運動後に「炭酸を飲む」を普遍化させた『MATCH』、時代に逆行し“微炭酸”ブームを創出した開発陣の“勝ち筋”とは?

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2025年03月14日 08:50  ORICON NEWS

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大塚食品・マッチ担当プロダクトマネージャー堀内雄大氏(C)oricon ME inc.
 1996年に発売され、今年で29年目を迎えた人気飲料「MATCH」。“ビタミン炭酸”を主題に掲げ、炭酸飲料を単なる“さわやかテイスティ”な飲み物だけではないという認識をユーザーに植え付け、市場価値を高めた。日々、様々な新商品が投入されるものの、“定番”としてユーザーに認知されるものは、ほんの一握り。飲料市場において、新たな定番となる新商品開発は至上命題だ。数多くの研鑽を経て、なぜ「MATCH」が四半世紀以上に渡りユーザーに愛されるに至ったのか? 大塚食品株式会社のマッチ担当プロダクトマネージャー堀内雄大氏、開発担当の小谷長氏に話を聞いた。

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■強炭酸ブームの最中…辿りついた“微炭酸”という答え「炭酸をフレーバーの1つとして考える」

 「MATCH」が発売された1996年当時、炭酸市場の王道は“のどごし重視”の強炭酸が席巻しており、ユーザーもより強い刺激を求めていた。そんななか大塚食品は、市場とは逆行した“微炭酸”商品である「MATCH」を投入。なぜ市場のトレンドと逆行する形で開発が進められたのか? その背景には、「MATCH」のコンセプトである「運動をして汗をかいたあとに飲める炭酸」を具現化することにあった。

「当時のトレンドであった強炭酸は運動したあとにごくごく飲めるものではなかったので、『運動のあとに飲む炭酸』というこれまでの固定概念を覆す新たなジャンルを作っていこうという思いから、『MATCH』の開発がスタートしました。運動後というポイントから炭酸のさじ加減が調整され、“微炭酸”というジャンルに到達しました」(堀内氏)

 これまでも数々のヒット商品を世に送り出してきた大塚食品の開発期間は多少の差はあるものの、「MATCH」に関しては、開発から発売まで実に3年近い歳月を費やしたという。

「運動後における“飲みやすさ”と、これまでの炭酸飲料にある“のどごし”は相反するものです。その2つの両立に難しさがありました。そこで、気をつけたのが“炭酸”ありきではなく、炭酸を味わいの1つとして考えようという視点でした」(小谷氏)

 飲みやすさを重視するため、通常ならクエン酸などの酸味の強い成分を入れるところだが、それに加え、炭酸を“味わい成分の一つ”として捉えたのだ。そこから、“微炭酸”という考えに至り、のどごしを残しつつ、飲みやすさも感じさせる「MATCH」の開発に成功した。

 味を成立させたのち、次に立ちはだかったのが、技術面での難しさだった。それは、炭酸飲料ならではの缶の特性だった。

「実際に工場で作ろうという段階になったとき、これまでは強炭酸用に缶が作られていたのですが、微炭酸だと内側からの圧力が弱く、缶の強度が保てないために、穴が開いてしまうことがあったんです。缶の強度を微炭酸用の商品に合わせるのが難しい。過去に経験のないことをやっていると、思いもよらないことが起きるので、新たなジャンルを作っていくには苦労が伴います」(小谷氏)

 多くの研鑽を経て、当初のコンセプト通り、運動後に炭酸を飲んでもらうというシチュエーションを掲げた「MATCH」は、思惑通り多くのユーザー、とりわけ10代からの熱烈な支持を受けた。

 堀内氏は「発売から来年で30年になるのですが、現役の高校生から40代ぐらいの方々に『MATCH』を飲んでいる理由を聞くと、『汗をかいた後に飲むと、通常のときに飲むよりも美味しく感じる』という意見が非常に多いんです。特にスポーツ部に入っている高校生に話を聞くと『やっぱりMATCHが一番おいしい』と言ってくださいます」

■「MATCH」が“定番”となった理由、高校生をターゲットに「青春の1ページ」戦略にシフト

 発売当時から戦略通りの動きを見せヒットを記録した「MATCH」。そこから30年近くが経過した現在、微炭酸といえば「MATCH」というほどの定番化に成功。商品をヒットさせることも難しいが、それを維持して“定番”にすることは、さらに難易度の高い作業だ。

 堀内氏は「もっともっと成長させなければいけないのですが…」と向上心を見せつつ、「2009年に高校生ターゲットに特化した」ことが、飲料業界のなかで「MATCH」が大きな認知を得て定番化した要因になっていると明かす。

「2009年から始めたことには2つの大きなミッションがありました。1つはしっかりと『MATCH』の味を知ってもらうこと。そしてもう1つは情緒面で『MATCH』を身近に感じてもらうことです。そこで、大切にしていたのが高校へのサンプリングです。『MATCH』を買ったことがない方の理由に『何味なのか分からない』という回答があったので、高校にサンプルとして『MATCH』を配り、まず味を知ってもらう機会を作りました。また、ただ飲んでもらうだけではなく、体育祭などの学校行事のあと、汗をかいたあとに飲むというコンセプト通りのシチュエーションで飲んでいただく取り組みを行いました」(堀内氏)

