を少しでも埋めるには、国からの一層の財政支援が必要になるでしょう」(石渡さん)
無償化の原資は国民の税金。そのために増税をして「タダほど高いものはない」にならなければいいのだが……。