※写真はイメージです。 清掃員はオフィスや病院、ジム、個人の自宅など、日々さまざまな場所を訪れる。そこで過ごす人たちの生活を覗き見することになるが、ときには、予想外の光景に出くわすことも……。今回は、2人の清掃員のエピソードを紹介する。
◆ドア開けた瞬間、まるで“夢の国”だった
かつて清掃員として働いていた田中良二さん(仮名・30代)は、ある日、特殊な部屋の清掃依頼を受けたという。
「清掃員として働いている中で、特に印象深かったのが、“ディズニーランド”がテーマの部屋でした」
部屋の持ち主は“クリエイター”だった。新天地での活動のために引っ越すことになり、創作活動の源となっていた部屋を片付けることにしたのだとか。
「ドアを開けた瞬間、まるで“ディズニーランド”の一部をそのまま切り取ったかのような光景に息を呑みました」
壁一面にはミッキーやミニーのポスターが貼られ、天井にはティンカーベルの模型が吊り下げられていた。また、部屋の中央には、“イッツ・ア・スモールワールド”を思わせるセットがあったそうだ。
「ボタンを押すと音楽が流れて、小さな人形たちが踊り出すという感じで思わずウキウキしました」
◆心温まるメッセージに感動
リビングルームには、数えきれないほどのぬいぐるみが並び、一つひとつにネームタグが付けられていた。
「購入日や思い出が丁寧に記されていて、ミッキーに出会った“特別な日”に綴られたメッセージに心が温まり、つい読み込んでしまいました」
そして、キッチンスペースもまた、驚きにあふれていたという。
「ディズニーキャラクターが描かれた食器が並び、冷蔵庫にはキャラクターのプリントが施されたケーキやお菓子がぎっしり。キッチンマットやエプロンまでもがディズニーで統一されていました」
田中さんは、ディズニーグッズのほこりを丁寧に払いながら、運送用の箱に分けて梱包した。
「夢が詰まった品々をトラックに積み込み、お手伝いできたことをうれしく思いましたね」
清掃の依頼主が子ども向けのクリエイターであることを知った田中さん。作品を通して多くの子どもたちが夢と希望を抱いている姿を想像し、温かい気持ちで作業ができたそうだ。
◆オフィスビルなのに“畳とちゃぶ台”が…
オフィスビルの清掃業務をしている鈴木智也さん(仮名・20代)。
「ゴミの回収や床のモップ掛け、窓ガラスの拭き掃除が主な作業で、早朝や深夜に清掃することもあります。オフィスにもかかわらず、畳にちゃぶ台が置かれていて、飲みかけの緑茶に読みかけの小説までありました。誰かの悪ふざけかと思いましたね」
鈴木さんは、「ここ、オフィスだよな……」と思いつつ、畳を丁寧に拭き、ちゃぶ台のほこりを払ったという。
「また、トイレ掃除のため個室のドアを開けると、折りたたみの椅子とデスク、ノートパソコンが置かれていたことがありました」
そこに利用者が現れ、「ここが一番集中できるんです」と真顔で話したのだとか。
◆屋上に置かれたバスタブには“アヒルの浮き輪”
「屋上に白いバスタブが置かれていたことがあります。バスタブの中には少量の水とアヒルの浮き輪が浮かんでいました」
後からわかったことだが、そこはドラマの撮影として使用され、アヒルの浮き輪は小道具の忘れ物だったことが判明。
他にも、ロビーのソファには大量のテディベアが並べられていたり、片方だけの靴下やイヤホンが見つかったり……。それらは、すべて忘れ物として記録し、所定の場所で管理することになった。
「清掃員として、日々予想外の光景に出くわしますが、仕事として冷静に対応するだけです」
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。