熊本県松橋(まつばせ)町(現宇城市)で1985年に男性が刺殺された「松橋事件」で服役後、再審無罪が確定した熊本市の故宮田浩喜さん(2020年に87歳で死去)の遺族が、捜査や公判活動に違法があったとして、国と県に計約8500万円の国家賠償を求めた訴訟の判決で、熊本地裁は14日、国に約2381万円の支払いを命じた。県への賠償請求は棄却した。
品川英基裁判長は、有罪につながる証拠に重大な疑念が生じても明らかにせずに公判を続けたことは「真実発見に協力すべき検察官が負う注意義務に反し、違法」と批判した。同種訴訟で起訴・公判を担当する検察(国)側の賠償責任が認められるのは異例。今後の証拠開示の在り方の議論にも影響を与えそうだ。
確定判決が宮田さんを有罪と判断した唯一の証拠は「(凶器とされた)小刀にシャツ片を巻き付け、殺害後に燃やした」とする自白だった。だが、弁護団が再審請求準備中、閲覧許可が出た検察側の証拠物から「燃やした」はずのシャツ片を発見。血液の付着はないとの鑑定結果も出ていたが、検察は証拠提出していなかったことが判明した。
判決はまず、「証拠からは有罪と認められない状況なのに、検察官が漫然と公判を続けた場合は国賠法上、違法になる」と判示。その上で、シャツ片の存在は自白の信用性に重大な疑念を生じさせるものだと指摘。にもかかわらず、検察官は公判で一切明らかにしなかったとして、「注意義務に反し、違法と言わざるを得ない」と判断した。
一方、起訴時点では一定の有罪の疑いがあったとし、起訴したこと自体の違法性は否定した。原告側は県警の違法捜査も訴えたが、判決は「取り調べで暴力やどう喝などはなかった」などとして退けた。
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熊本地検は「判決内容を検討し、上級庁と協議した上で対応したい」とのコメントを出した。【野呂賢治、栗栖由喜】
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