14年前の東日本大震災で起きた東京電力福島第1原発事故により膨大な賠償費用を抱える東京電力ホールディングス(HD)は、経営再建が難航している。収支改善の切り札である柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働はめどが立たず、安全対策の投資が先行。資金繰りは厳しさを増しており、新たな再建計画も策定できない状況が続く。
同社の2024年4〜12月期連結決算は純利益が前年同期比30.8%減の2431億円で、通期予想は未定となっている。深刻なのは、会社が自由に使える資金「フリーキャッシュフロー(純現金収支)」の悪化だ。9月中間期時点で3393億円の赤字で、通期も7年連続の赤字を見込む。
柏崎刈羽の安全対策に加え、東電管内の送配電設備関連の費用がかさんでいることが響く。山口裕之副社長は「福島への責任貫徹のための資金確保に向けて一層の投資精査や経営効率化を図る」と話す。
多額の支出が続く中、同社は社債発行や借り入れなどでの資金調達を迫られている。21年3月末に5兆円を下回っていた有利子負債残高は、24年3月末には6兆3005億円に増加。12月末にはさらに1251億円膨らみ、財務基盤の悪化が進む。
経営再建に向けた「総合特別事業計画」は、廃炉や賠償に年間約5000億円を確保した上で、中長期的に年4500億円規模の利益を創出する目標を掲げる。同社は同計画を今年度内に抜本的に見直し収益力向上の道筋を描くはずだったが、収支見通しが立たず、25年度に先送りした。
収益底上げへ事業の再編も模索するが、事業提携は中部電力と発電会社JERAを設立して以降実現せず、成長投資のための資金は十分確保できていない。
福島第1が本格的な廃炉作業に入る中、処理水の海洋放出に伴い賠償費用も膨れている。柏崎刈羽は、1基動けば年間約1000億円収支改善に寄与すると試算しているが、地元の同意を得られない上、7号機はテロ対策設備の建設が遅れ、停止期間の長期化が避けられない。東電HD関係者は「収支改善の効果が(試算で)見えているのに回収できない状況が続けば、東電の経営は立ち行かなくなる」と危機感をあらわにした。