「源じいから買うと当たる気がするんだよね」
店のカウンター越しに、にぎやかな男性客の声がする。
「どうか大きく当ててください」
にこやかな笑顔で応じて、加藤源一さんが宝くじを手渡すと、その男性客は「長寿の福を分けてください」と、おもむろに源じいとグータッチをして去っていった。
「最近は本当に私の体に触れたがるお客さんが増えましてね」
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こう笑う加藤さんを、本誌では親しみを込めて源じいと呼ぶ。源じいは1925年(大正14年)1月生まれ。今年で満100歳になった。
ここは静岡県藤枝市の郊外にある宝くじの店「丸源」。いまは周囲に住宅も増えたが、源じいがこの売り場を始めた1998年、73歳のころには、赤く宝くじの文字が目立つ売り場が、畑のただなかにぽつんと立っていて、遠くからもよく見えたという。
源じいは28年間、この売り場の店主として、いまも週に2〜3日は必ず店頭に立つ。
開業から5年後、2003年の年末ジャンボで1等・前後賞3億円が出たのを皮切りに、これまでに出た億当たりは8本。総額では15億円超の大当たりを出し、年末ジャンボの時期には、駐車場に入りきれない車が道路に連なり“丸源渋滞”を引き起こすほどの人気売り場となっている。
「こんな片田舎にある売り場から、これほどの当たりが出るとは想像もしていなかったです(以下、語りはすべて源じい)。
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「宝くじという商売は大当たりが出なければなかなか長続きはしませんよ。1998年の開業から5年後の2003年の春でした。営業中の店にトラックが突っ込んできたんです。店内にいた私や従業員は無事でしたが、店は大破。ほとんど新装開店のように店を再開した矢先の年末ジャンボで、なんと1等・前後賞3億円が出たんです。まさに災いと幸運は裏表。きっと店の運気にトラックが風穴を開けてくれたのではないでしょうか? 翌2004年にはロト6で1等1億5千万円が出て、お客さんの足が途切れることのない売り場になりました」
源じいの言う“運気”とはなにか。実際に売り場で源じい自らが目撃した億万長者のエピソードから、源じいはこう考えている。
「2011年に2度目の年末ジャンボ1等・前後賞3億円を当てたのはおそろいの作業服でいらした若い男性3人組でした。3人でお金を出し合い購入する際、誰がくじを選ぶのかで押し付け合いになって、ほかの2人から『おまえがいちばん親孝行だから、おまえが買うのがいちばんいいよ』と言われた男性が意を決して選んだくじが大当たり。“強運”というのは親孝行のような徳を積んだ人が持っているんだと教えられましたね」
もう一人、源じいが忘れられない男性がいる。
「2016年の正月明け。常連の50代の男性が売り場に来て『源じいに調べてほしい』と、抽せんがあったばかりの初夢くじを持参してきたんです。私が当せん確認をする機械にくじを通したら、なんと1等1億8千万円の大当たり。その男性は私の手を強く握って『源じい、ついにやったよ』ってね。私も思わず目頭が熱くなって『やりましたね』と繰り返すばかりでした。
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じつは、そのお客さんには、前から感心していたことがあったんですよ。それは売り場でくじを受け取るときに、まるで紙幣を受け取るように両手で受け取って、大事そうにカバンにしまっていくんです。私は店の販売員に常々『くじはただの紙切れではなくて、億のお札になることもある特別なもの。丁寧に扱いなさい』と話していますが、それを実践して幸運を呼び寄せた人。神様は必ずこうした心掛けを見ていて、ご褒美をくださるというのが、私の信念です」
丸源に勤めて13年になる販売員の岡田美智江さんは、その話に横で大きくうなずいてこう話す。
「この売り場に入ったときに『くじは両手でお客さんに渡しなさい。くじを手渡すとき、お客さんがそのくじをしまったとき、店を出ていくとき。ありがとうございましたは3回言いなさい』とこの2点をできるようになるまで教えられました。それは源じいが率先してやっていることなんです。だからお客さんも、源じい目当てに買いに来られるのだと思います」
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