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2019年度から始まった文部科学省の「GIGAスクール構想」によって導入された学習用端末の置き換えが、2024年度から順次始まる。
文部科学省はこの置き換えをGIGAスクール構想の第2期(Next GIGA)と位置付け、2023年度から予算措置を進めると同時に、学習用端末(PC/タブレット)の新要件を定めてきた。Next GIGAでは、学習用端末の調達が原則として都道府県単位となるため、端末で使われるOSやメーカーのシェアに大きな変動が起こる可能性もある。
このこともあってか、PC/周辺機器メーカーは機会あるごとにNext GIGA向けの端末やソリューションをアピールしている。今回は、2月27日〜28日にかけて国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区)で開催された「2024年度 教育DX推進フォーラム」に出展していたPC/周辺機器メーカーを取材し、Next GIGAを巡る動向を探った。
●学習用端末の「耐久性」と「軽量化」にこだわったDynabook
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Dynabookは10.1型のデタッチャブル(キーボード着脱型)ボディーの学習用端末「dynabook K70」「Dynabook Chromebook C70」を中心に展示していた。他社の多くが11.6型のコンバーティブル型ボディーを採用する中、デタッチャブル式にした上で、小さめの画面サイズで軽量化を図っていることが特徴だ。
dynabook K70とDynabook Chromebook C70は共に、GIGAスクール構想の第1期(GIGA 1.0)向けに投入された「dynabook K50」で得られた知見が反映されているという。
同社によると、dynabook K50では「(PCが起動しなくなるなどの)故障よりも、ボディーの破損事例が圧倒的に多かった」という。これを受けて、新機種では落下や不意の衝撃に対する耐性を高める工夫を施した。具体的には、本体外周をTPU(熱可塑性ポリウレタン)素材で覆うことで、机から滑り落ちにくくしつつ、角からの落下時に衝撃を吸収できるようにしている。
また、端末の角にあったUSBポートを中央部に移動し、落下時の破損リスクを低減した。ポートを本体左側に集中させているのも工夫の1つだ。USBポート類に鉛筆を差し込むなど、特に小学生は手持ち無沙汰になったときに手遊びすることが多く、それが故障につながることもままあるという。右利きの児童/生徒が多いことを踏まえて、ポートをその反対側に配置することで、不意の破損を防いでいるのだ。
10.1型と他社よりも画面が小さめなのは、「学習机の上で邪魔にならないようにするため」の配慮だ。
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実は学校に設置する学習机は「JIS(日本産業規格)」で規格が定義されており、1999年以降の新規格では「幅65cm×奥行き45cm以上」に改められた。しかし、少なくない学校が「幅60cm×奥行き40cm以上」という旧規格の学習机をいまだに使っている。ただでさえ狭い机に学習用端末を置くと、教科書やノートを置くスペースが残らないということもままあるのだ。
学習用端末をあえて小型化したのは、日本のメーカーとして日本の学校環境を熟知していることの表れなのかもしれない。
キーボード部分を除く本体重量は、dynabook K70が約590g、Dynabook Chromebook C70が約563g(LTEモデルは約575g)となっており、キーボードを外すと1kgを大きく下回る。デタッチャブル構造は「小学校1年生から中学校3年生まで使うことを考えると、軽さは非常に重要」という考えも踏まえている。
キーボードドッグも強化ポイントだ。本体との接続インタフェース部分は、爪にマグネシウム合金を採用して丈夫さを確保した。本体を裏表反対に差し込むと、キーボード面を隠した状態で使えるようにもなっている。
この他、アウトカメラにもカメラ起動中ランプが備わっている。これは周囲に写真撮影中だと知らせるための配慮だ。
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●「消しゴム」と「eSIM」で差別化を図る日本HP
日本HPのブースでは、学習用端末に加えて教職員が使う校務用端末も展示されていた。学習用端末に絞ると、Windows搭載モデルが1種類、ChromeOS搭載モデル(Chromebook)が2種類という構成だった。
