イシューの要件は極めてシンプルで、「(1)解き得る」かつ「(2)解いた結果のインパクトが大きい」課題です。
例えば、「海外で働くことを目指して、1年間で英語力を必要レベルまでスキルアップする」のは、(1)解き得て、(2)解いた結果のインパクトが大きいのでイシューになります。
解けない問題、解いたところで結果の効果やインパクトが些細(ささい)な問題は、イシューとはなり得ません。イシューとは、問題とされる状況を打開しようとする課題のうち、このイシューの要件にかなうものを吟味して特定したものです。
この定義より明らかなように、イシューとは、時間と労力、資金を投入して取り組むべき価値がある課題です。解けない課題にいくら取り組んでも、徒労に終わってしまいます。イシューが解けた成果として、貴重な時間と労力、資金を投入しただけの、またはそれ以上の効果・インパクトがリターンとして得られるからこそ、取り組む意味があるのです。
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リターンが十分に期待できない課題に時間と労力、資金を投入するのは無駄です。
このイシューの要件に外れる課題は、はっきりと「イシューではない」と認識します。もし、イシューなのかどうかを見極めるために時間と労力、資金が必要なのであれば、それは最小限にとどめて早々に判断を下しましょう。
●イシュー思考では「思考の往復運動」が重要なワケ 6つのプロセスを押さえる
イシューを解きたい時は、そのイシューを論理的に分解してよりシンプルなサブイシュー(イシューを解くために必要な複数の下層課題)に落とし込み、効率的に分析・解釈・判断・実行できるようにイシューを体系化します。
その際、分解したサブイシューのセットが、大元のイシューを解くための十分条件(論理的に説明するために必要となる項目が全て含まれている)となるような「結論説明型」の展開になっていることが特徴です。
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サブイシューをさらに分解した「サブサブイシュー」(サブイシューを解くために必要な最もシンプルな課題)とサブイシューの関係も同様に、「結論説明型」の展開です。すなわち、サブサブイシューを全て解くと、自動的にサブイシューが解かれ、ひいては、大元のイシューが解決する仕組みになっています。
しかも、サブサブイシューは、シンプルで具体的な分析課題として個別の分析項目にまで分解されているので、サブサブイシューをリストアップすれば、それがそのままイシューに対する問題解決のアクションプランとして使える利点もあります。
つまり、イシューアナリシスは、イシューを?み砕いてよりシンプルな課題に分解する過程であると同時に、各サブサブイシューを解き切った瞬間に、イシューに対する問題解決の実行計画が組み上がっているという、非常に生産性が高い手法なのです。
イシュー思考は、6つのプロセスから構成されます。
(1)目的と目指す姿を言語化する
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(2)イシューを特定する
(3)イシューステートメントへ言語化する
(4)サブイシューへ展開してイシューを体系化する
(5)分析・解釈・判断する
(6)結論版へ書き換える
(1)と(2)が、問題解決に向けて本質的な課題を見極める「イシューの特定」フェーズ、(3)〜(6)までが特定されたイシューを実際に解いていくために分解して体系化する「イシューアナリシス」フェーズです。
この全体像の構成は、6つの「ステップ」ではなく、6つの「プロセス」です。イシュー思考は、(1)〜(6)までを順番に進めれば完了──という単純一直線な思考ではありません。思考を進めながら、一つ前のプロセスに立ち戻って検証し直したり、さらに、もう一つ前のプロセスを手直ししたり、「思考の往復運動」をしながら前進します。
いわば、「3歩進んで2歩下がる」ことを繰り返しながら、着実に前進していくイメージです。
このような「思考の往復運動」は、一見すると無駄のように感じられるかもしれませんが、これは常に「仮説思考」を実践しているからに他なりません。すなわち、イシュー思考は、仮説思考をフル活用しながら、以上の6つのプロセスにおいて「思考の往復運動」をしながら進んでいくものなのです。
●「仮説思考」を高速回転させるための3つの要点
イシュー思考においては「仮説を設定して検証し、その仮説をアップデートしていく」という「仮説思考」が何よりも重要なベースとなっています。
ここであらためて「仮説思考」についてお伝えしておきます。
