なぜ「ブタカフェ」が増えているのか? 小さなブタが生み出した意外な収益モデル

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2025年03月29日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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カフェで人気のマイクロブタ、その魅力は?

 ブヒブヒブヒ――。


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 店内に20匹ほどのブタがトコトコと歩き回り、記者に近づいて、膝の上でくつろぐ。しばらくすると、すやすやと気持ちよさそうに眠り始める(ZZZ)。


 ネコが自由に過ごせる「ネコカフェ」はすっかり定着しているが、ここ数年、小さなブタがあふれかえるカフェがじわじわ増えていることをご存じだろうか。


 例えば、Hooome社(東京都港区)が運営するブタカフェ「mipig cafe(マイピッグカフェ)」。2019年、東京の目黒に1号店をオープンし、現在は17店舗を運営している。都市部や郊外のショッピングセンターなどに店舗を構えているが、まだまだ認知が広がっていないブタカフェとはどんなところなのか。


 店内を歩き回っているブタは、一般的に「マイクロブタ」と呼ばれているもの。名称からチワワなどの小型犬を想像する人が多いかもしれないが、大人になれば中型犬サイズ(20キロ)ほどに。寿命は10年ほどで、犬や猫と同じくらい。トイレの場所をすぐに覚えるので、英国や米国などでペットとして飼う人が増えているようだ。


 カフェの店舗面積は30坪前後で、1店舗に20〜25匹のマイクロブタが過ごしている。利用料金は25分で2000円前後(店舗によって異なる)、これまでに150万人以上が訪れているそうだ。


●ブタカフェを始めたきっかけ


 それにしても、なぜこのビジネスを始めたのか。きっかけは、創業者が「マイクロブタさんを日本で飼いたい」という思いからスタートしている。2018年8月、英国からマイクロブタを輸入し、同年12月に日本での繁殖に成功。もともとは、広大な自然の中でマイクロブタが自由に走り回り、観光客が訪れるファームをつくろうとしていた。


 ファームを観光地にして、たくさんのお客に来てもらう。気になるブタがいれば、購入してもらう。そんなことを想像して、事業を少しずつ前に進めていたところ、日本で26年ぶりに豚熱が流行り出したのだ。


 「人間にも感染するかもしれない」といったリスクがある中で、ファームに人を呼ぶのは難しいと判断した。当初の計画は断念したわけだが、クラウドファンディングを通じてブタを購入した人たちがいる。そのブタをどのようにして引き渡せばいいのか。考えた結果、引き渡し場所として、ブタカフェを始めることにしたのだ。


 そこで冒頭で紹介したように東京・目黒で1号店を構えたのだが、反響はどうだったのか。海外でいわゆる“動物カフェ”という業態は珍しく、「カフェの中でブタと触れ合える」というクチコミはあっという間に広がった。外国人観光客が殺到し、連日のように「満席」が続いたのだ。


 豚熱の発生によって、当初、描いていた事業内容は大きく変わった。しかし、たまたまカフェを始めたところ、予想以上のヒットとなった。以降、同社は店舗運営に注力している、という流れである。


 このような話を聞くと、「これまでになかった市場をつくったわけだな。カフェの数も増えているし、順調そうじゃないか」などと思われたかもしれないが、ビジネスをどのようにして回しているのか。


 「ん? 『カフェの利用料金×来店者数』というシンプルな仕組みなのでは?」などと思われたかもしれないが、ブタと触れ合える場は、ビジネスの”入口”としての役割を担っているようだ。どういうことか。


●マイクロブタが人気の理由


 そもそも、カフェで歩き回っているマイクロブタはどこからやって来るのか。実は、Hooome社の親会社であるSaLaDa社(東京都港区)が運営するファームで育てられている。


 ファームでは単に繁殖を行うだけでなく、死亡率の低減や生まれたときの体重管理など、細かいケアを行っている。現在、年間600匹ほどの出産計画を立てており、過剰な生産を防ぐために、カフェの受け入れ状況を見ながら、約半年前から調整を行っているそうだ。


 ちなみに、英国から輸入した当初、マイクロブタの体重は20キロほどだったが、現在は15〜18キロほど。小さなブタと小さなブタの選択交配によって、小型化を進めている。


 ファームで育てられたマイクロブタは全国のカフェに送られ、希望者には販売も行っている。1匹の価格は20万〜30万円。毎月40〜50匹が新しい飼い主に迎えられ、累計で1800匹以上に上る。


 では、どんな人がマイクロブタを購入しているのか。Hooome社の北川史歩さんによると「とても人懐っこいこと、トイレのしつけが不要なほど賢いこと。この2点を挙げる人が多いですが、カフェに来店するまで『ブタは臭い』といったイメージをもたれている人が多いんですよね。でも、実際は臭くない。来店前はマイナスイメージだったのに、来店後はプラスイメージになる。そのギャップが大きいのかもしれません」という。


 ブタカフェの役割は、マイクロブタを育て、カフェで触れ合う場を提供し、希望者には販売する。こうしたビジネスモデルかと思いきや……それだけではない。


 購入者のアフターサポートとして、SaLaDa社は飼育・健康管理アプリ「mipig owners」を提供している。マイクロブタを購入すると、このサービスには2年間の加入が必須で、費用は月8800円。ブタの体重と体型に応じたフードを発送するほか、アプリを通じて飼育状況を把握できるようにしている。


 また、マイクロブタを診察できる病院は少なく、アプリを通じて、診察可能な病院を紹介している。さらに、東京の目黒に専用ホテルがあり、1泊3300円で宿泊サービスを提供している。ちなみに、2024年度の稼働率は63.7%に達した。


●大きな課題が2つ


 店舗数をじわじわ増やして、マイクロブタの販売数も伸ばしてきたわけだが、大きな課題がある。それは、診察してくれる病院が少ないことだ。


 犬や猫と比べて、マイクロブタを飼っている人は圧倒的に少ない。そのため、診察できる病院も限られているのだ。家族の一員として迎え入れたいという気持ちはあるものの、近くに病院がない。「ブタさんが病気になったらどうしよう」といった不安から、購入に踏み切れない人も。


 こうした問題をどのように解決すればいいのか。北川さんは「カフェを増やし、全国に展開することが解決策のひとつと考えています」という。どういう意味か。


 2020年3月、1号店のオープンから1年が過ぎたころ、マイクロブタの販売数は34匹だったが、診察可能な病院は20カ所しかなかった。しかし、現在は販売数が1800匹を超え、それに伴い病院も200カ所に増えている。つまり、マイクロブタの普及とともに、診察環境も整ってきているのだ。


 もう1つの課題が「保険」である。


 マイクロブタの販売を始めて、まだ10年がたっていないこともあり、保険商品がない。ブタにどのような保険を適用すべきか、保険会社も慎重になっているようだ。


 マイクロブタの飼育環境は少しずつ整いつつあるが、まだまだ課題も多い。それでも、かつて20カ所しかなかった病院が10倍に増えたように、販売数の増加とともに環境整備も進んでいる。


 このカフェに行けば、”豚(とん)でもなく”人を癒やしてくれる――。こうしたクチコミが広がれば、ブタがもっと身近な存在になる日も、そう遠くないのかもしれない。


(土肥義則)



このニュースに関するつぶやき

  • 飼育を検討されてる方、ブタはペット種であっても国内の法的には家畜として扱われることに注意。
    • イイネ!19
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