パナソニックは、日本初の前面開放型「駅待合ブース」の実証実験を朝潮橋駅(大阪市)で開始した。大阪メトロと共同で、2月から9月まで実施する。
本実験では、扉のない開放空間でも冷暖房効果を維持しつつ、個室型の駅待合室に比べて奥行を約50%削減するなど、熱中症対策と混雑緩和の両立を目指している。背景と狙いを聞いた。
●開発の背景は「インバウンド」と「猛暑」
前面開放型の「駅待合ブース」を開発した背景には、人流の変化がある。大阪観光局によると、インバウンド(訪日客数)が過去最高を更新し、今後も増加が見込まれているという。
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そこで、大阪・関西万博会場の最寄り駅(夢洲駅)から3駅と近く、人流の増加が見込まれ、スペースも確保しやすいことから、大阪メトロ中央線の朝潮橋駅が実験場所に選ばれた。
また、気候変動により猛暑日の発生頻度が増加した影響も大きい。「屋外駅では安全上の観点から日傘を差せないため、熱中症対策が重要だ」と、開発を担当したパナソニック空質空調社の須藤良太さんは語る。
こうした状況の中、各鉄道会社も対策の必要性を認識しているが、ホームにある既存の個室型待合室は増加する人流により通行の妨げになるなど、課題も多い。実際に大阪メトロでも、大阪・関西万博による混雑が予想される中央線弁天町駅では、2025年1月から2026年3月末まで待合室とベンチの撤去を予定している。
●「ゾーニング気流」で冷暖房した空気を逃さない
パナソニックは、前面開放型の「駅待合ブース」を約1年かけて開発した。最大の特徴は、前面が開放されながらも冷暖房効果を維持できる点だ。パナソニックはこれを「AIRVEIL SPOT(エアベイルスポット)」と名付け、独自の気流制御技術によって実現した。
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通常は、前面が開放されていると空気が外に逃げてしまう。しかし、同社の「ゾーニング気流」と呼ばれる独自技術がその課題を解決した。
冬は足元から暖気を吹き出して中部に吸い込み、夏は上部から冷気を吹き出して中部に吸い込む構造で、空気を意図的に循環させ、外に逃げないよう包み込む気流設計となっている。
これにより、夏は暑さ指数を安全域に、冬は体感温度を快適領域に保つ効果が期待できるという。
人流が増加しても通行しやすいよう設備スペースも工夫している。従来の個室待合室と比較して、奥行きを約50%削減したことにより、限られたスペースでの導入も可能にした。
そのため、空間効率だけでなく、コスト面でも優位性がある。前面が開放されているため扉などの部材が不要となり、部材費は従来型の半分程度に抑えられる見込みだ。
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従来の個室型待合室は、扉の開閉が必要なため、荷物を持っている人や高齢者には不便であり、閉鎖空間ゆえの感染症リスクやセキュリティ上の懸念もあった。前面開放型であれば、これらの課題も解決できる。
●消費電力も従来型と同等レベルを維持
1席当たりの消費電力は、従来型と同等レベルを維持しているという。通常は、空気が外に逃げてしまうため空調機の運転量が多くなるが、最適な設計により運転量を抑えた。
開発段階では、快適性と省エネルギーの両立が難しかったという。「空調ユニットの吸い込みと吹き出しの位置関係や風量バランスを調整し、最も効率的な設計を見つけるのに苦労した」と須藤さんは振り返る。
また、鉄道に設備を設置した経験が少なかったため、大阪メトロからのフィードバックをもとに、安全面の課題にも対応した。不燃材料の使用や、運転士が利用者の様子を確認できるよう側面を見通せる設計にするなど、安全性を高める工夫を取り入れた。
実験開始から約1カ月が経過し、利用者からの反応も集まっている。「開放型であれば、感染症の不安もなく、扉の開け閉めもないため気軽に座ることができ、スムーズに電車へ乗れる」といった声が寄せられている。
今回の実験では、夏季と冬季の両方のデータを取得することが主な目的だ。パナソニックでは、実験終了後に結果を整理して実用化を進めながら、各鉄道会社への提案活動を予定している。
現在のシステムは4人用で設計されているが、将来的には複数台の設置や建築物への組み込みも視野に入れる。猛暑対策と駅の混雑対策を両立させる技術が、万博を控えた大阪だけでなく、各都心部のインフラとして導入される日も近いかもしれない。
(カワブチカズキ)
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