今敏監督の「ガンダム」オタクな一面を明かす アニメーターの安藤雅司・小西賢一・本田雄が登壇

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2025年03月17日 06:00  ORICON NEWS

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「第3回新潟国際アニメーション映画祭」レトロスペクティブ部門「今敏」トークイベントに登壇した(左から)本田雄氏、小西賢一氏、安藤雅司氏(C)ORICON NewS inc.
 新潟市中央区で開催中の「第3回新潟国際アニメーション映画祭」では、レトロスペクティブ部門で、没後14年が過ぎた今でも多くのファンに愛され、クリエイターたちに影響を与え続けている、今敏(こん・さとし)監督を特集。監督作品だけでなく、原画、演出などで参加した作品もあわせて9作品を上映する。

【画像】レトロスペクティブ部門で上映される作品

 映画祭2日目の16日、シネ・ウインドで行われた『千年女優』(2001年)の上映後、今監督と一緒に作品づくりをした経験を持つアニメーターの安藤雅司氏、小西賢一氏、本田雄氏が登壇し、制作当時の様子などを語った。今監督が「ガンダム」オタクな一面があったことを裏付けるエピソードも飛び出した。

■登壇者について

 安藤氏は、スタジオジブリの研修生第二期生として入社し、宮崎駿(※崎=たつさき)監督の『もののけ姫』(1997年)や『千と千尋の神隠し』(2001年)ではメインの作画監督を務めた。03年に退社してフリーになってから、今監督作品に参加し、映画『東京ゴッドファーザーズ』では作画監督、映画『パプリカ』(06年)ではキャラクターデザインと作画監督、テレビアニメ『妄想代理人』(04年)ではキャラクターデザインを担当した。

 小西氏は、研修生の第一期生としてスタジオジブリに入社し、『もののけ姫』や高畑勲監督の『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)などにたずさわった後、フリーになり『千年女優』に作画監督・原画として初参加。次作の『東京ゴッドファーザー』(2003年)では今監督から指名され、共同でキャラクターデザイン・作画監督を手がけた。

 本田氏は、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズや『千年女優』『君たちはどう生きるか』(2023年)のキャラクターデザイン・作画監督などで知られる。

■「今敏」との出会い

 本田氏は「今さんの名を最初に知ったのは、大友克洋さんのアシスタントをしていた漫画家としてでした。『ワールドアパートメントホラー』(1991年)の絵がすごく好きでした。その後、今さんが美術で参加していた『老人Z』(1991年、監督:北久保弘之)に僕も参加していたのですが、一度もお会いすることなく終わりました。その後、立ち消えになってしまった企画で、今さんと机を並べて仕事をすることになった時に、自分の席に『ワールドアパートメントホラー』の単行本を置いていたんです。でも緊張してしまって、なかなか話しかけられずにいました。そうしたら、今さんのほうから『それは何の嫌がらせなの?』って話しかけてきてくれました(笑)」。

 小西氏は「『機動警察パトレイバー2 the Movie』のレイアウト集が出たときに、今さんの名前があったので、そのときに意識するようになったのが最初かもしれません。ちょうどフリーになって細田守さんの『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』参加中に、『PERFECT BLUE/パーフェクトブルー』(1997年)の作画監督だった濱洲英喜さんの紹介で『千年女優』に参加することになりました」。

 安藤氏は「最初は漫画家としてその名を知りました。『海帰線』(1990年)を読んで、すごく絵のうまい人だと思っていました。ジブリに入ってすぐの頃、近藤喜文さんが『これ、知ってる?』と今さんの作品を若いアニメーターたちに見せてくれたことがありました。近藤さんはライバル意識も持っていたのか、あまり『すごいよね』とは言わなかったのですが、今さんの作品で若い人たちに刺激を与えようとしていたことを覚えています。僕が、実際に今さんとお会いしたのは、『東京ゴッドファーザーズ』の準備中の時だったと思います」。

■制作当時の今監督を振り返る

 今監督は『PERFECT BLUE/パーフェクトブルー』で監督デビューし、2作目の『千年女優』の頃は、「今さんの場合、基本的に『自分でやる』スタンスでしたね。レイアウトも全部直していましたし、作業のスピードについていくのも大変でした」と本田氏。

 3作目の『東京ゴッドファーザーズ』の時は「今さんが描いたキャラクターのイメージイラストを見せられたとき、セル調で色もついていたんです。『え?もうこれで完成じゃん。自分は何をすればいいんだろう?』って思いました(笑)」と、その圧倒的な才能で現場をけん引していたという。

