「Apple Intelligence」の日本語解禁で“スマホのAI競争”が激化 Android陣営とは何が違うのか

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2025年04月05日 09:21  ITmedia Mobile

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Apple Intelligenceの日本語対応が、4月1日に始まった。写真は、機能の1つであるVisual Intelligenceで、記事を要約しているところ

 4月1日に、Apple Intelligenceの日本語版がついにスタートした。同機能はiPhone、iPad、Macにまたがって展開されるものだが、iPhoneの場合は、同日から配信を開始した「iOS 18.4」を対象のiPhoneにインストールすると利用可能になる。「iPhone 16e」を含むiPhone 16シリーズ5機種の他、メモリが多い「iPhone 15 Pro」と「iPhone 15 Pro Max」もその対象に含まれている。


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 Apple Intelligenceは、チャットbot型の生成AIサービスとは異なり、iPhoneやiPad、Macのユーザーインタフェースに深く組み込まれており、さまざまなアプリから自然に呼び出せるのが魅力だ。Appleが社是として掲げるプライバシー重視も徹底しており、オンデバイスとセキュアなクラウドをハイブリッドで利用する。一方で、AIを端末に深く組み込む動きにはAndroid勢も対抗。スマホの新たな競争軸になりつつある。


●OSやアプリに深く組み込まれたApple Intelligence、チャット型とは一線を画す


 Appleは、1日にiOS 18.4の配信を開始した。これにより、Apple Intelligenceが日本語環境で利用できるようになっている。同機能に対応することを売りにしているiPhone 16シリーズは「Apple Intelligenceの設計された史上初のiPhone」をうたう一方で、これまでは英語だけに機能が限定されていた。地域設定も当初は米国への変更が必須になっており、日本で日常利用するハードルは非常に高く、実用性も低かった。


 その意味では、iOS 18.4の登場で、ついにiPhone 16シリーズが“真の実力”を発揮するときが来たといえる。2月に発売されたばかりの廉価版iPhone 16ことiPhone 16eも、その価値が高まることになる。生成AIというと、ChatGPTやGeminiのように、対話型かつチャット形式で文章や画像を生み出すようなものが頭に浮かぶ向きもあるだろう。一方で、Apple Intelligenceはそれらとは大きく方向性が異なる。


 どちらかといえば、iPhoneの操作をより簡便しつつ、氾濫する情報を自動で整理してくれるためのツールという色合いが濃い。この目的を達成するため、Apple IntelligenceやiOSの至るところに組み込まれており、必要なときに呼び出すことが可能だ。文章のトーンを変えたり、文章を生成したりする際に活用する「作文ツール」は、その代表例といえる。


 作文ツールという名称だが、同機能はアプリとして呼び出すのではなく、文章作成が必要な各アプリに組み込まれている。例えば、「メール」ではキーボードの上に作文ツールのボタンが表示される。これを押すと、メールアプリに重なる形で作文ツールが起動。書いた文章のテイストを変えるといったことができる他、ChatGPTと連携し、メールの本文執筆を生成AIに委ねることも可能だ。


 フリック入力で快適に文字が打てるとはいえ、タッチパネルで長文を入力するのはやはり骨が折れる。作文ツールを使えば、簡単な指示(プロンプト)を出すだけで、きちんとした文面を考えてくれる。送られてきたメールを踏まえた返信を書くといったこともできる。ChatGPTが書くなら、最初からそれを使えばいいのでは……と思われるかもしれないが、メールから直接呼び出せて、かつワンタッチで文面を本文欄に反映できるのはApple Intelligenceならでは。生成AIをUIに溶け込ませている利点だ。


 同様に、「メモ」や「Pages」といったアプリからも、ワンタッチで作文ツールを呼び出せる。サードパーティーが開発したアプリでも呼び出せるため、メールではなくGmailを使っていたり、「メッセージ」の代わりにLINEでメッセージを送ったりしたいときにも便利だ。FacebookのMessengerのように、作文ツールの選択肢が出なかったアプリもあるため、全てというわけではないようだが、アプリを問わず、シームレスに活用できる使い勝手は、プラットフォームを手掛けているAppleだからこそ実現できたことといえる。


●直感的に使える画像生成、絵文字を作れる「ジェン文字」も


 画像生成には、「Image Playground」というアプリが用意されたが、この機能もメモアプリやメッセージアプリなどに組み込まれている。メモアプリでは、手書きでサッと描いた下書きを元にイラストを生成する、「画像マジックワンド」を利用できる。下書きの構図を参考にしながら、テキストで補うことで目的のイラストを生成しやすいUIが採用されている。


 メッセージは「ジェン文字」という形で応用された。これは、生成AIを意味する「Generative」と「絵文字」を掛け合わせたAppleの造語で、文字通り、画像生成機能で新規の絵文字を作る機能だ。作った文字はフォントではなく、あくまで画像だが、絵文字キーボードから呼び出せる。また、メッセージやメールアプリの本文に貼ると、フォントと同サイズになって絵文字のように扱うことが可能だ。画像生成機能をそれとして提供するのではなく、用途に合わせてアプリ内に組み込んでいる点は、作文ツールとの共通点だ。


 生成AIになじみのないユーザーに使いやすよう、UIも工夫されている。上記のImage Playgroundは、それが顕著だ。生成AIの画像生成というと、複雑な指示を組み合わせるプロンプトエンジニアリングがおなじみだが、Image Playgroundはあらかじめ提示されたキーワードをタップするだけ。写真をもとに、顔のイラストを作る機能も用意されている。


