佐々木麟太郎の初ホームランにチームメイトが歓喜 充実のスタンフォード大学生活

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2025年03月22日 10:10  webスポルティーバ

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佐々木麟太郎のスタンフォード大学Life 前編

アメリカのスタンフォード大に進学した佐々木麟太郎に、ついに待望の初ホームランが出た。同じ試合で2本目、次の試合でももう1本放つなど、"らしさ"を発揮し始めている。

佐々木にとってアメリカ屈指の学力を誇る同大の環境、チームメートや指導者との過ごす時間は、どのようなものなのか。

初本塁打が出る前の独自取材も含めて、紹介する。

【17試合目の初HRからの1試合2発&2試合連続弾】

 3月15日(現地時間)に行なわれたスタンフォード大対デューク大戦の5回。佐々木麟太郎は先頭打者として、この試合3度目の打席に立った。第1打席は、ピッチクロックバイオレーション(*)により見逃し三振となり、第2打席は捕ゴロ。実況アナウンサーが、「彼は、今日ここまで少し不調です」と話した瞬間だった。2ボール、1ストライクから高めのストレートを強打。

(*)打者は、制限時間の残り8秒までに打席に入り、投手に注意を向けていなければならない。それを怠ると1ストライクを宣告される。

「いや、この一打は違います! 間違いなく、佐々木の第1号です!」

 アナウンサーは、すかさず叫んだ。本人も手応えがあったのだろう。打撃直後、バットを持って数歩前進しならボールの行方を追った。打球はライトのフェンスを越え、開幕17試合目にして初本塁打。ホームスタジアムの観客に右手を上げて歓声に応え、ダイヤモンドを走る佐々木を見ながら、アナウンサーは、「本当なのかい!? ササキリンタロウガ ダイガク ハツホームラン!」と、おそらく1戦目から用意していたであろう日本語で、声を張り上げた。

 佐々木が打った瞬間、ベンチの柵にもたれかかって見ていたチームメイトらが、一斉に手を上げた。スタンフォード大の球場では、同大の選手がホームランを打った時にダンゼルの『put your hands up in the air』を流すことがお決まりで、選手らはリズムに乗りながら、上げた両手を左右上下に振って喜びを表し、佐々木を迎えた。

 観客席ではスタンディングオベーションを送るファンの姿、芝生エリアでは同じ大学で日々厳しい勉学に勤しんでいるであろう若者たちが、手舞足踏していた。

 7回の第4打席は左中間へシングルヒットを放った佐々木は8−1で迎えた8回、二死一、二塁から、今度は右中間に3ラン。この試合2度目の本塁打は、チームをコールド勝ちに導く"サヨナラ打"となり、ホームで待っていたチームメイトから、もみくちゃにされて祝福を受けた。

 試合後、デイビッド・エスカー監督は、「何よりもエキサイティングだったのは、チームのリアクションだ。このチームはとても絆が強い。誰もが彼を受け入れ、彼の成功を見たいと思っている」とうれしそうに話した。

 NCAA(全米大学体育協会)1部(以下、D1)の野球シーズン開幕から1カ月。ようやく聞かれた快音だった。この2本で調子づいた佐々木は、翌16日も3ラン本塁打を放ち、同シリーズを終えた時点で18試合すべてに先発出場。3番打者として74打数でチーム最多の25安打、打率3割3分8厘。22打点もチーム最多タイで、3本塁打。出塁しなかった試合はここまで1試合のみで、出塁率は4割2分4厘、長打率5割だ。

【「最優先は本塁打よりチームの勝利」】

 日本の野球のレベルがどれだけ高いかは、30年前の1995年に野茂英雄がメジャーリーグデビューして以来、アメリカの野球ファンであれば、誰もが周知のことだ。それが、日本の高校通算最多とされる140本塁打を放った類い稀な選手が、日本のプロ野球ドラフト上位指名候補と言われていたにもかかわらず、その進路を選択せずにアメリカの大学に来たのだ。

