ホンダとの経営統合に向けた協議が破談となった日産自動車は11日、内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)の退任を発表した。後任は新車戦略の責任者であるチーフ・プランニング・オフィサーのイバン・エスピノーサ氏。執行役5人のうち4人が退任し、上級役員であるエグゼクティブ・コミッティ(EC)の人数を11人から8人に削減し、5人が退任。55人いる役員の数を大幅に削減するなど経営陣体制を刷新するが、25年3月期の連結最終損益は800億円の赤字予想となるなど経営不振にあえいでおり、新経営陣が再建を進めることができるのかに注目が集まっている。自動車メーカー関係者は「指名委員会がエスピノーサ氏を選んだ大きな理由は、外国人のため“しがらみ”なくリストラを進められると期待したのと、新車戦略を統括しているため。もし仮にエスピノーサ氏がかつてのカルロス・ゴーン並みに大胆な改革に取り組み、加えて徐々にヒット車が出てくるようになれば、再建もみえてくる」という。日産復活のためには何が必要なのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
日産の生き残り策として期待されていたホンダとの経営統合に向けた協議が破談となり、日産の先行き不透明感が強まっていたなかで発表された今回の経営刷新。ECメンバーの内田社長、坂本秀行副社長、中畔邦雄副社長、星野朝子副社長、渡部英朗氏が退任し、車両計画・車両要素技術開発本部を担当する常務執行役員(CVP)の赤石永一氏、車両生産技術開発本部を担当する常務執行役員の平田禎治氏が執行役として加わる。また、ジェレミー・パパンCFO、中国マネジメントコミッティ議長のスティーブン・マー氏、チーフ クオリティ オフィサーの安徳光郎氏、チーフHRオフィサーの井原徹氏はECメンバーに残る。
日産はグローバルで生産能力の20%削減と従業員9000人の削減を行うと発表しており、内田社長はホンダとの経営統合協議が破談した2月の記者会見で「果たすべき務めに一日も早くめどをつけ、可及的速やかに後任にバトンタッチしたい」と続投の意志を表明していたが、わずか1カ月で撤回に追い込まれた。自動車業界に詳しいジャーナリストの桜井遼氏はいう。
「役員のなかでもホンダとの経営統合に反対の声が多かったこともあり、統合破談は内田社長退任の直接的な理由ではありません。昨年、業績悪化を受けて内田社長の役員報酬を半分の3億円に減らすと発表しましたが、それでも高額だという根強い批判が社内に燻っていたなか、ホンダに対して具体的な経営再建策を示さなかったことで、内田社長の経営能力に社内からも社外からも大きな疑問が寄せられ退任に追い込まれたという面が大きいです」
注目されているのが、ホンダからの出資受け入れに向けた協議が本格化するかどうかという点だ。23年3月、米格付け会社S&Pグローバル・レーティングは日産の長期発行体格付けを「トリプルBマイナス」から投機的水準となる「ダブルBプラス」に引き下げ。今年2月21日にはムーディーズ・ジャパンは日産の発行体格付けを投機的等級(投資不適格に該当)の「Ba1」(ダブルBプラスに相当)に引き下げた。日産は25〜26年3月期には約1兆円の社債の償還を迎えるが、社債発行時に大きな上乗せ金利が必要となるなどして資金調達コストが上昇する懸念も指摘されている。
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「日産がホンダからの出資受け入れに向けて積極的に動くということは、当面はないでしょう。確かに社債の償還を控えてはいるものの、自動車事業で1兆円以上の手元資金があるため、経営陣は財務面でそれほど大きな危機感を持っていないようにみえます」
では、日産再建の芽はあるのか。
「エスピノーサ氏が新社長に選ばれたのは消去法的な意味合いが強いものの、指名委員会は工場閉鎖や人員削減などの厳しいリストラを日本人トップよりは躊躇なく進められるだろうということで、外国人を指名したかったようです。業績を回復させるためにはヒット車をより多く出していくしかありませんが、新車は企画から開発、量産体制の確立を経て発売するまで3〜4年はかかりますし、昨今の原材料価格の上昇で一台あたりの開発コストはどんどん上がっているので、容易ではありません。
今年は『キックス』『エクストレイル』『エルグランド』『リーフ』『スカイライン』などの新型車などを投入予定ですが、そこから大ヒットといえる車が出てくるのかといえば、なかなか難しい気がします」(桜井氏)
自動車メーカー関係者はいう。
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「エスピノーサ新社長の強みは新車戦略の専門家である点と外国人である点です。カルロス・ゴーン並みに大胆な改革を進め、さらに数年後からぽつぽつと新車のヒットが出てくるようになれば、トヨタ自動車の背中は遠いかもしれませんが、ひとまずは単独での持続的な安定経営への希望が見えてくるのではないでしょうか。ホンダとの業務提携は引き続き残るので、将来に向けた技術的な蓄積はそこで行いつつ、粛々と身を切る改革を進められるかにかかっています」
日産とホンダは昨年(2024年)3月に自動車の知能化・電動化に向けた戦略的パートナーシップの検討開始に関する覚書を締結しており(8月に三菱自動車も参画を検討)、経営統合が見送りになった後もEVやSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)に関する提携は継続する。
日産とホンダが持ち株会社方式による経営統合に向けた協議に入ることで合意したのは昨年12月。背景には日産の経営悪化があった。北米事業をはじめとする海外事業の悪化などに伴い、日産の2024年4〜9月期連結決算は、売上高は前年同期比1.3%減の5兆9842億円、営業利益は同90.2%減の329億円、経常利益は同71.9%減の1161億円、純利益は同93.5%減の192億円。当初は3000億円の黒字予想だった25年3月期通期の純利益を「未定」に修正し、グローバルで生産能力の20%削減と従業員9000人の削減を行うと発表した。昨年3月に発表した中期経営計画「The Arc(アーク)」では26年度にグローバル販売台数を23年度から100万台増となる440万台に、営業利益率を6%以上に引き上げるとしていたが、11月には撤回した。
そうしたなかで日産が繰り出した延命策が、昨年8月にEVの分野などで戦略的パートナーシップを締結していたホンダとの経営統合だった。予定では今年6月に最終合意を締結し、来年(26年)8月までに両社の持ち株会社を上場させて経営統合が完了する計画だったが、協議はわずか1カ月余りで破談。すでに1月の段階で不穏な空気が流れていた。両社は1月までに統合の方向性について一定の判断をする予定だったが、期限を2月中旬に延期していた。
(文=Business Journal編集部、協力=桜井遼/ジャーナリスト)
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