
カロリーナ・コストナー インタビュー後編(全2回)
鍵山優真(21歳/オリエンタルバイオ・中京大学)のコーチを務めているカロリーナ・コストナー氏。自身はかつて「イタリアの至宝」と呼ばれ、美しい演技で世界を魅了してきたスケーターだ。一方で、イタリアをひとりで背負う重圧に苦しんだ時期もあった。人生の深みを知るコストナー氏に、鍵山チームとの関わり、そして来季のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪への思いを語ってもらった。
【一緒にいると言葉がいらない瞬間がある】
ーー昨シーズンから鍵山チームにコーチとして加わりました。あらためて、依頼を受けた当初はどのようなお気持ちでしたか?
カロリーナ・コストナー(以下同) 私にコーチの依頼があった時はとても驚きました。一方で、振付師ローリー・ニコルのお手伝いをしていた私にとっては、長年求めてきた、優秀で指導しがいのある選手からの依頼だったので、とてもうれしい気持ちでした。
2019年頃から、ローリーが若い選手に振り付けをする時に、橋渡しの役としてお手伝いをしていたのです。それは私が選手時代の経験を踏まえて、選手の気持ちを理解しながら、演技へのアプローチをアドバイスできるからです。選手がどんな気持ちで試合に臨むのか、どんな気持ちでそのプログラムを演じるのか、シーズン途中でプログラムをブラッシュアップする過程でも、選手と振付師の間の橋渡しがあると、よりスムーズになります。
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ーー振り付けのアシスタントと、ひとりの選手にずっと帯同するコーチでは、立場が変わります。どんなことを経験されましたか?
この仕事を引き受けることで、本当に多くのことを学べました。むしろ優真のチームと毎日一緒にいることで、言葉がいらない瞬間があることも学びました。ただ隣にいて、「この人も同じような経験をしてきたんだ」ということが伝われば、選手が頑張れるという瞬間もあるものです。
ーー普段の練習では、演技力、技術面、そしてメンタル、どんな指導の役割を担当していますか?
私の役割は、スケーティング技術、プログラムの振り付け、演技力に関することがほとんどです。メンタル的なことは、彼自身が考え、悩み、解決しないと、それを本番で生かすことはできないからです。他人の言葉で、簡単にやる気が変わるようなものではないと思います。ただ、そのきっかけになるように、いろいろなことを話しかけています。
ーー技術的にはどんなことに取り組んできましたか?
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チームに参加させていただいて2年目。(父の)鍵山正和先生のお役に立てる、自分のフィードバックの方法がわかってきました。正和先生は、やはりジャンプの技術に優れていますし、そもそもスケーティング技術の指導も一流です。そこに私がいることで何ができるかといえば、もう少し細かい部分です。フィギュアスケートの滑りには、本当にさまざまな技術が含まれていて、すべてを自然につなげた時に、ひとつのニュアンスが生まれます。私が担当するのはその部分です。とても細かいことなので、目はたくさんあったほうがいい。正和先生と私と、4つの目で何も見落とさないように見守ります。
【今、子どもから大人に変化していく時期】
ーーメンタル面については、鍵山選手自身が考え、悩み、解決すべきとおっしゃっていましたが、コストナーさんの経験談などは話すのでしょうか?
私と優真は、まったく違う環境で育ちましたが、アスリートとしては共通の点が多くあります。プレッシャーを感じる場面、フラストレーションを抱くのはいつか、大会への準備の仕方、目標、決断の仕方。そういった面で似ている部分がたくさんあるので、優真の話を聞いたり、私の経験を話したりすることで、発見も共感もあります。結果的に役に立てばいいと思っています。
ーー全日本王者として戦っていくことには、重圧や責任感があると思います。カロリーナさんは長年、イタリアをひとりで背負ってきた存在。そういった意味で、ナショナルチャンピオンのプレッシャーの扱い方を、どう考えていますか?