 日本から離れたアメリカといえども、佐々木はシーズン前から各メディアでスタンフォード大が所属するアトランティックコースト・カンファレンス(ACC)の新人王(フレッシュマン・オブ・ザ・イヤー)と予想されるなど、本人にかかる期待は計り知れない。

 ホームラン性の当たりを放ちながら、なかなか一発が出なかった間、佐々木にアメリカでもガンガン本塁打を打つこだわりはあるか? と問うと、「もちろん、そうですね」と答え、次のような心境を話してくれた。

「今は出ていないですけど、まだ1年生ですし、ここでプレーすることが終わるわけじゃありません。やっぱり最優先は、ホームランを打つことより、まずチームの勝ちにどう貢献するかということ。それがホームランになっていればすばらしいことですし、まずは焦らずにやっていければ。

 一番大事なことは、どれだけ安定して、質のよい結果を残していくか。そのなかで長打を期待できればいいなというふうに思っています。

 まあ、焦りたいところなんですけど、ただ焦るとよくないと思っているので、こういう長いシーズン、ちょっとずついい形に持っていければ。そこを目指していきたいです」

 D1のレギュラーシーズンは、2月半ばから5月半ばまで最多で56試合。ポストシーズンでカレッジ・ワールドシリーズに進出し、決勝まで勝ち進めば6月後半まで続く。シーズンを通していかに安定したプレーができるか。それがチームのためとなり、自らの成長につながってくる。

 初本塁打を打った試合後も佐々木は、「自分のことは話したくありません」と自らの話はしたがらず、「まずはチームが勝てたことがうれしい」と強調していた。

「佐々木麟太郎」という名の代名詞でもある「ホームラン」はどんどん打っていける選手になっていきたいが、「勝利」という結果がなければ、それは佐々木のなかで大きな意味を持つものではないのだろう。

【佐々木が選んだスタンフォード大の魅力】

 スタンフォード大が今季から所属するACCは、D1のなかでも卓越した強豪ぞろいの "パワーカンファレンス"だ。

 昨季までも同じ"パワーカンファレンス"のひとつで、アメリカ西部の強豪チームが揃ったパシフィック12カンファレンス(略称Pac-12)に所属しており、直近では2021年から23年まで3年連続でカレッジワールドシリーズ(MCWS)に進出している強豪校である。

 また、日本でも広く知られているように、全米屈指の学力を誇る大学であり、IT企業の一大拠点であるシリコンバレーの中心、サンフランシスコ空港から南へ約37kmに位置している。約33キロ平方メートルの巨大なキャンパスは、スパニッシュ・ミッション様式の建物と緑に囲まれている。

 リクルートされる段階で、最終的に絞った数校のなかからスタンフォード大への進学を決めた佐々木は、その理由について次のように説明する。

「本当にすばらしい環境です。そもそも野球だけで(大学を)見ていなかったので、レベルの高い野球ができる環境とレベルの高いチームであること、それに加えてすばらしい学業の部分も持ち合わせています。あとはコーチたち。ここの指導者の皆さんはすばらしいですし、自分に返ってくるリターンっていうのがすごく大きいなと思いました」

 この4月に20歳となり、2026年にメジャーリーグのドラフト指名資格を得るが、アメリカの大学は、在学途中でプロになり、いったん学校を離れても、あとから卒業することも可能だ。

「野球人生って、いつリタイアするかわからない。もちろん長く続けるのが目標ですが、何があるかわからないのがやっぱり野球だし、アスリートってみんなそうなので、それが終わったあとは本当に大事だと思っています。それを考えて、(大学を選ぶうえで)学業を大事にしていたというのがあります」

 今、佐々木が考えている専攻は、ふたつあると言う。

「サイエンス・テクノロジー・ソサイアティ(科学技術社会論)。STSっていうんですかね。それかイーコン(Economics=経済)か、ちょっと迷っています」

広い視野を持って留学生活を送っている。

つづく

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