学習用端末として同社の担当者がイチオシするのが、MediaTek製SoCを搭載する「HP Fortis Flip G1m 11 Chromebook」だ。Flipの名の通り、コンバーティブル式の2in1ボディーを備えつつも、約1.19kgの軽量設計を実現した。これは「MediaTekのSoCを採用することで発熱が少なく、ヒートシンクが不要になった」ために実現できたことだという。
耐久性にも徹底的にこだわり、ディスプレイにはCorning製の「Gorilla Glass 3」を採用することで「ペンで強く押しても割れない設計」としている。キートップの強化や、端子部分の金属板による補強、ヒンジ部分の一体化など、細部に渡る耐久性向上策が施されている。
別売のUSIペンも特徴的で、ペン頂部に消しゴム機能を搭載している。一般的な描画アプリなら、ペンを消しゴムに切り替ることなく利用できるという。定価は1本6000円(税別)だが、紛失対策として自治体には購入数量の5%を追加で無償提供する方針だという。
同社は、au(KDDI)回線を利用した「HP eSIM Connect」に対応するeSIM内蔵モデルにも注力している。離島などの通信インフラが整備されていない自治体や、CBT(Computer Based Test)時の通信混雑対策(分散化)など、具体的なユースケースを想定した提案を行っているという。
GIGA 1.0では、自治体/学校間、あるいは家庭間の「通信格差」も課題となった。eSIMをうまく使うことで、自宅の持ち帰り学習も含めてより円滑に進められるのかもしれない。
なお、eSIM対応モデルは、HP eSIM Connectの5年分利用権込みで約6万円増しとなる。それでも、普通に5年間通信契約をするよりも手頃なこともあって引き合いはそれなりにあるようだ。
●鉛筆をペン代わりにできる学習用端末を展開するレノボ・ジャパン
レノボ・ジャパンは、Next GIGA向けの学習用端末として、Windowsベースの「Lenovo 300w Education」、ChromeOSベースの「Chromebook Duet EDU G2」「Lenovo 500e Chromebook Gen 4s」を展開している。今回同社は、これら3モデルを紹介するブースを設けていた。
GIGA 1.0では、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて児童/生徒への「1人1台端末」施策を前倒して実施することになった。とにかく急いで端末を導入しなければならないということもあり、「子どもたちならではの使い方を考慮しきれなかった部分があった」と担当者は語る。このことは、同社がコロナ禍で公開した動画にも表れている。
導入後に起こった問題を踏まえて、GIGA 2.0向けに用意したモデルでは、キートップを外されにくくするための構造変更やヒンジの補強、インタフェース部分への異物挿入に対する保護設計の導入などを行っている。
GIGA 2.0向けの学習用端末のうち、コンバーティブル型の2in1形態を取るLenovo 300w EducationとLenovo 500e Chromebook Gen 4sについては、一般的な2B以上の鉛筆をスタイラスペンの代わりに使える機能を備える。これはタッチパネルに鉛筆の黒鉛に反応するチューニングを施したことで実現したという。パームリジェクション(手のひらが触れても誤動作しない機能)にも対応している。
鉛筆に反応する機能を付けたきっかけは、GIGA 1.0において児童/生徒がスタイラスペンを紛失したり壊したりすることが多かったという経緯がある。故障/紛失時には7000〜8000円でペンを買い直すことになるが、その際の費用を保護者に転嫁するケースもあれば、学校(自治体)側で自腹をきったケースもあったという。鉛筆で代用できるようにすることで、ペンの故障/紛失時の経済的負担を軽減できる。
この辺の話は、別記事に詳しいので参照してほしい。
なお、レノボではこの機能を生かす形で、先端に黒鉛を圧縮した「ハードペンシル」を提供する予定だ。ハードペンシルは「無限鉛筆」に近いもので、通常の鉛筆と比べると簡単には摩耗しないことが特徴だという。価格は1本当たり1000円弱を見込んでおり、通常のスタイラスペンよりも安価なこともメリットとなる。
両モデルのディスプレイは、Corning製の強化ガラス「Gorilla Glass 3」で保護されている。これにより、ペンを挟み込んでディスプレイを破損するというリスクを軽減できる。
USB Type-C端子を2基搭載しているのは、「充電しながら外部ディスプレイに接続する」ということはもちろんだが、「ポートが1つ壊れても、修理(マザーボードの交換)をせずに継続使用できる」というダウンタイムの極小化を狙った取り組みでもあるという。抜き差しが多いことを踏まえて、端子そのものの強化も図ったとのことだ。
●マウスコンピューターの「メイド・イン・ジャパン」戦略
