
F1フォトグラファー対談 2025 前編
F1の2025年シーズンは、オーストラリアGP(3月16日決勝)でいよいよスタート。開幕直前、日本を代表するF1フォトグラファーの熱田護氏と桜井淳雄氏に、今シーズンのF1を展望してもらおう。まず前編(全3回)では、バーレーンでのプレシーズンテストを取材してきた桜井氏に各チームのマシンやドライバーの様子を聞きつつ、熱田氏にも気になるチームについて語ってもらおう。
【若くて速くてかっこいい"絵になる"新人】
ーー桜井さんは2月末にバーレーンで行なわれた3日間のプレシーズンテストへ取材に訪れています。どんなことが印象に残っていますが?
桜井淳雄(以下、桜井) 今年からフェラーリをドライブするルイス・ハミルトンが、メディアの注目を集めていました。もう世界各国のカメラがハミルトンについて動き回るという感じ。その次に注目度が高かったのは、メルセデスからデビューする驚異の新人、アンドレア・キミ・アントネッリですね。
ーーまだあどけない表情が残る18歳のアントネッリ選手は、メルセデスが11歳の頃から育成している「神童」です。テストでの走りはいかがでしたか?
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桜井 テストでは各チームがさまざまなプログラムをしていますので、タイヤやガソリンの搭載量も異なります。タイムはまったく参考になりませんが、しっかりと走行を重ねていました。レースに対する向き合い方は、ちゃんとしているなと思いました。
ーーF2のデビューシーズンとなった2024年は、2勝を挙げてランキング6位。圧倒的な速さがあった印象はそれほどありませんが、どういうところがすごいのですか?
桜井 正直、よくわからないです(笑)。でも、メルセデスのようなトップチームから、10代の若い新人がいきなりデビューできるというのは異例です。それだけメルセデスに実力を高く評価されているということでしょう。2007年に当時のトップチームだったマクラーレン・メルセデスからデビューしたハミルトンのような存在だと思います。
熱田護(以下、熱田) アントネッリはイタリアのF4やフォーミュラ・リージョナルでチャンピオンを獲得していますが、正直、マイナーフォーミュラはチームによって圧倒的な力の差があるので、本当の実力はまだわかりません。でも、ルックスがいいのはたしかですね。若くて速くてかっこいい。まだかわいいとも言えるかもしれませんね(笑)。それだけで十分に話題性はありますし、カメラマンとしてアントネッリは絵になる存在だと思います。今、フェラーリのシャルル・ルクレールが女性人気ではナンバーワンですが、彼に匹敵する存在になるかもしれません。
【フェラーリのふたりは"乗りにくそう"】
ーー2025年シーズンはハミルトン選手が勝てるのか、チャンピオンになれるのか、が見どころになると思いますが、テストの雰囲気はどうでしたか?
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桜井 マシンに関しては、ハミルトンもチームメイトのルクレールもちょっと乗りにくそうな感じでした。ルクレールはスピンしていましたし、ハミルトンもけっこうコースをはみ出していましたので、かなり扱いが難しいマシンなのかなという印象でした。
熱田 ピットの雰囲気がよさそうなのは、どこのチームでしたか?
桜井 やっぱりマクラーレンが強そうでしたね。最終日には他のチームは一発のタイムを出しにいっていましたが、マクラーレンはふたりのドライバーが淡々と周回を重ねていました。それが逆に余裕を感じました。
ーープレシーズンテストではウイリアムズが好調。3日間のテストで最速タイムをカルロス・サインツJr.選手でした。
熱田 テストでは、タイムがマシンの実力を示しているわけではないのですが、昨シーズンのウイリアムズはグリッド後方にいたチームです。それがテストでいきなりトップタイムを出すというのはなかなかありえない。ウイリアムズのマシンは相当変わっていました?