 このサンプリングにより、味を知ってもらい、運動後に実際に飲むことで、汗をかいたあとには『MATCH』」という場面が青春の1ページに情緒面で刻まれるという効果が得られるという。

「青春時代の思い出というのは、ことあるごとに記憶として蘇るんですよね。いまも高校生をターゲットにCMをやっていますが、現在の高校生はもちろん、20代、30代、40代と『MATCH』のCMを観るたびに、自分の青春時代の記憶が蘇ることで、また『MATCH』にリーチしてもらえると思うんです。現在の高校生に話を聞くと、家庭内で親が飲んでいるのを見て自分も飲んでみたという方もいました。親から子へ繋がっているんですよね」(堀内氏)

 ピンポイントで高校生をターゲットにすることで、学生時代の深く刻まれた思い出と「MATCH」がリンクし、年齢を重ねても手に取ってもらえる商品になっていることが30年近く愛飲されている理由なのだ。

 「ブレずに、誠実に」をモットーに、社員一同が30年間に渡り同商品に取り組んできたという堀内氏。一方で「ブレないこと」と「現状維持」は似て非なるもの。堀内氏は「『現状維持しよう』と思った時点で成長は止まってしまう。常に『MATCH』には可能性があるという思いを持つことがポイントだと思うんです。どんどん成長していけると信じることが大事だと思います」と力強く語る。とは言いつつも、2009年時の高校生と、現代の高校生は、取り巻く環境やマインドも違う。

「我々が出しているものは、どこまでいっても清涼飲料水カテゴリーなので、味を知ってもらい好きになってもらうというのは変わらないと思っているんです。そのなかで、情緒面ということでは、これまでのテレビCMがメインだったところから、SNSなど現在にあった形で訴求していく方法に変化しています。信念を変わらずに持ち続けることで、時代の変化にもブレずに対応できると思います」(堀内氏)

 同社は「MATCH」のほかにも、レトルトカレーの「ボンカレー」など定番商品を多数輩出している。“定番”足りうる商品の共通項は何なのだろうか。

 小谷氏は、「研究の人間からすると、本当にいい商品だと思って作り上げたものは、多少スタートでいい結果が出なかったとしても、諦めずに信じてやり続ける。定番商品になるものは、そういった作り手の強い思いがあると感じています。それは大塚グループ全体にある社風だと思います」と語る。

 堀内氏も「もちろん企業なので、思いだけではどうにもならないことはありますが、しっかりと他の商品と差別化できているという自信は重要です。そのことによって諦めないで進めるんだと思います」と定番商品になりうるための秘訣を語ってくれた。

■オレンジではないの? 古臭い印象の“みかん”味が「MATCH」にフィットした理由

 「ブレずに成長の加速度を増す」という言葉通り、2023年10月から「MATCH」の新商品「マッチ ビタミンみかん」が発売され好評を博している。だが発売当初、「みかん」という表記に多少の違和感を覚えたユーザーも多かったのではないか。

 “高校生”をターゲットに訴求するのであれば、やや古臭く感じる「みかん」よりも「オレンジ」の方が受けも良さそうに思えるし、スタイリッシュなパッケージにも「オレンジ」という文字の方がフィットする。だが、そこにはあえて「みかん」というネーミングを選んだ作り手のこだわりがあった。

「みかんって日本人特有かもしれませんが、「こたつにみかん」というようなイメージがいまだにあって、ほかにもビタミンCを取れる、健康管理というイメージが刷り込まれているような気がするんです。そこで、『ビタミン炭酸飲料』というフレーズとみかんの親和性が高いと感じました。オレンジでは想起されないことが、みかんでは想起される…よりイメージ付けに最適だからこそ、みかんをネーミングに起用しました」(堀内氏)

 「良質な商品を提供する」という信念のもと、「ブレず」に丁寧に商品開発、プロモーションに取り組んでいるという堀内氏。定番商品となりつつも、「マッチ ビタミンみかん」のように研鑽も怠らない。「MATCH」30周年を迎える2026年に向けてはどのような展望を描いているのだろうか。

「まずは、今までやってきたようにターゲットである高校生に身近に感じてもらえる・体感してもらえる企画をブレずに続けていきたいです。それに加えて、30周年を迎えるにあたって、より高校生の方々の記憶に刻んでもらえるような企画も準備していますので、期待していてほしいです」(堀内氏)

 偶然の産物としてヒット商品が生まれることはあるが、長く市場に愛される“定番”に成長させることは、決して偶然では成し得ない。そこには良いものを作ろうとする気概と自信、そして初動の結果に一喜一憂することなく、企画開発に勤しむ人々の矜持が感じられる。

 もう一度言おう。“定番”に“偶然”は有り得ない。

(文/磯部正和)

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  • 出た当初は、400人以上居る職員で俺しか飲まないジュースと言われたもんだ。
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