「仮説思考」は、まだ答えが分からない課題に対して、仮置きの案(仮説)を立てて、それを検証しては書き換えアップデートし続けていく思考法です。
仮説はたたき台と割り切って、間違いを恐れることなく、そう言い切って良いのかが気になって仕方なくなるほど具体的に言語化して書き記します。そうすると、「本当か?」「検証したい!」「書き換えたい!」という自然な衝動に脳内活動が駆り立てられて、仮説の検証作業に勢いがつきます。
また、結論に至るまでは、文末を疑問形で表現すると、思考する脳内に刻み込まれやすくなって、脳が活発に働くようになります。言い切り調ではない宙ぶらりんな表現のほうが、脳に印象として刻み込まれやすく、自分の無意識下でも脳が勝手に思考するようになるのです。
仮説思考が問題解決の生産性を上げる有効な思考法であることは、みなさん何度も耳にしていることでしょう。とはいえ、十分に仮説思考を実践できていないことが少なくありません。
ここでは、仮説思考の要諦(ようてい)を3つ紹介します。
要諦1: 仮説思考は“間違い思考”
「仮説」と表現されるのは、間違っているからです。間違っているものと割り切って、間違いを大前提として思考します。間違いを恐れることなく、具体的な内容を仮置きとして書き記し、これをたたき台として検証するのが「仮説思考」です。
要諦2:仮説思考の目的は、「生産性高く・効率よく問題解決を完遂する」こと
仮説思考の目的は、問題解決の生産性を上げることです。従って、問題解決の生産性を上げないような「仮説思考」には全く価値がありません。
要諦3:仮説思考の成功は、「仮説の書き換えサイクルスピードの速さ」で測られる
問題解決の生産性を上げる「仮説思考」とは、仮説を検証して書き換えていく仮説更新のサイクルが高速で回転している状態です。
仮説が高速で書き換えられていかない状況とは、仮説思考が停止している状態か、結論に至って問題解決が完了した状態かのいずれかです。仮説は、仮説更新サイクルの速さが速いほど優れています。従って、当初の仮説から、書き換え更新が全く進まない仮説は、「ダメ仮説」です。
●【事例で考える】レストランの集客を増やすための「良い仮説」とは?
それでは、どのような仮説が「良い仮説」なのでしょうか。例えば、「どのようにしてレストランの集客を増やすか」という問題について具体的に考えてみましょう。
一つの仮説として「麻婆豆腐、ラーメン、餃子、唐揚げを看板メニューと定めて刷新することによって、集客を倍増できるのではないか?」と書き記します。この仮説を読み返してみると、例えば以下のような疑問がどんどん湧いてきます。
・ニーズが高いとはいえ、競争が激しい麻婆豆腐、ラーメン、餃子、唐揚げで本当に集客できるのか?
・この辺りの商圏で競争が少ない料理で勝負したほうが、勝ち目があるのではないか?
・そもそもメニューのリニューアルだけでは、集客倍増は見込めないのではないか?
すなわち、疑いたくなるほどに具体的な仮説を立てられれば、「本当か?」「これで十分か?」といったさらなる疑問が次々と湧きあがり、検証しないではいられない衝動に駆り立てられます。その結果、仮説を更新していく仮説思考の勢いが増していきます。これは、自ずと問題解決のプロセスがスタートして、勢いよく前進している状態です。
ここで、私が仮説を案出する際の指針としている思考原則について紹介しておきましょう。みなさんが仮説を案出する際にも、意識してみてください。
・過去に起きてしまった出来事は与件として、未来をなんとかしようとする未来志向、過去にとらわれないゼロベース思考
・背後にあるメカニズム(再現性を担保する根拠)を見いだす
・原理原則を理解して、これに基づく(抗わない)
・ヒトはその本能的な欲求・性向に従うものと捉える
・常に「本当か?」「他にも可能性・選択肢があるのではないか?」「これで十分か?」という健全な懐疑心を持ち続ける
・常に、優先順位、物事の軽重や順番を意識する
・前進し続ける(仮説思考では、間違っても前進し続ければ正解)
ぜひ、このような思考原則もヒントとして仮説思考を使いこなしていってください。
(この記事は、和氣忠著、かんき出版の『イシュー思考』に掲載された内容に、かんき出版による加筆と、ITmedia ビジネスオンラインによる編集を加えて転載したものです)
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電話の天気予報177番 31日で終了(写真:TBS NEWS DIG)251
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