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桜井 ここ数年のウイリアムズのマシンはかなりシンプルなつくりでしたが、今年はトレンドを取り入れ、細部まできれいに仕上がっていました。タイトルスポンサーも獲得して、金回りがよくなっているように感じます。ピットの雰囲気が明らかに違いましたね。フェラーリからサインツという強力なドライバーが入り、これまでチームを牽引してきたアレックス・アルボンも気合いを入れていかないといけません。サインツは、これまでアルボンが組んできたチームメイトとはキャリアと実績が違います。アルボンにも火がついて、いい走りをするんじゃないですか。
熱田 昨シーズンの中団グループを盛り上げた立役者は、小松礼雄代表が率いるハースだったと思います。2025年からトヨタの資金が本格的に入り、チームは予算的にもラクになっているだろうし、エステバン・オコンとオリバー・ベアマンというドライバーのラインナップも悪くありません。ハースは面白い存在になると思っています。
桜井 テストを見るかぎり、マクラーレン、フェラーリ、レッドブル、メルセデスのトップグループの勢力図は昨シーズンの終盤から変化がないかもしれません。でも、中団グループはかなりの接戦で、多少の順位の上下があると思います。ただ、多くのチームがシーズンの早いタイミングで新しいマシンレギュレーションが導入される2026年に向けて開発をシフトしていくと思うので、昨シーズンまでのような大きなアップデートをシーズン中に何度もしてこない可能性があります。開幕戦のオーストラリアGPを皮切りに、中国、日本、バーレーン、サウジアラビアとレースが続きますが、序盤戦で2025年シーズンの勢力図やチャンピオン争いの行方がほぼ見えてくるのではないかと思っています。
熱田 開幕早々に2026年シーズンの開発にシフトしてしまって、大きなアップデートをしてこないチームがあると思います。でも、それを逆にチャンスだととらえて勝負をしてくるチームも出てくるかもしれません。他のチームは開発が止まって停滞しているので、アップデートをうまくやれば、ランキング上位を狙える可能性が十分ある。何が起きるかわからないですよ。
【今季はレッドブルが実質4台?】
ーープレシーズンテストで印象に残ったマシンはありましたか?
桜井 パッと見た感じでは、ほとんど全チームが一緒になっていましたね。それが印象的でした。今シーズンで現行のレギュレーションは最後。デザインが煮詰まってきているので仕方がないですが、本当にそっくりです(笑)。あと角田裕毅選手がドライブするレーシングブルズの外観は、2024年型のレッドブルと同じと言っていいかもしれませんね。
熱田 カラーリングはレッドブルが濃紺とレーシングブルズは白だけど、今シーズンは実質レッドブルが4台いるわけですね(笑)。
桜井 もちろんレッドブルは、カウルの中身はかなりアップデートされています。テストで見ていると、いったいなんだろうというダクトがマシンから出ていました。レーシングブルズとは明らかに違います。レーシングブルズで5年目のシーズンを戦う角田選手は、テストではあんまりうまくいっていないような表情でした。来シーズン以降のシートは確定していませんの、勝負の年になります。頑張ってほしいですね。
ーー次は、角田選手の現状や課題について伺いたいと思います。
中編へつづく
<プロフィール>
熱田 護 あつた・まもる
1963年、三重県鈴鹿市生まれ。2輪の世界GPを転戦したのち、1991年よりフリーカメラマンとしてF1の撮影を開始。F1取材は2019年に500戦を超え、2025年は600戦を迎える予定の、日本人最多取材回数を誇るF1カメラマン。アイルトン・セナ没後30年プレミアム写真集『Ayrton』(限定999部・インプレス刊)が2025年5月末まで販売中。また、写真集とは別カットも使用したアイルトン・セナの2025年カレンダーも販売。
桜井淳雄 さくらい・あつお
1968年、三重県津市生まれ。1991年の日本GPよりF1の撮影を開始。これまでに400戦以上を取材し、まもなく500戦を迎える。F1やフェラーリの公式フォトグラファーも務める。現在、鈴鹿サーキット公式ホームページ内の企画『写真で振り返る2025年シーズン:プレシーズンテスト』で作品を掲載中。YouTubeで好評だった『ヒゲおじ F1徒然日記』は一時お休み中。近日中に再開予定だという。