マウスコンピューターのブースは、先に紹介した3社と比べると少し広めで、学習用端末としての利用も視野に入れたWindowsノートPC「MousePro T1-DAU01BK-A」とChromebook「mouse Chromebook U1-DAU01GY-A」を中心に、学校での校務利用や「パソコン教室」への導入を想定したMouseProブランドのデスクトップPC/ノートPCやiiyamaブランドの液晶ディスプレイを展示していた。
MousePro T1とmouse Chromebook U1は共にコンバーティブル型の2in1ボディーを採用しており、タブレット端末としても使いやすいことを訴求していた。「本製品は机の高さ(74〜76cm)からの落下テストに合格」する丈夫さもポイントだ。重量は構成により約1.2kg〜1.4kgで、バッテリー駆動時間は公称で10時間を実現している。
同社は「メイド・イン・ジャパン」を強くアピールしていた。長野県飯山市に自社工場を持ち、1人のスタッフが1台を最初から最後まで組み立てる生産方式を採用している。「故障率の低減に注力しており、年々減少傾向にある」と担当者は胸を張る。
同社はGIGA 1.0においてWindows端末のみ提供していた。しかし「全体的には(学習用端末として)Chromebookの方が需要が大きい」(担当者)ということで、Next GIGAを見越して2024年にChromebookをラインアップに追加した。3年間の無償保証と24時間/365日のサポート、修理は72時間以内の完了/発送を目指すなど、サポート体制にも力を入れている。
なお、Chromebookについては3月をめどに新モデルの投入を予定しているという。現行モデルでは付属のスタイラスペンの充電にUSB Type-C端子を使用しているが、導入先から「USB Type-C接続だと、細すぎてコネクターが折れることがある」とのフィードバックがあったためUSB Standard-A端子での充電に変更される見通しだ。
●「デジタルと紙の併用」を見据えたエプソン販売のソリューション
プリンタやプロジェクターの販売を手掛けるエプソン販売は、複合機を含むプリンタ関連製品と超短焦点プロジェクターを中心に展示していた。
同社の担当者によると、教育関係者からは「デジタルだけでなく、紙も併用することでより深く学べるような環境作りをしたいという声をいただいている」という。
そこで小型プリンタを教室やフロアに設置し、児童/生徒が自分で印刷できる環境を構築することを提案しているとのことだ。販売価格は実売ベースで10万円以下だが、プリンタは文部科学省の教材整備指針からは外れる機器のため、あまり導入は多くはないという。1人1台の端末導入が進んだ状況を活用するための“教材”と考えて取り入れてみてはどうか、という発想だ。
また同社では、プリンタ/複合機のサブスクリプションサービス「スマートチャージ」に学校/教育機関向けに「アカデミックプラン」を用意している。本サービスではプリンタ/複合機の本体だけでなくインクもサブスクリプション対象となる。
料金は印刷枚数をもとにした従量制だが、自治体(教育委員会)単位での契約とすることで、印刷枚数による学校間の経費格差も吸収しやすい。何より、インクやその他消耗品が少なくなったら自動的に送付されるため、教職員が発注や在庫管理をする必要もない。
「先生方の働き方改革にもつながると評価いただいています」と担当者は語る。
一方、超短焦点プロジェクターは、主に教室の黒板(またはホワイトボード)に映像を投影する目的で引き合いが多いという。今回同社は電子黒板機能付きモデル「EB-1485FT」を持ち込んでデモンストレーションを実施していた。
このモデルはフルHD(1920×1080ピクセル)対応で、設定次第で2画面同時投影も可能だ。「複数の教材を同時に表示したいという要望が多い」ことから機能実装したという。先述の通り、電子黒板機能も備えているので、電子ペンを使えば投影画面に書き込みをしつつ授業を進めることも可能だ。
本製品の実売価格は40万円台だが、「各教室のプロジェクター設置は(文部科学省の)教材整備指針に含まれていることもあり、多くの学校に導入される動きが出てきている」とのことだ。
●「校内ネットワークの高速化」を推進するバッファロー
PC用周辺機器で知られるバッファローのブースでは、法人向けのWi-Fi(無線LA)Nアクセスポイントが展示されていた。同社が特に注力しているのは「マルチギガビット対応」モデルだ。
GIGAスクール構想というと学習用端末が注目を集めがちだが、実は学校のネットワーク環境も大きな課題の1つだったりする。これは文部科学省も認識しており、改善に向けた指針を示している。
今後の学習指導要領の改訂に向けて、同省は「CBT(Computer Based Testing:端末を使った試験)」の導入を推進しており、2027年度までに「全国学力・学習状況調査」における紙テストを廃止する方針も示された。「ネットワーク環境を改善せよ」と指示を出すのは、このような背景もある。
