
2026年W杯アジア3次予選、バーレーン戦(3月20日)、サウジアラビア戦(3月25日)に臨む日本代表メンバー25人が以下のように発表された。
GK
大迫敬介(サンフレッチェ広島)、谷晃生(FC町田ゼルビア)、鈴木彩艶(パルマ)
DF
長友佑都(FC東京)、板倉滉(ボルシアMG)、伊藤洋輝(バイエルン)、瀬古歩夢(グラスホッパー)、菅原由勢(サウサンプトン)、関根大輝(スタッド・ランス)、高井幸大(川崎フロンターレ)
MF/FW
遠藤航(リバプール)、伊東純也(スタッド・ランス)、南野拓実(モナコ)、古橋亨梧(セルティック)、守田英正(スポルティング)、鎌田大地(クリスタル・パレス)、三笘薫(ブライトン)、前田大然(セルティック)、旗手怜央(セルティック)、堂安律(フライブルク)上田綺世(フェイエノールト)、田中碧(リーズ)、中村敬斗(スタッド・ランス)、久保建英(レアル・ソシエダ)、藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)
前回(2024年11月)のメンバーから外れたのは、谷口彰悟(シント・トロイデン)、大橋祐紀(ブラックバーン)、小川航基(NEC)、町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン・ジロワーズ)、橋岡大樹(ルートン・タウン)の5人。一方、伊藤洋輝、関根大輝、上田綺世が復帰を果たした。
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ケガ人の入れ替えがメインで、大きな変動はない。もちろん抜擢もない。W杯出場は決まったも同然という段階を迎えても、森保一監督はまたもやベストメンバーを選んでしまった。「FIFAランクを少しでも上げるため負けていい試合はない」「W杯出場を確実につかみ取ることが優先順位の一番」とは、山本昌邦ナショナルチームダイレクター、森保監督それぞれの弁だが、万事、日本的な価値基準で物事を進めている印象だ。
世界各国、とりわけチャンピオンズリーグ(CL)を頂点とするクラブサッカーを中心に動く本場欧州と比較したとき、この日本代表中心主義は違和感を覚える。メンバー25人のうち21人は欧州組。国内組のフィールドプレーヤーは高井幸大と長友佑都のみである。欧州の価値観と日本の価値観との間に挟まれている選手が気の毒になる。
【選手は欧州サッカーの一員として生活を送っている】
世界のサッカー界において、代表チームの活動はメインではない。Jリーグの試合にニュースバリューが著しく乏しい日本は、必然的に代表チーム中心になるが、世界はそうではない。W杯本大会に出場してくる各国の代表級の結集する欧州の場合はとりわけである。森保、山本両氏が今回に限らず発している言葉は、まさに非欧州的だ。
欧州でプレーする日本人選手は、いまやそれなりに知名度のある選手だけでも100人に迫る。こうした時代にあって両者の欧州的感覚を著しく欠くドメスティックな言葉の数々を耳にすると、それこそが日本代表強化の足枷になっているのではないかと憂いたくなる。代表選手の大半を占める欧州組は普段、欧州サッカーの一員として選手生活を送る。そこに代表ウィークが近づくと、日本的な価値基準が迫ってくるという構図だ。
森保監督はつい半月ほど前、欧州から視察を終えて帰国すると、記者団の前で欧州への移住計画を口にした。発案者は誰なのか。協会なのか、森保監督自身なのか。森保監督の思いつきだとしたら、"順序"に問題ありと言いたくなったが、計画そのものには大賛成だった。代表監督だけがもっぱら日本に留まっていては、選手と感覚を共有することはできない。
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何より森保監督に不足する欧州的な感覚を学ぶにはもってこいの機会だ。欧州のトップモードを直に見る。関係者に話を聞いて知見を深めることができれば、監督としての感覚が養われること請け合いだ。同じ常識を共有することで選手との関係も円滑になるだろう。世界の一流監督は監督会見等々で何を口にしているのか。監督の振る舞いを実際に見て学ぶこともできる。日本の常識でしかサッカーを語れない監督から脱することができる。
代表監督とクラブの関係。代表戦とクラブマッチとの関係。代表選手の選び方等々、見習うべきサンプルはいくらでもある。いまこの段で、選手をまったく試そうとしない姿勢がどれほど愚かなことか。前回の藤田譲瑠チマのように、新たな選手を招集しても試合にまったく使わない采配が、いかに愚かなことか、身をもって学習することができるだろう。サッカーという文化を学ぶいい機会とすることができる。
【森保監督は"欧州移住"を撤回】
同じ選手を起用すれば、先細りになることは見えている。総合力は上がらない。W杯本大会で目標をベスト8以上に据えるなら、強行軍のなかで最低6試合を戦うチームとしての体力が不可欠になる。FIFAランキングに固執してテストや発掘を怠れば、そのツケは必ず訪れる。欧州に腰を据えて長く滞在すれば、その理屈が手に取るようにわかるだろう。
ところが、森保監督はこの日の代表メンバー発表会見の席上で、移住計画をあっさり撤回。「視察の頻度を上げる」と前言を翻した。Jリーグ軽視との横ヤリに屈したと推察される。またしても日本的価値観のなかにすっかり埋没することになった。欧州組はこの森保監督の態度をどう見るか。
招集された選手は断らない。欧州シーズンが佳境を迎えるなかで、バーレーン戦、サウジアラビア戦のために帰国したくない選手は実際、いるはずなのだ。欧州の価値観のなかでサッカー人生を過ごしている選手が、森保監督のベストメンバー至上主義に違和感を覚えても不思議はない。
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CLの準々決勝に駒を進めたバイエルンの伊藤洋輝に尋ねてみたくなる。ケガから復帰し、晴れてCL出場を果たしたいま、本心はどうなのかと。バイエルンの一員として出場機会を得ながらCLを勝ち進めば、ものすごく貴重な経験になる。日本代表の財産にもなる。欧州の価値観に従えば、伊藤はいま日本サッカー界にとって一番の希望の星。バーレーン戦、サウジアラビア戦のために招集する必要はない。
久保建英は、現地時間13日の夜、ヨーロッパリーグ決勝トーナメント1回戦セカンドレグでマンチェスター・ユナイテッドとオールドトラフォードで対戦する。ファーストレグの結果は1−1。勝利する可能性は大いにある。また、そうあってほしい。ただそうなれば、スケジュールはよりタイトになる。バーレーン戦、サウジアラビア戦に呼ぶべきではない選手になる。
つい先日までケガをしていた守田英正しかり。リバプールでようやく出場機会が増え始めた遠藤航も休ませたほうが、長い目で見たとき日本サッカーのためになる。その分、佐野海舟(マインツ)をはじめ新たな選手をテストできる。藤田譲瑠チマら若手にも、出場時間を与えることができる。総合力アップを図る機会にあてることができる。
それを一切せず、「負けていい試合はひとつもない」(森保監督)とばかり、目の前の試合にしゃかりきになる。欧州の監督が見たらさぞ呆れるに違いない。ドメスティックな発想から抜け出すことができない限り、W杯ベスト8以上はない。不安を覚えるのは選手より監督である。今回の記者会見を眺めながら、あらためてそう感じた。