 他にも、メールやブラウザに組み込まれた要約機能や、「写真」アプリの文章を理解できる素早い検索、会話の文脈を理解できるようになったSiriなど、Apple Intelligenceが適用される範囲は多岐にわたる。いずれも、それ単体で存在するものではなく、既存の機能やアプリを生成AIでブラッシュアップするものに仕上げられており、ユーザーが構えることなく向き合うことができる。


●Android勢もAI対応を推進、Apple Intelligence的なOS組み込み型も


 一方で、既存のアプリやサービスに生成AIを組み込み、使い勝手を高めるのはAppleの専売特許ではない。Googleも、AndroidにオンデバイスAIモデルのGemini Nanoを用意している他、Gmailやカレンダーなどの純正アプリを続々とGeminiに対応させている。Gmailであれば、Geminiを呼び出し、文章を考えてもらったらそのままそれをコピー&ペーストできるといった具合で、アプリ内に生成AIが統合されている。


 また、Googleが用意したAIモデルや自社/他社のAIモデルを組み合わせて、自らのサービスに仕立て上げるメーカーも徐々に増えている。代表的なのが、AndroidをベースにしたOne UIに「Galaxy AI」を組み込んだ、サムスン電子だ。同社は2024年4月に発売されたGalaxy S24シリーズからGalaxy AIの搭載を始め、ハイエンドモデルを中心に、過去の端末にもアップデートをかけている。


 2月に発売されたGalaxy S25シリーズでは、Galaxy AIのUIもブラッシュアップしており、Apple Intelligenceの作文ツールに近い「AIライティングツール」などが提供されている。文脈を理解する検索機能や、「Samsung Notes」で下書きからイラストを生成する機能なども用意。多言語対応もAppleより早く、2024年の登場時からいきなり日本語が利用できていた。


 サムスン電子は、言語対応の早さがAI対応の武器になると考えている節がある。日本では、Galaxy AIの投入に合わせて、家電やディスプレイ、半導体など、主にハードウェアの研究・開発を行ってきたサムスン日本研究所に、AI開発部隊を発足。AIの日本語対応の開発を中国・北京から機能を移管し、クオリティーの底上げを行っている。同研究所でMobile Solution Lab Artificial Intelligence Part長を務める赤迫貴行氏も、「多言語対応は強みになっている」と語る。


 さらに、Galaxy S25シリーズではGeminiがカレンダー登録やメッセージ送信といったタスクをこなせるようになった。対応しているアプリは限定されるが、Galaxyシリーズに内蔵されるSamsung Notesや、サムスン自身がカスタマイズを施したカレンダーアプリもこれに対応する。エージェント的に振る舞うAIは、本連載でも取り上げたように、スペイン・バルセロナで開催されたMWC Barcelona 2025でも多数のメーカーが取り組んでおり、今後のトレンドになることは確実だ。


●AIエージェント化ではAndroidが一歩リード、今後の競争軸になるか


 話をApple Intelligenceに戻すと、こうしたところに踏み込めていないのが、同機能の弱点といえる。実は2024年6月に開催されたWWDCでは、ホーム画面でSiriに写真の検索を頼み、それを加工したあとメモアプリのメモに添付するといった一連の動作をSiriに任せられる機能がアピールされていた。ところが、ふたを開けてみると、Apple Intelligenceにその機能は実装されていなかった。日本語版も、同様だ。


 また、パーソナルコンテクスト(個人の文脈)を認識する機能にも未対応だ。これによって、写真に保存していた免許証などの番号を覚えてWeb上のフォームに自動で入力したり、メッセージからフライト情報を読み取って、実際の情報をすり合わせた上で出発する時間を提案したりということが可能になるはずだった。個人情報やアプリを操るAIエージェントへの進化は、競合に比べて後れを取っている。


 とはいえ、スマホに搭載されるアシスタントのエージェント化は、まだ始まったばかり。Geminiも、対応アプリはまだかなり限定されており、実用的に使える場面は非常に少ない。現時点でSiriの進化が遅れているからといって、雌雄を決するほどの差になるとは考えづらい。一方で状況を俯瞰(ふかん)すると、AI機能がスマホの差別化や競争軸の1つになりつつあることも事実だ。


 懐疑的な見方もある点には注意が必要だが、AIスマホがユーザーの買い替えを促進していることを示唆するデータも出ている。中古スマホ事業などを手掛ける米Assurantのプレジデント(Global Connected Living & International部門)、ビジュ・ナイア氏は、「イノベーションを感じないことで、スマホをアップグレードしない傾向があり、結果として同じ機種を長く使い続ける人が増えていたが、(iPhone 16やGalaxy S24などの登場で)その傾向に変化が見られた」と語る。


 実際、Assurantの調査によると、2024年は下取りするスマホの台数が増えただけでなく、下取りしたスマホの使用年数が低下傾向にあるという。このデータはApple IntelligenceやGalaxy AIが機種変更の動機になり、比較的短い期間で買い替えるようになったことを示唆している。カメラの進化や単純な処理能力の向上が中心だったスマホに、新たな競争軸が生まれつつあるのは確かだ。Apple Intelligenceが登場したことにより、日本でも、その戦いの火ぶたが切られたといえる。



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