画像はイメージです 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
ファミリーレストラン各社が値上げをする中、かたくなに価格を維持するサイゼリヤがおよそ2割増という異例の集客力をキープしています。客数か客単価か。飲食店の経営は分水嶺に立たされました。
◆国内事業の営業利益は20倍に
サイゼリヤの2025年8月期上半期における既存店の客数は、前年同期間比16.2%増。前年同期間は19.1%の増加でした。既存店とは、オープンから一定の期間が経過した店舗を指し、本質的な集客力を表しています。既存店において、2年連続2割増をキープするというのは驚異的。
すかいらーくは2024年12月期の既存店客数は前期比6.9%増、2023年12月期が9.5%増でした。
サイゼリヤは2024年9-11月における国内の客数がおよそ4700万人でしたが、実に700万人以上の上積みに成功しています。停滞していた国内事業の復調も鮮明。同期間における売上高は前年同期間比20.5%増の395億円、営業利益は20倍の5億円まで膨らみました。
◆原価率上昇も黒字化に成功
サイゼリヤは大部分の店で深夜営業をとりやめており、メニュー数も少なく抑えて経費を削減しています。しかし、原価率は2024年8月期に初めて40%を超える水準まで上昇しており、食材費やエネルギー高による水道光熱費、人件費高騰の影響を受けているのは間違いありません。
そうしたなかでも、客数増と徹底的な経費削減によって国内事業の黒字化に成功しているのです。
◆ガストを象徴する「フレンチのフルコース」
ファミリーレストラン最大手のガストと、サイゼリヤの戦略は真っ二つに分かれています。ガストは2024年11月に「至福のフレンチコース」を販売しました。白金台のレストラン「ジョンティ・アッシュ」の料理長で、ミシュランガイド一つ星を5年連続獲得した進藤佳明シェフが監修したもの。価格は税込で1990円でした。
このメニューはインフレ下で値上げを重ねたガストを象徴するもの。普段使いから非日常型レストランへと変化しているように見えるからです。
ただし、ここにきて過度な値上げによる客離れを警戒しているのも事実。2025年2月から「ガストフィットメニュー」を平日限定でスタートしました。これは30品の中から3品選び、ドリンクバーと日替わりスープがついて1000円前後というもの。コストパフォーマンスを重視した商品です。
いくらインフレとはいえ、飲食店や小売店が単価を上げるというのは簡単ではありません。高級路線を維持して高収益体質を維持していたセブン−イレブン・ジャパンは、2024年に入って既存店の客数が前年を下回るようになってきました。9月に「うれしい値!宣言」という低価格路線を打ち出し、客数の回復に尽力します。実際、10月からは前年を上回るようになりました。
◆サイゼリヤとガストは競合しない?
すかいらーくは、足元で客数の減少に悩まされている様子はありません。しかし、高コストパフォーマンスの商品を打ち出したことからも、それに警戒している様子が伺えます。
日本フードサービス協会によると、ファミリーレストランの客単価は1058円で、ファーストフードは652円。これは2008年のデータのため、今は15%程度高くなっていると仮定すると、ファミリーレストランはおよそ1200円、ファーストフードが800円となります。
サイゼリヤの今の客単価は850円ほどで、価格帯はファミリーレストランよりもファーストフードに近づいてきました。消費者の気持ちになり、価格軸で食べる場所を考えた場合、マクドナルドのようなファーストフード店、大衆中華チェーン店などと並んでサイゼリヤが選択肢に入るわけです。ここでガストが選択肢に入るとは考えられず、2つのレストランのポジショニングは大きく変わったと言えるでしょう。
◆悪いインフレを生き残る経営戦略は?
インフレ下のレストランの生き残り策は、人びとの意識がどのように変化するかにかかっています。
総務省の家計調査によると、2024年の全世帯における年間消費支出が301万円で、2019年比で0.5%ほどしか増加していません。一方、食費は89万円で8.7%も増加しています。洋服代や旅行費、娯楽などの支出額は下がっており、食費を捻出するために節約している姿が浮かび上がってくるのです。
外食費は17万円で、2.0%の増加。支出額はそれほど変化していません。
ただし、消費者の間で外食が贅沢だという意識は強まっており、外食頻度も下がっています。食費の高騰は衰える様子を見せず、帝国データバンクによると2025年の食料品の値上げは8月までの公表分で1万品目を突破するといいます(「食品主要195社」価格改定動向調査 ― 2025年3月)。
価格を抑えて手軽に外食をしたいという意識が強まればサイゼリヤ、たまに外食をするのであれば高くてもちょっと贅沢をしたいという思いが強まればガストが有利になるのではないでしょうか。
現在のインフレは需要が高まることで生じる良いインフレではなく、コスト高が進んで値段が高くなる悪いインフレだと考えられます。良いインフレでは価格転嫁が自然に進んでそれに合わせて賃金水準が上がり、経済は好転します。そうとは言いきれないのが現状でしょう。
サイゼリヤや需要の減退が長引いたデフレ下で成長した会社。庶民の気持ちをよく理解しているのかもしれません。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界