※写真はイメージです。 清掃員はオフィスや病院、ジム、個人の自宅など、日々さまざまな場所を訪れる。そこで過ごす人たちの生活を覗き見することになるが、ときには、予想外の光景に出くわすことも……。
今回は、2人の清掃員の「病院」と「競馬場」という特殊な現場ならではのエピソードを紹介する。
◆病室の中から異臭…
小出香苗さん(仮名・30代)は、外科病院で清掃スタッフとして働いていた。毎朝6時に出勤し、病棟の廊下や病室、トイレなどの清掃を行う。患者や看護師との会話はほとんどなかった。
ある日、いつものように廊下を清掃していると、病室の中から異様な臭いが漂ってきたという。
「気になって覗いてみたんです。すると、床には赤黒い血が広がっていて、患者さんが倒れていました。患者さんの処置を看護師がしていたんですが、私を見るなり『早く掃除して!』と冷たく言われました」
急いで清掃用具室に走り、モップ、雑巾、消毒液を抱えて病室に戻り、“清掃中”の立て看板を設置。他の患者や職員が滑らないように導線を確保した。
「その間にも看護師や医師たちが足早に通り過ぎて、『まだ終わらないのか』と無言の圧をかけてきました」
床の血はすでに乾きかけており、モップだけでは拭き取れなかったそうだ。
◆「ここ、まだ通れないの?」と声を荒げる看護師
「消毒液を撒いて、雑巾で擦る作業を繰り返しました。10分経っても滑りやすい状態は改善しなくて……周囲の視線と急かされる声がプレッシャーになっていました」
看護師が、「ここ、まだ通れないの?」と声を荒げることもあったという。小出さんは、「申し訳ありません、あと少しで終わります」とだけ返し、必死に手を動かした。
20分、30分と時間が過ぎ、途中で雑巾を交換。乾拭きに切り替えた頃、ようやく血の跡が薄まりはじめた。
「仕上げにもう1度消毒液を撒いて、滑り止めの確認をしてから立て看板を片づけました。結局、作業は40分ほどかかりました」
看板が撤去されてからすぐ、患者を乗せたストレッチャーがその場を通り過ぎていった。
「患者さんが最優先の現場なので、清掃を早く終わらせることは当然なんですが……。掃除が終わっても、誰からも声をかけられることはありませんでした」
現場に静けさが戻っていく様子をみて、小出さんは“自分の役割を果たし”て安堵した。
◆トイレに残されていた大量の“あるもの”
地元にある競馬場の清掃員として働いていた田中曜子さん(仮名・30代)。
「大量のお金を賭けて遊ぶ場所という性質上、普通の生活では出会うことのない人たちがいましたね」
レース開始前、ある男性客がトイレから出てくると、いつも「清掃員の全員がもれなくため息をつく」ことが通例になっていたという。
「やっぱりね……」
その客が使用したトイレには、“あるもの”が大量に残されているそうだ。
「その日は、成人向けの週刊誌が7〜8冊、DVDつきの雑誌が10冊ほどありました。彼は、清掃員の間では有名な“奇妙な癖のある人”だったんです」
朝一番にトイレの一角を占領し、“雑誌”を置き土産として放置していくという。年齢は20代くらいだが、その置き土産は“熟女もの”といわれるジャンルだった。
また、トイレにまつわる出来事は他にもあったそうで……。
◆清掃員にラブレター?
「ほうきやスクレイパー、洗剤などを運ぶカートがあるんですが、使用しないときはトイレの専用スペースにしまってあります」
専用スペースはトイレの奥にあるため、お客さんも開けることはできるが、“そんな人はまずいない”という。しかしある日、珍事が起こった。
「ゴミをまとめようと扉を開くと、カートの上にお昼まではなかった“小さな紙”が置かれていました」
田中さんがその紙を見てみると……。
“掃除をするあなたに一目惚れしちゃいました(ハート)。僕に電話ください(ハート)”
と書かれていた。しかも、何気なくその紙を裏返すと……。
“〇月×日 △賞 第2レース単勝複式”
「馬券をラブレターにするな!と思いましたね。当然、連絡することはありませんでした」
ちなみに、レース後には負け馬券が巻かれる光景を目にするが、それらの馬券の片付けもしていたのかを田中さんに聞いた。
「観戦の間に、細いモップとちりとりでかき集めて片づけていましたね。レース場、室内の観戦ルームなど、中には、トイレの隅や窓際といった“片づけにくい場所”に置いていく人もいました」
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。