
4日後にメジャーリーグの東京シリーズ開幕を控えた3月14日。後楽園駅を出て東京ドームに続く歩道橋を渡り終えると、いつもと異なる光景が広がっていた。
3月18日、カブスとの開幕戦で先発するドジャース・山本由伸の顔が電光掲示板に大きく映し出されるなか、ドジャーブルーのユニフォームやキャップなどに身を包んだ老若男女が、大谷翔平やメジャーリーガーたちの写真をバックに撮影を楽しんでいるのだ。東京で行なわれるカブス対ドジャースという歴史的なオープニングシリーズを少しでも早く楽しみたいファンたちは、3月14日の有料公開練習を前に、高揚感を抑えきれずにいた。
【162分の2に込められた意義】
14日に行なわれた東京シリーズ開幕の記者会見に日本、アメリカ、台湾などから訪れた報道陣は約200人。まず壇上に上がったのは、カブスのクレイグ・カウンセル監督だった。
「すべての野球ファンに感謝したい。日本のファン、カブスファンもそうだ。野球は国境を越えたスポーツであり、世界を股にかける試合にカブスが選ばれたのは非常に光栄だ」
開幕を前に東京ドームを訪れて感じたのは、ある意味ではWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)を上回る世界的イベントが開催されるということだ。
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2024年のワールドシリーズ王者で大谷、山本、新加入の佐々木朗希を擁すドジャースと、1871年創設という老舗球団で鈴木誠也、今永昇太が所属するカブス。日本のファンにとって彼ら5人の凱旋がビッグイベントの目玉になる。その一方、MLBがアメリカ国外で開幕シリーズを開催するのは、ベースボールの市場拡大という目的がある。
MLBが開幕シリーズをアメリカとカナダ以外で行なうのは今回が10度目。日本では2000年のメッツ対カブス、2004年のレイズ対ヤンキース、2008年のレッドソックス対アスレチックス、2012年、そして2019年のアスレチックス対マリナーズに次いで6度目になる。過去の開幕シリーズも注目を集めたが、今回はキャリア全盛期にある大谷の存在もあり、注目度は桁違いだ。
もちろん、レギュラーシーズンという意味では年間162試合のうちの2試合にすぎない。シーズン全体で見ればわずかな数だが、この2試合にはどんな意味があるのか。ドジャースのデーブ・ロバーツ監督はこう答えた。
「たしかに162試合のうちの2試合だが、ここ東京でプレーするのは多くの意義がある。ドジャースやカブス、そしてMLBにとって、東京というすばらしい都市に来て2試合を行なえる機会だ。ある意味では単なる2試合にすぎないが、グローバルな意味においては本当に重要で、我々全員にとって大きなチャンスだ」
大谷、山本、佐々木が同時に登壇した会見でテレビ局の代表質問が終わった直後、真っ先に質問したのは台湾メディアだった。大谷に聞いたのは、今年は東京、昨年は韓国のソウルで開幕シリーズが開催されたが、台湾もその舞台として相応しいと思うだろうかという内容だった。
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「もちろん適していると、個人的には思っています。すばらしい国の人たちの前で野球ができるのは、それだけですばらしいことでもあるので。今回日本で開催し、去年韓国で開催しましたけれども、まずはこのシリーズがいいものになれば、またほかの国での開催も盛り上がるのではと思います。今後もし台湾の野球ファンの人たちの前でプレーする機会があれば、幸せなことだと思います」
【佐々木朗希、鮮烈メジャーデビューなるか】
会見を聞いていて感心したのは、MLBに活躍の場を移した5選手のコメントに深みがあったことだ。たとえば今永はアメリカでの生活を1年間経験し、自身にどんな変化が生まれたかと聞かれると、こう答えた。
「こんなにユーモアな人間だったのかなっていうのが、一番自覚していることです。でも、それは鈴木選手の存在もすごく大きくて。ロッカールームに誰か日本人がいる。悩んだら『どうだった?』って聞ける。そういう存在がいることで、野球選手でなくてもいい瞬間があることが僕としてはすごくうれしくて。そこには救われたなと感じますね」
さらに今永がアメリカ人記者から聞かれたのは、来日して日本での時間を楽しむチームメイトを見てどう感じるかということだった。
「彼らのすばらしいところは、楽しむ時はすごく楽しんで、球場に入る時はみんな朝から準備をする。せっかく(プレシーズンゲームで)日本の球団とも試合をするので、日本の投手、野手、野球のすばらしさも、対戦して感じてほしいなと思います」
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海を渡った日本人選手たちは大きく成長し、メジャーリーガーとして東京ドームでどんな姿を見せてくれるのだろうか。
3月18日、カブスの開幕投手・今永と真っ先に対戦するのは1番に入ることが濃厚な大谷だろう。戦いの舞台はいきなりクライマックスを迎える。
直後、1回裏のマウンドに登り、ドジャースの開幕投手を務める山本も意気に感じている。
「本当にたくさんの方に支えていただいて、いろんな助けをしていただいて、ここまで来られています。これまでの野球人生に携わってくれた方もすごく楽しみにしてくださっていると思うので、いろんな方にいい姿を見せられたらなと思っています」
3月19日の第2戦では、ドジャースに移籍した佐々木がメジャーデビューを飾る。
「まずは自分のピッチングをすることが大事かなと思うので、自分の持っているものを発揮できるように頑張りたいです」
ルーキーにとって、慣れ親しんだ日本でデビュー戦を飾れるのは大きなアドバンテージだ。フォーシームとフォーク、スライダーのコンビネーションでカブス打線をどう抑えるのか。奪三振ショーの鮮烈デビューになる可能性も十分にある。
さらに、楽しみなのが球場の雰囲気だ。NPBでは各選手の応援歌が奏でられるが、MLBの試合に応援団はいない。東京ドームのプラチナチケットを手に入れたファンは、どのように楽しさや興奮を表現するのだろうか。
2025年のMLB開幕戦、そして第二戦。「162分の2試合」から生まれる熱狂を、存分に堪能したい。