外部ネットワークへの接続面では、学校に引き込むブロードバンド(バックボーン)回線の高速化も対策の1つとして上げられており、最近ではマルチギガビット(1Gbps超)の回線を導入するケースも見受けられる。
当然、校内ネットワークも外部ネットワークの改修(変更)に合わせて改修される。その際に、有線ルーター/スイッチもマルチギガビット対応品にリプレースされることも多い。
担当者は「(校内ネットワークが)マルチギガビット対応になった場合でも、アクセスポイントがマルチギガビット対応なら高速化したバックボーンネットワークやWi-Fi 6/6E(IEEE 802.11ax)のポテンシャルを生かせる」と語る。GIGA 2.0向けの学習用端末にWi-Fi 6/6E対応モデルが多いことを見越したアピールともいえる。
法人向けのネットワーク機器は5年保証が基本だが、実際の使用期間は7〜8年程度だという。バッファローの担当者は「GIGA 1.0に向けて整備された無線LANはWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)対応が多いと思いますが、Next GIGAではWi-Fi 6が標準になっています。2027年頃が更新の目安(ピーク)になるのではないか」と予測する。
●Next GIGAで起こりつつある「学習用端末」の地殻変動
今回取材した各社の展示から、学習用端末においてはGIGA 1.0での経験を踏まえた「耐久性向上」と「使い勝手の向上」が大きなテーマとなっていることが分かる。
また、学習用端末におけるChromeOSの存在感が一層増していることも見逃せない。
文部科学省によると、公立小中学校(※1)における学習用端末のOS別シェアは、2021年7月時点でChromeOSが40%、Windowsが30.9%、iOS(iPadOS)がなっていた。
(※1)義務教育学校(小学校と中学校を統合した学校)、中等教育学校(中学校と高等学校を統合した学校)の前期課程、特別支援学校の小学部/中学部を含む
ところが、今回出展していた4つのPCメーカーに話を聞くと異口同音に「少なくとも公立小中学校ではChromebookの存在感が非常に増している」と語る。GIGA 1.0の時にWindows端末のみを用意していたDynabook(※2)やマウスコンピューターがChromebookを導入したのも、この“勢い”を意識した取り組みでもある。
(※2)GIGA 1.0の際にDynabookブランドのChromebookを投入したが、親会社であるシャープの製品として発売された
先述の通り、GIGA 2.0では原則として都道府県単位で学習用端末を共同調達することになっており、都道府県によっては学習用端末の要件を決定し、納入業者や端末を選定する段階に進んでいる。
あるPCメーカーに話を聞いたところ、「ある都道府県ではWindows 11、ChromeOS、iPadOSの“全て”を許容する要件を定め、どれを調達するかは市町村に委ねることにしたが、今のところオプトアウト(※3)していない市町村の7〜8割がChromebook、1割がiPadで残りがWindowsになりそう」と語っていた。また「まだ(要件を)決定していない都道府県でも、コストや運用の面からChromeOS(Chromebook)を優先して検討する節が見られる」ともいう。
別のPCメーカーでもおおむね同じ話を聞くことができたので、GIGA 2.0ではCromebookが“圧倒的な”シェアを確保する可能性が高い。
(※3)都道府県が要件を定めた段階で、一定の要件を満たす市区町村は共同調達の枠組みから外れることができる
PCメーカーは学習用端末の「軽量化」と「丈夫さ」のバランスを追求している点も印象的だ。特にChromebookでは、省電力性に優れたMediaTek製SoCを採用することでファンレス化を進める動きもみられる(これにはコスト面の理由もあるが)。画面サイズを小さくしたデタッチャブルで軽量化を図るDynabookなど、独自のアプローチも興味深い。
都道府県による共同調達が原則化されたこともあり、Next GIGAでは顧客を一気に獲得できるチャンスが生まれた一方、逆に顧客を一気に失うリスクも大きくなった。そこでPCメーカーは学習用端末において“メリハリ”のある差別化を図ることで、「うちの端末(PC)、どうですか?」という売り込みを進めている。
今後、自治体の選定がどのように進み、学習用端末のシェアにどのような変化が起きるか――各社の戦略が試されることになるだろう。
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メルカリで詐欺に遭った話(写真:ITmedia Mobile)169
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