
【新連載】
南雄太「元日本代表GKが見た一流GKのすごさ」
第4回:マイク・メニャン(フランス)
「これだけのサイズがありながら、シュートに対する反応がものすごく速い。加えて、順手と逆手の判断を間違えることがほとんどなく、その技術と判断力に優れている印象です。
『順手』とは、たとえば自分の右側に飛んできたシュートに右手を出すこと、『逆手』とは、それとは反対の左手を出すことを言います。
一瞬の判断になりますが、それを間違ってしまうと、止められるシュートも止められません。そういう部分も、彼がシュートストップを得意としている理由のひとつだと思います」
現在、横浜FCフットボールアカデミーサッカースクールのGKクラスのコーチを務め、流通経済大学付属柏高等学校のGKコーチとしても活躍する南雄太氏がそのように解説してくれたのはフランス代表の正GKを務め、ミラン(イタリア)の守護神としても活躍しているマイク・メニャンだ。
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パリ・サンジェルマンのフォルマション(下部組織)出身のメニャンが頭角を現したのは、2015年に移籍したリール時代。名将マルセロ・ビエルサ監督から正GKに抜擢された2017-18シーズンのことだった。
以降、リールでは2020-21シーズンにリーグ・アン優勝に貢献するなど、その評価は急上昇。そして2021年の夏、ミランにステップアップ移籍を果たした。
そんなメニャンの特徴について、南氏が続ける。
「一般的にこれだけの身体能力があると、それに頼りがちになり、ある意味で雑なプレースタイルになりやすい。ですが、メニャンの場合は違っていて、たとえばステップを細かく修正しながらプレーしています。
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しかも、セービングの動きの前動作である『プレジャンプ』がすごく小さいことも特徴ですね。プレジャンプは大きければ大きいほど跳躍力がつくので、遠くに飛んできたシュートに対しても手が届きやすいというメリットがあります。
しかし逆に、シュートを狙う側からするとタイミングを外しやすいので、それがGKとしてはデメリットになってしまいます。足が宙に浮いた瞬間にシュートを打たれたら、反応しようがありませんしね。
理想を言えば、プレジャンプをしないで大きく飛べるのがベスト。ただ、地面に足をつけたまま飛ぶのには限界があるので、できるだけプレジャンプを小さくして、遠くに飛べるのがベターになります。
メニャンの場合、ステップを細かく修正しながら小さなプレジャンプで遠くまで飛べるので、理想に近いプレースタイルと言っていいでしょう」
【キックのスキルも高いモダンなGK】
メニャンのもうひとつの特徴とよく言われるのが、足もとのスキルだ。ビルドアップで起点となり、ロングキック1本でビッグチャンスを作り出す。南氏も、メニャンが持つその武器について言及してくれた。
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「足技に自信があるのでしょう。キックの飛距離はありますし、ビルドアップを難なくこなすことができるのもメニャンの特徴で、そういう意味ではモダンなタイプのGKですね。
ただ、GK経験者として個人的に強調しておきたいのは、最近はGKを評価する時に足もとの技術がクローズアップされがちですが、それに重きを置きすぎている印象を受けます。というのも、どれだけ足もとのスキルが高くても、GKが足技でチームを勝たせる確率が極めて低いのに対して、シュートを止めるなど守備面でチームを勝たせるケースは圧倒的に多いですよね。
つまり、GKがビルドアップのワンピースになれるかどうか、あるいはアシスト能力が高いかどうかという要素と、ビッグセーブによって絶体絶命のピンチを救うことのどちらがGKにとって重要な仕事なのか、ということです。
もちろん、現代サッカーでは足技を兼ね備えたGKのほうが重宝される傾向にあるのは事実です。ただ、それは高い守備能力が備わっているという前提の話です。特に育成年代で気をつけなければいけないのは『その順番を間違ってはいけない』ということだと思います」
【メニャンの改善すべきポイントとは?】
GKは守備者である──という大前提を、忘れがちな最近の風潮を指摘してくれた南氏。あらためて、メニャンのプレー分析を続けてくれた。
「抜群のシュートストップ能力を持つメニャンですが、失点シーンに目を向けてみると、課題と言えるような傾向も見えてきました。それは、メニャンはひざから下に飛んでくるシュートに強くない、ということです。
GKにとって、手を出すべきか足を出すべきか、その判断が微妙になる高さというのがあるのですが、メニャンはその判断に改善点があるように見えますね。特に足で止めようとして、失敗しているケースが目立ちます。
そのゴールシーンを見ると、確かに決まっても仕方がないゴールばかりです。ですが、マヌエル・ノイアー(バイエルン)やティボー・クルトワ(レアル・マドリード)、マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ)、アンドレ・オナナ(マンチェスター・ユナイテッド)、グリエルモ・ヴィカーリオ(トッテナム)といったGKならゴールを防いでいたかもしれない、というシーンも多々ありました。
そういう意味では、メニャンは自分の得意なゾーンのシュートストップには滅法強い一方で、まだ世界のトップ・オブ・トップのGKになるためには残された課題があります。もちろん、メニャンはすでに世界有数のレベルなので、かなりレベルの高い話になってしまいますが。
でも、彼はまだ29歳ですし、まだまだ進化できると思います。自分も現役時代に感じたことですが、GKは30歳から30代半ばくらいが最も脂が乗ってくる時期なので、今後のメニャンの成長に注目していきたいと思います」
長くフランス代表の正GKを務めたウーゴ・ロリスが2022年カタールワールドカップ後に代表を引退。その後継者として、メニャンは大きな期待を背負っている。順調にいけば2026年ワールドカップでは、彼がフランス代表のゴールマウスを守るはずだ。
果たして、メニャンは名手ロリスを超えることができるのか。今後に注目が集まる。
(第5回につづく)
【profile】
南雄太(みなみ・ゆうた)
1979年9月30日生まれ、東京都杉並区出身。静岡学園時代に高校選手権で優勝し、1998年に柏レイソルへ加入。柏の守護神として長年ゴールを守り続け、2010年以降はロアッソ熊本→横浜FC→大宮アルディージャと渡り歩いて2023年に現役を引退。1997年と1999年のワールドユースに出場し、2001年にはA代表にも選出。現在は解説業のかたわら、横浜FCのサッカースクールや流通経済大柏高、FCグラシオン東葛でGKコーチを務めている。ポジション=GK。身長185cm。