プレッシャーへの対応は、本当にその人の性格や考え方によって違うので、国のチャンピオンはこうするべき、という定義はありません。一方で、プレッシャーに対処するためのメソッドがあることもたしかです。ただ、優真は今季に全日本王者になったばかりで、国を背負う責任感のようなものが生まれてくるのはまだ先だと思います。
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今季は、いい試合と悪い試合のアップダウンが激しかった分、フィードバックされるものがたくさんあります。どんな技術の時、どんな精神状態の時に、よかったのか悪かったのか。落ち着いて振り返ることで、全日本王者としてどんな戦い方をしたいのか、優真が気づくことができるでしょう。
ーー今季は、精神的に大きな成長になるシーズンだったということですね。
優真はまさに今、子どもから大人に変化していく時期です。優真は、技術面にしても、表現面にしても、自分で考えるようになってきました。成熟したスケーターになると、自分という存在感が生まれる。心が自然と「私はこんな存在、こういうことをやりたい」とアピールするようになる。その時に初めて責任感も生まれますし、表現面での深みも変わってくるのです。
優真は、非常に高度なテクニックを持つ、強靭なスケーターです。一方で、非常に創造的で芸術的な感情を持つスケーターとして育ってきています。今はまだ、この技術面と芸術面のバランスが取れていない時期なのです。
【ライバルを気にせず、自分を信じるだけでいい】
ーーコストナーさんは、2014年ソチ五輪ではそのバランスの領域に達しておられました。すばらしい演技で、銅メダルを獲得しました。
あの時の私の年齢は何歳だと思いますか? 27歳です(笑)。とてもとても長い年月でした。優真は21歳です。焦る必要はありません。
ーーあのソチ五輪の時に、コストナーさんが「無欲になれた」と話していたのが、とても印象深かったです。
欲が結果をたぐり寄せることはありません。若い頃は、ライバルのことも気になりますし、他人の意見も気になり、何を期待されているかにも敏感になります。自分自身がどうあるべきかより、他人と比較し、他人のマネをします。でも、大切なのは自分自身に目を向けることなんです。優真も、すでに自分自身に気持ちを集中させる時期になっています。自分の心だけに集中して、どんなスケーターになりたいのか、どんな人間になりたいのか、深く考えることで、ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を迎えてほしいと思います。
ーーライバルと比較してはいけないと言われながらも、イリア・マリニン選手がフリーで「7本の4回転」という異例の挑戦をしていることは、とても大きな話題になっています。一方で、昨年12月のGPファイナルでは回転不足が多く、フリーは鍵山選手のほうが首位という結果でした。ライバルであるマリニンの戦い方については、どのように考えていますか?
いつも話していますが、すべての試合がゼロからのスタートです。イリアが7本の4回転を跳ぶと宣言し、そして練習で成功させていたとしても、試合が終わるまで結果はわかりません。優真がやるべきは、イリアのことを気にすることではありません。滑っている間は、すべてのことを忘れて、ただベストを尽くせばいい。ノーミスの演技をしたいという欲望は完全に捨てて、ただ自分を信じるだけでいいのです。それが実行できた時に、自分が積み上げてきたものが、自然と体のなかから出てきます。GPファイナルのフリーで、イリアが7本の4回転を跳んでも、優真が1位になったのは、優真が無欲に滑ることができたからだと思います。
ーーイタリア・ミラノでの五輪開催となります。来季の選曲についてですが、イタリアのファンが喜ぶような選曲はあるでしょうか? たとえば、トリノ五輪で荒川静香さんは、プッチーニのオペラ『トゥーランドット』を演じて金メダルを獲得しました。
ふふふ。すでにいい計画はあります。でもまだ今は秘密です。楽しみにしていてください。
ーーありがとうございます。来季の鍵山選手が楽しみになってきました。
終わり
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<プロフィール>
カロリーナ・コストナー/1987年、イタリア・ボルツァーノ生まれ。2011年GPファイナル、2012年世界選手権などで優勝。冬季五輪には、2006年トリノ、2010年バンクーバー、2014年ソチ、2018年平昌の4大会連続で出場し、ソチ大会では銅メダルを獲得。2018年の世界選手権(トリノ)最後に競技から離れ、現在は振付師ローリー・ニコルのアシスタントや鍵山優真のコーチなどを務める。