 『妄想代理人』のときは、「コンセプトみたいなものを読ませてもらって、ファーストインプレッションで描いた絵を面白がってくださった。それでキャラクターデザインを自由にやらせてもらった」と安藤氏。『パプリカ』のときも「任せてくれたのですが、若干こっちが固くなってしまったのが、キャラクターデザインに表れていると思います。自分の(絵の)比率が高いのですが、今さんは器用なのでこっちに寄せて描くこともできる」。

 それぞれ目撃した今監督の仕事ぶりが語られ、今監督の「画力の高さ」について本田氏は「最低限の線で、すごく効果的な画面を作る能力がずば抜けていました」。小西氏は「今さんは絵コンテを漫画みたいに描いちゃう。コンテ用の絵とレイアウト用の絵は描き方が違うと言われてもさっぱりわからなかった」と話した。

■『機動戦士ガンダム』が大好きだった

 トークの中で、「今監督が大学生の頃に描いた絵を見せてもらったことがある」という本田氏は「その時点でほぼスタイルが完成していたんですよね。大友さんの影響を受けつつも、すでに独自のセンスを持っていた。アニメも好きで、『ガンダム』が好きだったんです」と暴露。

 すると、安藤氏が「『パプリカ』の制作中に、みんなで集まって、お酒を飲みながらつまみを食べつつ、『機動戦士ガンダム』劇場版の1〜3作をオールナイトで一気に観る会をやったことがあります」と乗っかった。

 本田氏は「『千年女優』のときもありました。大みそかに今さんの家で忘年会をやったとき、ちょうどテレビで劇場版の1作目が放送されていて、それを観ながら年越しをしたんです。放送が終わって、やっぱり『ガンダム』はいいね、なんて話していたら、『2と3もあるよ』って(笑)。結局、朝まで観続けました」。

 さらに、「今さんは、せりふも覚えていて、先に言っちゃうんですよ。『次にこのせりふがくる』って(笑)」(本田氏)、「そうそう。せりふを先に言いながら観るんですよね(笑)」(安藤氏)と、今監督のオタクっぷりで盛り上がるなか、小西氏は「『東京ゴッドファーザーズ』のときはなかったな」と残念そう。

 しかし、『パプリカ』に登場する時田浩作の声を、『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイ役で知られる古谷徹が務めていることに触れ、「キャラクターの描き方にも『ガンダム』好きが出ている感じでしたね」と指摘。安藤氏は「もしかすると、直接、アムロと話をしてみたかったんじゃないですかね。今さんの作風やこだわりを考えると、『ガンダム』が好きだったというのは納得できる部分もあります。いいキャスティングだったんじゃないでしょうか」と話していた。

■今監督がアニメ業界に残した影響とは?

 本田氏は「良くも悪くも、すごいお手本を残してしまったな、という感じがします。もし今さんがいなかったら、この業界はもう少しゆるかったかもしれない(笑)。僕は、『昨日描いた絵が気に入らない』と思うような厳しさを持つようになりました」。

 小西氏は「業界に残したものといえば、やはりレイアウトへの影響が大きいと思います。絵コンテの描き方もお手本になっていくと思います。ただ、それを語ると結局、自分自身への影響の話になってしまうのですが、今さんと一緒に仕事をすることで、彼の画力やスタイルの影響を少しでも吸収したい、手に入れたいと思っていました。今さんの影響は、ジブリと並んで、自分の基礎の一部になっています」。

 安藤氏は「今さんが存命だったら、もっと違う方向に進化していたかもしれない。彼の演出力と画力を活かした新たな作品を観たかったですね」と語り、46歳の若さで亡くなった今監督を偲んだ。

■来場者の声

 イベント終了後、新潟県新発田市から来た40代の男性は、「今監督はやはり偉大な方だったんだな、と改めて感じました。皆さん、それぞれ今監督の仕事ぶりに大きな影響を受けていて、その経験がご自身の仕事にも生きているんだな、と話を聞きながら強く感じました」と感想を語ってくれた。

 新潟市内在住の高校2年生の女性は「ジブリ作品が大好きで、安藤さんと本田さんのファンなのと、『千年女優』を一度は映画館で観てみたかったので、今回の上映を知り、すぐにチケットを取りました。映画もトークも楽しめました!とても貴重で驚きの連続でした。特にガンダムの話は聞けてよかったです!」と大満足だった様子。中学3年生だった第1回から同映画祭に来場しているという彼女は「地域の活性化につながるし、とても素晴らしいことだと思います。第1回では押井守さん、第2回目では富野由悠季さんを間近で見ることができました。本当に貴重な体験でした!ぜひ何十年も続いてほしいと思っています」と話していた。

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